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AIオリジネート―愛で世界は救えますか?―  作者: 夏黄ひまわり


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EP1:私の日常が崩れ去る日(1)

△注意

本作品は、女性主人公の「ロボット作品」です。

最初から最後まで百合・ガールズラブがたっぷりな作品ではありません。

 ――愛は人を、世界を救う。

 ――愛があるからこそ人が生きていけるのだ。


 それは聖フレナ教の教えの中の、とある一節である。

 この一節があったからこそ、ゼアフィーズは今生きていると言っても過言ではない。


「よし、準備完了です」


 地平線から太陽が顔を出して間もない早朝、ゼアフィーズは教会の食堂にいた。

 今日の朝食は野菜のキッシュ。

 もうすでに材料は準備してあり、あとはオーブンで焼くのみである。


「えいっ!」


 呼吸を整え、オーブンに向かってかざした手に力を込める。

 すると、彼女の身体の表面に光――魔力の道筋が現れ、かざした手に向かって流れていく。


 指先に集められた魔力はオーブンの中にある魔力タンクへと送られていく。


「あ、うっ!?」


 しばらくすると、突然ゼアフィーズの視界がグワンと歪む。

 立ち眩みを起こした途端、集中力は途切れ、指先に集まった魔力は霧散してしまう。


「またやっちゃいました……」


 破裂寸前まで膨張した血管に勢いよく血が流れるような激しい動機に襲われるゼアフィーズ。

 胸を押さえ、ゆっくりとした呼吸を繰り返すと、少しずつ動機は落ち着いていった。


「よし、もう一回」

「……もう一回、じゃないよ」


 突然の声と共にゼアフィーズの背後から手が伸びてくる。

 ゼアフィーズのものよりずっと滑らかに魔力が指先に流れ、あっという間に魔力タンクを満たす。


 ジジ……。


 魔力タンクに魔力が溜まるとオーブンが起動。

 タンクの魔力を動力に、過熱を始める。


「お姉ちゃん、いつの間に起きてきたんですか……!?」


 アルフィーズ。

 ゼアフィーズの実の姉である。


 妹に随分と背を抜かされているが、アルフィーズの方が姉である。

 間違っても妹ではない。


「そんなことよりさ……」

「きゃあっ!?」


 アルフィーズはニコニコと笑みを浮かべながら、ゼアフィーズの胸を修道服の上から鷲掴みにする。

 肉付きの悪い細身な身体に対してたくましく育ったその胸はアルフィーズの手から簡単に溢れ出してしまう。


「ゼア、無理しちゃダメって言ったよね?前に倒れちゃったこと、もう忘れちゃったのかな?」

「無理はしてません。倒れないように注意はして――ああっ!?お、お姉ちゃん!?」


 言い訳するな、と言わんばかりに、アルフィーズは胸を揉みしだく。

 パン生地をこね回すような乱暴な手つきに、ゼアフィーズは思わず声が漏れる。


「ほら、言うことあるでしょ?何だっけ?言わないと、その無駄に育った胸をずっと揉み続けるよ」

「無駄に育ったって、お姉ちゃんが事あるごとに揉むからですよね!?」

「揉んで大きくなるなら、私は街一の貧乳女から脱却してるよ!」


 アルフィーズは涙目で反論する。


「ほら、『身体が弱いのに無茶してごめんなさい』は?『お姉ちゃんより胸が大きくなってごめんなさい』は?」

「ご、ごめんなさい!無茶しませんから、もう許してください……!」

「乳の謝罪がない!」

「大きく育ってごめんなさい!」

「はい、よろしい!」


 姉のお仕置きから解放されると、そのままその場に崩れ落ちるゼアフィーズ。

 アルフィーズは修道服に埋もれて存在感皆無の胸をこれでもかと張って、やりきった感を出していた。


「おい、バカ娘ども。朝からうるさいぞ」

 

