Re:011 早押ししないといけないような
3Dっぽく影を付けただけでは飽き足らず、アーチ状に変形させた虹色のグラデーションのタイトル。
吹き出しっぽく使われているウニフラみたいな星型図形。その中に収める気すら感じないはみ出したテキスト。あの図形は星というか何というかって感じはするけど。
なぜか吹き出しの外に小さめに書かれている『ようこそ!』。
イラストやアイコンではなく、図形で作ったんだろうなとわかるスマイルマーク。
スペース連打で揃えたんだろう、ちょっとずれた『~地球編~』の位置。
右下に添えられた犬の写真(なんで?)。
社外秘ではなく『地球人限定』と押された印のようなものがうっすら見える。
思わずむせてしまった。
一度目を瞑り、ふぅ、とゆっくり深呼吸してもう一度目を開ける。
うん。見間違いでも夢でもないな。
目の前に表示されたのは、それはそれはもうびっくりするほどのクソダサ資料でした。
「大丈夫ですか?」
「はい、大丈夫です。失礼しました……」
「……それでは、進めていきますね」
このまま行くんだ。
相変わらず表情が変わらないまま、フラクトさんは次のページを表示する。
――デデン!!
ページが変わった瞬間、デカい音でSEが鳴った。それでは次の問題です、のやつ。
また吹き出しそうになったのをなんとか堪える。ずるいってこれ。新手の拷問?
「……まず自分たちの仕事、仕組みについて説明します。センダー、という職業に関しまして、イセイ局長から説明があったかとは思われますが……簡単に説明しますと、原作の種となるアイディアを送り、送った先で展開されるように手助けをする仕事です。こちらの図をご覧ください」
デンッ!!
「……こちらのように、まずはセンダーが大元のアイディアを選別します。自分たちの場合はシナリオ担当なので、大まかな話の流れを作り、送信に耐える形に整えていきます」
図っていうか、テキストと矢印がギチギチに並んでいる。テキストのサイズも矢印の大きさや長さもバラバラだ。前のページはレインボーで目がチカチカしたのに、今度は青系統で統一されている。色はいいんだけど矢印もテキストも似た色だから、ちょっと見づらい。
「通常送信の場合、大抵は大気圏で燃え尽きます。なので残したいものほど中央に来るように配置しなければなりません」
シナリオ作成ではまず聞かない単語が飛び交う。燃え尽きるってなんだろうか。どっちかって言うと作者のほうが燃え尽きてること多い気がしないでもないんだけど。
「実際の配置方法などは後ほど説明します。現地で実物を見てもらうほうが理解は早いと思いますので」
「わかりました」
見てどうにかなる……ってことは、おそらく物理的に何かするんだろうな。まあ梱包作業みたいなものなのかもしれない。
「……複数の方法がありますが、アイディアの送信先を設定することもあります」
「送り先……郵送先とか宅配先って感じでしょうか?」
「…………そうですね、その認識で相違ありません。自分たちは送信設定をするまでが業務です。一部例外はありますが実際に送信する作業は別部署の管轄になります。」
なるほど。配達する業者に引き渡すところまでが私たちの担当、と。
大気圏で燃え尽きるあたり、業者が現地まで届けるタイプではなく、業者に頼むとロケットに乗せて飛ばしてくれる……みたいな感じなのかな。それで上手いこと狙ったところに届けられるのか謎だけど……まあ既にいろいろ理解できないことも多いから、謎技術でいい感じにできるのかもしれない。
「無事届くとこちらに完了通知が来ます」
「通知……?」
「はい。先ほどの別部署から連絡が来ます。サインを求められる場合がありますので、その際はご対応をお願いします。…………あなたはまだゲスト扱いでIDが発行されていないようですが、イセイ局長が対応してくだると思います。その際にサインの登録も行うと思いますので、今のうちに考えておいてください」
「わ、わかりました」
「サインは登録されている本人だとわかるものであれば、名前以外でも問題ありません」
「そうなんですか?」
「はい。あなたの国の言葉でも、それ以外の言語でも問題ありません。…………イラストセンダーチームですと簡単なイラストを設定されている方もいらっしゃいます」
「なるほど……」
わかるようでわからないような、わからないようでわかるような。
時々引っかかる内容はあるけれど、あまりにも淡々と説明していくからそういうもんなのかと納得してしまう。フラクトさんの声がいい感じに落ち着くことも大きいかもしれない。
「送信した後どのようにアイディアが発芽し開花するかに関しては説明が難しいため、イセイ局長もしくは他センダーへの説明請求をお願いいたします」
「は、はい」
「…………まあ、最近はそこまで発芽するタイミングも多くありませんので、送信後のものに関しては実際にどなたかの作業を見学するのが早いかと思います。…………それではここまでで何かご質問は?」
変わらない無表情でフラクトさんがじっと見つめてくる。
ご質問は、と言われてもなぁ。
ぶっちゃけ、実際にやってみなきゃわからないというところはあるんだけど、これはどの業務でも一緒だよね。
「えぇと、私たちがやる作業としては、元ネタになる要素を拾って、アイディアをいい感じのプロットに整えて提出――送信する……ってことであってますか」
「……問題ないです」
フラクトさんはこくりと頷く。
「…………今回は理解の早い方で助かります」
「え?」
「……失礼。失言でした」
表情は変えないままだったけど、フラクトさんはふいっと視線を外した。今まで一度も見ていなかったのに、映し出された画面をじっと見つめていた。
「……………………問題なければ次の説明に入りますが、他に何かご質問は?」
「いえ、今は特にないので……大丈夫です!」
「わかりました。では次に…………こちらの資料をご覧ください」
――デデン!!
新しい資料とともにまたクソデカSEが部屋に響いて、今後は我慢できずに吹き出してしまった。




