Re:015 語尾に草とか生えてるような
「こいつはウチのパッケージング担当――あー……エンジニアみたいなもんだな」
「ども。ミモリです。以後よしなに」
ほぼ表情が変わらないところはフラクトさんに少し似ている気がする。
「ミモリにはパッケージ前の最終チェックもしてもらっててな。で、最近社内コンペがあってそれの対応もしてもらってたんだが……」
「イセイ局長、俺を働かせすぎっすわー」
「すまんすまん。……で、お前らから見てこれはどう思う?」
フラクトさんと一緒にミモリさんの画面を覗き込む。
そこには文字列が映っていた。企画書のようにも見える。普通の文章のようだ。
異世界転生、逆転、ざまぁ、愛され悪役令嬢――
ちらっと見えた文面だけでも、お腹がいっぱいになる感じだ。
「うーん……?」
これを見てどう思うと言われてもな。正直なところを言えば、最近の流行の設定とでも言うべきだろうか。
簡単なあらすじが箇条書きで一枚にまとめられているが、正直見慣れたストーリー展開で目新しさはほぼ感じない。安定した面白さはあるんだろうから、あとはどんな演出で作品が描かれていくか次第なんだろうか。
「別に粗探しをしろってことじゃない。気になるところとか、率直な感想を聞きたいんだ」
イセイさんの言葉にミモリさんがウンウン頷く。動作はすごく感情がこもってそうなのに、表情にはちっとも現れていないのがすごい。
「正直似たようなのを見すぎてて、感覚がマヒしてきてる感覚なんですよ。なんで、俺らとしても新鮮な目で見てもらえると助かるっていうか」
「だよなぁ、わかるわぁ」
イセイさんも力強く頷く。フラクトさんとミモリさんを見てると、イセイさんの表情が少し変わるだけでオーバーリアクションのように見えてくるから不思議だ。
「フラクトはどうだ?」
「……………………そうですね、最近売れ筋のテンプレートをしっかりと組み込んだものかと思います。…………やや、他作品との差別化が弱いようにも思いますが、こういったものが好まれている傾向もあって作品も増大しているため、あえてひねらずテンプレート通りの流れにするというのはアリかと推測します」
フラクトさんが淡々と述べていく。フラクトさんが例に挙げたように、最近は確かにそういったものが好まれている傾向にある。コミカライズされるものも、新しく投稿されていくものも。アニメになるものもそういうものが増えてきているのも事実で、安定した面白さというものはある。やっぱりみんな、ハッピーエンドが好きなのだ。
ちらりとイセイさんがこちらを見て「お前さんはどうだ?」とやわらかい口調で聞いてくる。
「私もこういう話は好きです。安定してますし」
――――でも。
イセイさんも、ミモリさんも――というよりも、たぶんここにいる誰もがそんなありきたりな回答を求めていない気がした。
「好き……ではあるんですけど、正直に言うと最近これ系統ばっかりでちょっと飽きてきてます……」
シン……と静かになるフロア。イセイさんたちがこちらをじっと見つめてくる。それだけでなく、書類をまとめ直していた先輩たちまでもが手を止めて私を凝視していた。
さすがにまずったかな……。
「そうだよね!? やっぱ、多いよね!?」
「ほらぁ、だから言ったじゃん! 多すぎて飽きるよって! 差別化どうすんのって! 丸投げしすぎるのは無責任じゃん? って!!」
少しの沈黙後、先輩たちがまたきゃあきゃあ騒ぎ出す。
「ですよね。正直俺も思いました。というわけで、ボツでいいっすか? いいっすよねイセイ局長?」
「許す。ボツれ」
「……了~」
ミモリさんがキーボードで何かを打ち込む。
いくつかの文字列を打ち込んだ後エンターを叩くと、画面に『DELETE』の文字が出て企画書がサラサラと砂のように消えていった。
「……流行のテンプレートとしての要項は満たしていたと自分は思うのですが」
