EP1:私の日常が崩れ去る日(2)
△注意
本作品は、女性主人公の「ロボット作品」です。
最初から最後まで百合・ガールズラブがたっぷりな作品ではありません。
突如、魔導機兵が爆発する異常事態。
その原因に誰よりも早く気付いたのは、フレナリア騎士団団長であった。
「全員、今すぐ武器を持って戻れぇ!」
魔導機兵のコックピット。
巨大な金属を巨人を動かすための機械が敷き詰められたその操縦席のモニターに映ったそれを見て、彼はひどく慌てながら部下たちに指示を出す。
そこに映っていたのは、遺跡群の奥から迫りくる魔導機兵の軍勢だった。
一糸乱れぬ行進で大地を揺るがしながら、ヴェルダントへと近付いてくる漆黒の機体たち。
騎士団の機体と違って、彼らの機体装甲は無駄が徹底的に排除され機械色がとても強い。
また、大砲を肩に背負う彼らには、黄、緑、青、白、黒のそれぞれ異なる色の花弁を持つ一輪の花――五色の大輪が刻まれている。
「グラギアドめ、何を考えている!」
グラギアド魔導帝国。
フレナリア聖国に隣接する国の一つである。
魔導帝国の名の通り、魔導機兵を始めとした「魔導技術」の研究が盛んに行われている。
「ここはフレナリアの領土だぞ!」
『総員、射撃準備!』
隊長機の命令を合図に、ヴェルダントへ向けて大砲を構える帝国の魔導機兵たち。
「フレナリアと戦争を始めようというのか!?」
『撃て!』
アルフィーズの機体を粉々にした光の弾丸が一斉に放たれる。
「全員、魔力シールドを展開し、防御体制!街を守れ!」
街と帝国兵の間に割って入るように一列に並ぶ騎士団の機体たち。
彼らは盾から魔力を一気に放出し、魔力の障壁を作り出す。
次の瞬間、魔力の砲弾が魔力の壁に激突。
魔力のぶつかり合いで稲光のような凄まじい閃光が生じる。
「クソっ、突破された!」
陣形が整い切らず、障壁に弱いところがいくつかあった。
いくつかの砲弾が障壁を突き破り、そのままヴェルダントへと降り注ぐ。
火の手が上がり、人々の悲鳴に包み込まれる街。
しかし、今に騎士団に救助に行ける余裕はない。
帝国の魔導機兵が地面を滑りながら、ものすごい速度で彼らの元へと迫ってきていたのだ。
***
帝国軍対騎士団の魔導機兵による白兵戦は、帝国軍の一方的な戦いだった。
騎士団の盾と帝国軍の銃、性能はどちらも互角。
しかし、機動力は圧倒的なまでに帝国軍が上回っていた。
帝国の最新機はドライアイスが滑るのと同じ要領で地面を滑り、圧倒的な移動速度と旋回性能で騎士団の機体の懐に潜り込むと、至近距離から不可避の砲撃を放つ。
「……」
しかし、ゼアフィーズにはその絶望的な状況も目に映らなかった。
彼女は粉々になった姉の機体だけを見つめ続ける。
――お姉ちゃんが死ぬはずありません……お姉ちゃんは私を置いていくなんてことは絶対しません……。
コックピットのある胴体は爆発で粉々になっている。
それでも、ゼアフィーズは「姉が生きている」と自分に言い聞かせる。
「……ア!ゼア!」
怒鳴りつけるようなコン=ノウァの大声にハッとする。
彼女の表情にはひどい焦りがにじみ出ていた。
「馬鹿野郎、しっかりしろ!」
コン=ノウァはゼアフィーズの手を掴むと、戦場とは反対方向に向かって走り出す。
「……コン=ノウァ、どこへ行くんですか?」
「この街はもうダメだ。だから、街の裏手にある遺跡で身を隠す」
「……隠れるって、お姉ちゃんを置いてですか?」
コン=ノウァの耳がピクリと震える。
そして、苦しそうに顔を歪めながらゼアフィーズを見つめる。
「あいつは死んだんだ」
「違います。お姉ちゃんは死んでません!」
ゼアフィーズはコン=ノウァの振りほどいてアルフィーズの元へと駆けていこうとする。
「この……馬鹿野郎!」
コン=ノウァはありったけの力でゼアフィーズの頬を打つ。
突然のことに、ゼアフィーズの頭の中は真っ白になる。
「現実を見ろ。お前があそこに行って何になる?ただ無駄死にするだけだ。そんなこと、あいつが望むと思うか?」
「……」
「行くぞ。今は自分が生き残ることだけ考えるんだ」
コン=ノウァはゼアフィーズの手を引いて、再び歩き始める。
「うう、お姉ちゃん……お姉ちゃん……」
瞳から大粒の涙を溢れさせて、静かに泣くゼアフィーズ。
もう姉は帰ってこない。
ゼアフィーズも本当は分かっていた。
けれど、戦争は無縁の中で生きてきた十五歳の子供に、この事実を受け止められるだけの心の余裕はなかった。
***
ヴェルダントの街の裏手には、手付かずの森が広がっている。
古代遺跡の上に形成された森は地形が入り組んでおり、遺跡が倒壊する危険性も高いことから、街の人間もあまり近付かない場所だ。
「ここだ」
森の中をしばらく進んで辿り着いたのは、木々に飲み込まれた小さな遺跡。
他の遺跡とは打って変わって、横に広くて縦には低い遺跡である。