 溜め息混じりにそう言いながら、長身の修道女が部屋に入ってくる。

 彼女の身体は艶やかな毛皮に全身が覆われ、四肢には鉤爪がちらりと顔を覗かせる。

 そして、頭とお尻から狐を思わせる大きな耳と尻尾が生えている。


「コン=ノウァ!おはよう!」

「おはようございます」


 獣人と呼ばれる人種であるこの女性の名は、コン=ノウァ。

 ゼアフィーズたちが暮らす街――ヴェルダントの教会のシスターで、ゼアフィーズたち姉妹の育ての親である。

 

「アル、今日は騎士団で訓練じゃなかったのか?」

「そうだよ。昨日も言ったけど、今日は人生初の魔導機兵搭乗訓練があるよ!」

「それは耳が痛くなるくらい聞いた。で?それなら、何でお前はそんな恰好をしてるんだ?」

「恰好?」


 アルフィーズは首をかしげながら、自分の恰好を確認する。

 そして、自分の身に着けているものが修道着だと気付くと「ああっ!?」と大声を張り上げた。


「騎士団の制服じゃない!癖でいつもの着ちゃってた!」


 慌ただしく食堂から飛び出していくアルフィーズ。


「まったく、もう十七だってのに抜けてるというか……あんな調子で騎士団の奴らとはうまくやってるのか?」


 アルフィーズを見送りながら、コン=ノウァは重い溜息をつく。


 ヴェルダントが属するフレナリア聖国には、フレナリア騎士団という公的組織が治安維持を行っている。

 アルフィーズは来年の春からこの街の支部に入団する予定で、今彼女は現在訓練生として入団前の基礎訓練を受けている。

 