「……テンプレでも面白いのはあるんだよ、もちろんな」
イセイさんがフラクトさんの肩をポンポンと叩いた。
「ただ、今回のは差別化が出来ていなかったから、丸投げしたところでありきたりな程度にしか育たなかったと思うんすよね」
「…………なるほど。確かにテンプレートとして流行の要素は詰め込まれていましたが、それ以外の独自性を比較すると弱いですね……理解しました」
ミモリさんがフラクトさんに説明する。淡々としている様子はまるでAI同士の会話を聞いているような気がしてくる。
「やっぱ全社でコンペすると精度下がるよなぁ……」
「わかります~! こっちとしてはどう差別化してくか! ってところが力の見せどころなのに、肝心のところがないなんて~!」
「もうちょっとオリジナリティ欲しいですよね!」
「ぶっちゃけ、そろそろ違うの書きたいです……」
先輩たちが本音であれこれぶちまける。わかる。私も首がもげるほど頷きたい。
心の中でブンブンと頷いていると、イセイさんが「今みたいな感じでな」と笑った。
「ここで必要なのは率直で客観的な意見なんだ。作ってる側にいると、作ってる側の視点に偏りがちにもなる。だけど俺たちは読者に届けないといけない。だからこそ、読者側のことも考えられる視点ってのは大事なんだ」
良いこと言ったなーみたいな顔でイセイさんが言う。
「なーにかっこつけてんですか局長~?」
「待って、今のセリフなんかどっかで見た気がする……あー、どこだっけ!」
「え、なんすか。イセイ局長、カッコつけてセリフ引用っすか。引用元どこっすか」
「うるせぇなお前ら」
きゃあきゃあ軽口でやりとりしている様子は、仲の良い先生と生徒のよう。高校の時にそんな感じの新任の先生がいたっけな。今でも元気に教師してるのかな。
「……ともかく。今回見せたのはボツ案だったが、あんな感じで企画書としてまとめてもらうこともある。フォーマットとか書き方とかは追々な。上がってきた案をある程度振り分けることもしてもらう予定だ」
「それって、今みたいに残すか残さないかってことですか?」
小説の公募の下読みバイトのように、どれを残してどれを落とすか。今の私に委ねられるのは正直言えば荷が重い。
「いや、そこまでじゃないな。あくまでもジャンルごとに分けてもらうくらいだな。どれを落とすかは一人じゃなくチームで決める。誰か一人に責任を押し付けることはないから、そこは安心してくれ」
「わかりました」
イセイさんはすごいな。
私が気になっていることがわかっているような回答をくれる。
「じゃ、次は実際に通った案がどうなるのか見てみるか?」
「見たいです!」
私が前のめりで言うと、イセイさんは嬉しそうにミモリさんに合図をする。
「まー、見てても面白くはないと思うんですけどね」
ミモリさんは別のファイルを開いてまたコマンドを打ち込み始めた。さっきも思ったが、文章作成ソフトのように見えているのはプレビュー画面で、実際には何かしらのプログラムを書き込んでいるようだった。右側のウィンドウに文字列を書き込んでエンターを押す。
パッと先ほどのようにプレビュー画面に企画書のような画面が表示される。
プレビュー画面を目視でチェックし、内容に相違がないかイセイさんとダブルチェックをして、またコマンドを打ち込んだ。
「じゃ、コーディングしていきますね」
ミモリさんがエンターを叩くと、画面がパッと切り替わった。
パタ、パタパタ、と企画書が折り紙のように半分に畳まれていく。あっという間に小さくなって、見えなくなる。
それと同時に画面に表示されたのは、見慣れたローディング画面。『進行中……』と%表示が出て、ゆっくりと数字が進んでいく。
「はい。あとは完了するまで待つだけです」
あ、本当にこれだけなんだ。
「ね。面白くなかったでしょ?」
真顔なのに語尾に(笑)が付いているようにしか聞こえない声で、ミモリさんは言った。