「はあ、はあ……」
「ゼア、大丈夫か?」
「大丈夫です。ちょっと疲れただけですから……」
ゼアフィーズは額に滲む汗をぬぐいとると、少し無理矢理に笑みを作ってみせる。
「中に入ったら、まずは休憩だな」
「そうですね。行きましょう」
そうして、二人は遺跡の入り口へと歩を進める。
「……」
遺跡の中に入ろうとしたその時、コン=ノウァはふと立ち止まって振り返る。
その視線の先には、今もなお戦火が燃え広がるヴェルダントの街があった。
「ゼア、やっぱり私は立派なシスターなんかじゃないよ……」
修道服のポケットに入っていた十字架を握りしめながら、彼女は木々のざわめきでかき消されてしまうくらいの小さな声でそう呟く。
「……コン=ノウァ?」
「すまない。入ろうか」
笑みを浮かべて、何もなかったかのように前を歩き始めるコン=ノウァ。
不思議に思ったゼアフィーズは同じように振り返ってみる。
しかし、獣人でない彼女には砲撃の音が微かに聞こえるだけだった。
***
遺跡の内部はとても保存状態がよかった。
老朽化や植物の侵食が進んでいる箇所は出入り口などのごく一部で、奥に進めば進むほどその痕跡は薄くなっていく。
「ヴェルダント魔導研究所、第六研究区……?」
壁に埋め込まれた案内板。
劣化してほとんどの文字は消えているが、この遺跡の名前らしきものだけはかろうじて読むことができた。
「昔の人はここで魔導技術の研究をしていたのでしょうか?」
「だろうな。今となっては何の研究をしていたかは分からないが……」
「調査してないんですか?とてもきれいなので何か残っていそうなものですが」
「もちろん調査はしたさ。だが今と違って、古代文明はあらゆるものに魔導技術が使われている。当然、この建物もそうだ」
コン=ノウァはそう答えながら、研究所の壁を軽くノックする。
「魔導技術は魔力が動力源。つまり、ここを再稼働させて研究データを得るためには大量の魔力が必要なんだ」
魔導技術の使われた機械――魔導機を使うには魔力が必要。
それはこの世界の常識である。
「でも、昔の人も魔力量は私たちと変わらないはずですよね?なら、魔導機兵のように魔力を供給する魔導炉のようなものがあったのではないですか?」
「もちろんあるぞ。ほら、読みにくいが動力炉って書いてあるだろう?」
コン=ノウァは案内板の一番下、「B10」と書かれたところにある「魔力炉」の文字を指さす。
「え?場所が分かっているなら、あとは再稼働させればいいだけじゃないんですか?」
「その動力炉がある中枢区画に繋がる道が隔壁で封鎖されてるんだよ」
そこまで聞いて、ゼアフィーズはこの施設を再稼働させられない理由に気付く。
「隔壁は魔力炉の魔力で動くのに、肝心の魔力炉が停止している。つもり開けようがない?」
「そういうことだ」
「でも、どうしてそんなことに……?」
「隔壁を閉じた時にトラブルがあって魔力炉が止まったのかもしれないな。あるいは――」
コン=ノウァがそこまで言いかけた時だった。
突然、研究所の外が騒がしくなる。
バキバキバキ……ドスン……。
木々がへし折れ、地面に叩きつけられる音。
「この音は……魔力炉の駆動音!?それも、まっすぐこっちに向かってきて……帝国の奴らめ、だからヴェルダントを狙って来たのか!」
人間離れした聴力で外の様子をすぐさま把握するコン=ノウァ。
すると、何かを察した彼女は血相と変えて、声を荒げる。
「コン=ノウァ、どういうことですか?状況が分かりません!」
「……奴らの狙いは最初からここの研究資料が目的だったんだ」
***
数分後、帝国の魔導機兵たちが研究所を取り囲む。
『目的地に到着。敵機の確認』
『敵影は確認できません』
『同じく、敵影なし』
研究所に帝国兵の声が響き渡る。
『よし。制圧部隊、突入準備』
指示の直後、機体背部に大型コンテナを装備した魔導機兵がやってくる。
研究所に到着するや否や降ろされるコンテナ。
すると、その中から武装をした帝国兵士が次々と姿を現す。
『制圧部隊は速やかに内部の安全確保せよ。避難民がいた場合は即射殺で構わん。フレナリアの増援が来る前に何としても研究データを回収せよ』
次の瞬間、研究所内へと一斉に突入してくる帝国兵士たち。
研究所のそこかしこで彼らの足音が響き渡る。
「即射殺。投降の余地すらないのか……」
「コン=ノウァ、どうしましょう!?帝国兵が!」
「ゼア、走れ。奥に行くぞ!身を隠すんだ!」
ゼアフィーズはコン=ノウァの背中を追う。
しかし、少しすると息苦しさに襲われる。
「待、って……ください……コ、コン=ノウァ……っ!」
呼吸が浅くなる。
手足の感覚は少しずつ薄れていき、意識もぼんやりとし始める。
「はっ……はあっ……ああっ!?」
ゼアフィーズは床の小さな溝に足を引っかけ、そのまま倒れ込む。
――早く立たないと!
