Re:006 思っていたより大きいような
強面おじさま上司が出てきた扉に、何やらパスコードを打ち込んでいく。
これからどこかの部屋に監禁でもされるんじゃないか。びくびくしながら扉が開くのを待った。
パスコードが通った音がして扉が開くかと思えば、機械のアームが伸びてきた。おじさまの顔の前に止まり何やらスキャンをし始めたようだ。網膜スキャンとかかな。
ピピッと音がしてアームが戻っていく。
「イセイ・コウノスケ」
『――認証シマシタ』
「同行者、認証前ゲスト一名追加」
『…………ゲスト確認。オ名前ヲドウゾ』
イセイさんがくいっと首で合図した。
「アイシャ・ユウです」
『――……――……認証シマシタ』
プシュッとエアダスターのような音がして、重そうな扉が開いた。
「こっちだ」
イセイさんは扉をくぐってスタスタ進んでいく。私も後を追って扉をくぐった。
「わぁ……」
扉の先に待っていたのは、かなりの広さの空間だった。
オフィスっぽい感じもあるのに、どこか近未来的に見えるのは、遠くまで見渡せるほどのフロアが続いていることや、壁や天井の流線的なデザインもあるだろう。白を基調とした色は通路と変わらないが、見たこともない植物や、宙に浮かぶように見えるランプが温かな色を発している。働いている人たちは人間のように見える人が多いが、それ以外の種族だろうと一目でわかる人たちもいる。そして窓の先には宇宙空間が広がっているのも見えた。それらを除けば、よくあるオフィスの光景……と言えなくもないのかもしれない。
「おーい、こっちだこっち」
「あ、すみません!」
思わず光景に見惚れて立ち止まってしまっていた。イセイさんはいつの間に上ったのか、階段の上から声をかけてきた。
横幅も踏み面も広い階段は、ゆるりとカーブを描いて上階へと続いていく。結構な段数があったはずなのに、思っていたよりも疲れを感じなかった。
階段の上のフロアはいくつかの部屋に分かれているようだった。階段を上がってすぐ左手、すりガラスの扉にはイセイさんの名前が書かれたプレートがつけられていた。
「さ、入ってくれ」
イセイさんが扉を開ける。
「ん!?」
扉の先は、思っていたよりも広かった。
思わず扉の外に出て、隣の扉との距離を確かめる。明らかに扉との間隔よりも部屋の中が広い。
「あー、そのうち慣れると思うから気にすんな。とりあえず座ってくれ」
「は、はい。すみません!」
イセイさんに促されて、ソファに腰を下ろした。応接用らしく部屋の中央にあるガラスのローテーブルと、それを挟むように黒い革張りのソファが鎮座している。高そうなんだよなぁ。座るの怖いんだけどなぁ。こういう時ってパイプ椅子とかそういうのだったり、オフィスチェアっぽい感じの椅子だと思ってたのに。
イセイさんは自分のデスクの引き出しから何やら書類を取り出した。
「新人なんて久しぶりだからよ。こっちもすっかり忘れてるんで、なんか不備あったらすまんな」
「いえ……」
いつの間に新しいものに変えたのか、イセイさんは新しい煙草に火をつける。
……けど、煙草の匂いは全然しない。ふぅー、と盛大に煙を吐いても、やはり煙草の匂いはしないし煙いとも思わない。
「ああ、これな。周りには何の影響もないんだと。見てるのも嫌なら…………控えるが」
「いえっ! 大丈夫です! 匂いも全然しませんし、煙草吸ってる人の仕草見るのは好きなのでっ!」
「……ほーん。そうかそうか」
余計なこと言ったな、と思った。
「まあそういうことなら普段通りにさせてもらうわ。そっちのほうが仕事も影響ないしな、助かるわ。煙見るのもイヤーみたいなやつがたまにいるからよ。影響なくても、なんか嫌なんだと」
「まあ……そういうタイプの人もいますよね」
ピピッと音が鳴って、イセイさんが「来た来た」と嬉しそうに言った。
イセイさんが左腕のスマートウォッチのようなものの画面をタップすると、目の前にスクリーンが現れた。
そこには私の履歴書のような画面、写真やSNSなど、なぜ私だと特定されたのかわからない画面が複数ウィンドウで表示されていた。
「え……なんで……!?」
イセイさんがすいすいと空中で手を動かすと、それに合わせて画面が切り替わる。某投稿サイトにアップしていた、同人誌のサンプル画像がちらりと見えて嫌な汗がふきだした。
「……ほんほん。確かに適正はありそうだな」
すっ、すっ、と顔色一つ変えずに私の資料(?)を流し読みしていく。
「おっ。白金バスケ好きだったのか。俺も本誌で読んでたわ。いやー、懐かしいねプラバス」
「そ、そそそ、そうなんですか~! 確かに面白かったですよね~」
「同人界隈でも盛り上がってたみたいだしなぁ」
――息が止まる。
死ぬほど二次創作していました。ハマっていました。プラバス。そんな不埒な歴史を一般人(?)男性に垣間見せてしまったことに勝手に罪悪感を持ってしまう。
「俺もネタで書いてたことあったなぁ。人足りないからって手伝ってた時だったけど。ま、いい経験になったよ」
な ん で す と 。
誰ですか、こんなイケおじにBLなんか書かせた猛者は! 教えて欲しい。そしてなぜイケおじに書かせたのか問い詰めたい。答えによっては友達になりたい。
「まー、しばらくBLとか成人向けとかは書かないと思うけど……なんか、これ書きたいとか希望ある?」
「えっ?」
「いやほら、希望があるなら聞いとかなきゃいけないからよ。会社的に」
「ああ、そうですよね……」
いや、会社的にって何????
「て、ここって――その……会社、なんですか?」
イセイさんは眉をぴくりと上げて、書類から私へ目を向けた。じろりと睨まれたかと思うと、それから盛大に溜息を吐いた。
「やっっっっっっっぱり何も説明してないのかよ、あのボンクラ」
イセイさんは煙草を灰皿に押し付けた。怒りを押し付けるようにそれはもう、何度も何度もぐりぐりと。
「ここがどこにあるかは知ってるな?」
「は、はい。宇宙……ですよね」
「そうだ。それで、俺たちがここで何をしてるのかは聞いてるか?」
「詳しくは……でも創作活動に関係あるとだけ……」
イセイさんは頭を抱えて、それからまた大きく溜息を吐いた。
「まあ、そこは話してるからヨシとするか……」
ピピッとイセイさんは宙に浮かんだモニターで何かを操作し始める。
そしてスマホの画面をスワイプするように手を動かすと、壁際にその画面が大きく表示された。
「これはウチのオフィスの映像だ。リアルタイムのな」
神様に見せられた映像とあまり変わりはない。映っている人たちはパソコンに向かってキーボードを叩いていた。ごく普通のオフィスの映像にも見える。
「ウチはここら辺一帯で創作社をしてる。『銀河シナリオセンダー太陽系支部』。これが俺たちの会社だ。やってることは地球で言う出版社に所属してる作家と変わらない」
「本当に会社だったんだ……」
「そうだ。ちなみに俺たちがいるのは漫画部門。『コミック:ギャラクティカ』って、銀河でもそれなりにデカいレーベルだ」
「そうなんですね……って、まさかそこに私が……?」
イセイさんはこくりと頷く。
「ここ何年も新人が来なくて、猫の手でも借りたいレベルだったんだよ。そこに来たのが、えー……合砂優、お前さんだ」
私の履歴書をちらりと見てイセイさんが私の名前を呼んだ。
「お前さんには、俺たちと一緒に面白い原作を作る手伝いをしてもらう」