帝国兵士たちの足音は徐々に大きくなってきている。
ゼアフィーズは急いで立ち上がろうとするが、彼女の身体は疲労と酸欠で思うように動いてくれない。
「ゼア!」
ゼアフィーズの異変に気付き、コン=ノウァが慌てて引き返してくる。
「コン=ノウァ、ごめんなさい。私はもう走れません。だから、私を置いて逃げてください!コン=ノウァだけならきっと……」
「馬鹿なこと言ってんじゃねえよ!娘を見捨てて逃げる親がどこにいる!」
「でも……」
――帝国の人たちがもうすぐそこに!
「何だ?声がしたぞ」
二人がいる通路の突き当り、曲がり角になった通路の先から帝国兵士の声が響いてくる。
「ゼア、そこでじっとしてろ!」
コン=ノウァは勢いよく床を蹴って、通路の奥へと飛び込む。
「何だ!?ぐわっ!?」
「獣人だと!?どうしてこんなところに!?」
「人間モドキが我々に楯突くか!」
通路の奥から、帝国兵士たちの叫び声と銃撃音が響き渡る。
ゼアフィーズはその場から一歩も動くことができず、ただ蹲っていることしかできなかった。
「遺跡内で獣人と交戦中!二人やられた、至急応援を――」
不自然に途切れる兵士の声を最後にしんと静まり返る通路。
それから少しすると、コン=ノウァが戻ってくる。
彼女は毛皮から修道服まで全身真っ赤に染まっていた。
「血が……っ!今すぐ手当てしないと!」
「落ち着けって、返り血だよ。獣人の身体能力を舐めんな」
息を荒くさせながらも、ゼアフィーズに余裕の笑みを向けるコン=ノウァ。
彼女のその言葉を聞いて、ゼアフィーズは「よかった」と胸を撫でおろす。
「ゼア、今すぐここから離れるぞ。すぐに帝国の奴らが来る」
「コン=ノウァ。私、まだ……」
ゼアフィーズはまだ呼吸すら整え切れていない。
このまま走り出したとしても、すぐにまた動けなくなるのは明白だった。
「分かってる。だから、私が抱えてやるよ」
コン=ノウァはゼアフィーズの身体の隙間に手を滑り込ませると、軽々と持ち上げる。
直後、コン=ノウァの身体がぐらりと揺れて、大きく傾く。
「きゃあ!?」
踏ん張りが効かず、そのまま床に倒れ込むコン=ノウァ。
「痛た……コン=ノウァ、無茶しないでください」
「あはは……まだ抱えられると思ったんだけどな……大きくなったな……」
「コン=ノウァ?」
ゼアフィーズはコン=ノウァの様子がおかしいことに気付く。
先程と打って変わって、ひどく弱々しい声。
瞳はどこか虚ろで、焦点が合っていない。
ちょうどその時だった。
ゼアフィーズの指先に液体のようなものが触れる。
それは、妙に生温かく、ドロッとしていて――。
「これは血……?う、嘘っ!?どうして!?」
ゼアフィーズが気付いた時には、コン=ノウァの周り血の水たまりができていた。
「コン=ノウァの嘘つき……!何が返り血ですか!」
よくよく確認してみると、彼女の脇腹に刺し傷があった。
「嘘つきとはひどいな……返り血もついてたじゃないか……」
「喋らないでください!」
ゼアフィーズは自身の修道着を引きちぎり、コン=ノウァの傷口に押し当てる。
「だ、ダメ……血が止まらない……」
彼女の傷はあまりにも深すぎた。
帝国兵士が死の間際に振り下ろした、刃渡り十五センチ超の大型ナイフ。
その刃は肉に飲み込まれて見えなくなるほど深く突き刺さり、コン=ノウァの内臓を内側からズタズタにしていたのだ。
――このままでは、コン=ノウァが死んじゃう……!
最後まで読んでくださいありがとうございます。
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