「正式入団前に何かやらかしそうで、心配ったらありゃしねえよ」

「……」

「ゼア?どうした?」

「何でもないです」

「……アルが騎士団に入るのは嫌か?」


 ゼアフィーズはその言葉にドキッとする。


「嫌ではないです。でも、騎士団に入れば、魔物と戦ったりしますよね。もし、大怪我したり……死んじゃったりしたら……」

「ヴェルダントは魔物も滅多にうろつかない平和な街だ。お前が心配してることにはならないよ」


 コン=ノウァはゼアフィーズを抱き寄せて、ゼアフィーズの細い身体をギュッと抱きしめる。


「私らはお前の母親とは違う。お前を置いてどこかに行くなんて絶対しねえよ」


 コン=ノウァは生えそろった牙をチラリと覗かせながら、ニッと笑いかける。


 ゼアフィーズとアルフィーズは捨て子だ。

 しかし、ゼアフィーズは幼すぎて当時のことを覚えていない。

 物心ついた時から、コン=ノウァが彼女の母親だった。


「ありがとう、コン=ノウァ。大好きです」


 力一杯抱きしめ返して、受け取った以上の愛情をコン=ノウァに伝える。


「コン=ノウァ。私もコン=ノウァみたいな立派なシスターになれるよう頑張ります」

「私は嫌われ者の獣人種だぜ?」

「関係ありません。獣人でも、私の目標はコン=ノウァです」


 ゼアフィーズの言葉にコン=ノウァの尻尾がブワッと逆立つ。

 そして、尻尾を忙しなく左右に振りながら、ゼアフィーズに愛情に満ちた眼差しを向ける。


「じゃあ、まずはその貧弱な身体を鍛え直さねえとな。朝食作るだけでふらついてちゃ、いつまで経っても見習いは卒業できねえぞ」

「が、頑張ります……」


 目標までは遠く、課題ばかり。

 でも、家族と過ごす平和な日々。


 この時のゼアフィーズはこれがいつまでも続くのだと信じきっていた。


 ***


 昼頃、午前中の仕事を終えたゼアフィーズとコン=ノウァは、街の商店街に来ていた。


「今日の買い出しはこれで終わりだな」


 買い物は週に一回。

 食料品やら日用品やらを一気に買い込むので、買い物が終わる頃にはいつも二人の両手は荷物で塞がってしまう。


「ゼア、そっちのよこせ」

「あっ!?」


 突然、コン=ノウァは尻尾を器用に使って、ゼアフィーズの荷物を奪い取る。


「返してください。まだ大丈夫です」

「腕、震えてたぞ。限界だったんだろ?」

「……」


 コン=ノウァの言う通り、ゼアフィーズの腕は限界に近かった。

 もし、あのままだったら道中で荷物を落っことしていたことだろう。



「限界なら言えって、いつも言ってるだろ?」

「ごめんなさい」


 結局、荷物のほとんどコン=ノウァに奪われ、ゼアフィーズの荷物はパンが詰まった紙袋一つになった。


「姉妹共々、頑固なのは困ったもんだな。誰に似たんだか」

「……」


 自分は無関係とばかりに溜め息をつくコン=ノウァ。


 ――どの口が言うんですか、もう……。


 ゼアフィーズはそう心の中で呟きながら、コン=ノウァの背中を静かに睨みつけた。


 ***


 その後、二人は街の公園へ向かった。

 丘の上に作られたこの公園は街を一望できる展望台が整備されている。


「いつ見ても、すごい景色ですね。昔の人は今よりずっとすごい技術を持っていたと思うと、感心してしまいます」


 ヴェルダントと隣接する平原、そのさらに奥には地面から天に向かって伸びる無数の建造物によって形作られた遺跡群が広がっていた。

 かつて栄華を極め滅亡した古代文明の、今なお残る痕跡の一つである。


 展望台から見たそれらは数センチほどの大きさしかない。

 しかし、実際は小さいものでも数百メートルと、ヴェルダントのどの建造物よりも大きい。


「”我々が目にできる遺物たちは、愛を忘れた者たちの悲しき歴史である”」


 コン=ノウァは古代文明の遺跡を眺めながら、聖書の一節を口にする。


「”忘れるなかれ。今、我々が生きるこの世界は大聖女の愛情深き愛の炎に守られた世界であること”」


 コン=ノウァに続いて、次の一節を暗唱するゼアフィーズ。


「「”忘れるなかれ。我々は決して再び破滅を導く光を灯してはならないこと”」」


 最後一節を言い終えると、ゼアフィーズとコン=ノウァは視線を交わして微笑み合う。

 まるで一つの大仕事を一緒にやり遂げた、そんな達成感と喜びをゼアフィーズは感じた。


 パンッ……!


 しばらくすると、街の上空に光が打ち上げられる。

 それはフレナリア騎士団が訓練の開始を知らせる合図だった。


「騎士団の合図だ。始まるぞ」

 

 直後、ゼアフィーズの足裏に規則的な微振動が伝わってくる。

 それは金属の身体を持つ巨人が平原を踏みしめる振動だった。


 巨人の名は「魔導機兵」。

 魔力操作で制御する巨大人型兵器である。


「騎士団の魔導機は相変わらず派手だな」


 騎士団の格納庫から、続々と姿を現す騎士の甲冑を思わせる赤い装甲をまとう機体たち。

 

 その手には、巨人サイズの槍と大楯が握られている。

 大盾には、赤い翼を抱く聖女――聖フレナ教のエンブレムが刻まれていた。


「お姉ちゃんはどれでしょうか?」

「あいつは……あれだな。大聖女様に誓ってやってもいい」

「そうですね。きっとあれです」


 ゼアフィーズとコン=ノウァは誰に言われずとも、アルフィーズの乗る機体がどれかを察した。

 なぜなら、一体だけ明らかにぎこちない動きをするものが混じっていたからだ。


「あーあ、ひどいな。フラフラじゃないか」

「武器が重いんじゃないですかね?バランスが 取りにくそうです」

「構えがおかしいんだよ。ほら、もっと脇を締めて腰を入れろ!」

「ああっ!倒れちゃいます……!」


 ああだこうだと言いながら、騎士団の訓練を見守るゼアフィーズとコン=ノウァ。

 そうして時間は過ぎていき、一時間ほどの短い訓練も終わりを迎える。


「終わった、やっと終わったぞ……」

「何事もなく終われてよかったです……」


 魔導機兵たちが格納庫へ帰っていく様子を眺めながら、安堵の溜め息をつくゼアフィーズとコン=ノウァ。

 二人はもう満身創痍といった感じで、その場に崩れ落ちる。


「あいつ、真面目に訓練受けてたのか?危なっかし過ぎて、見てるこっちは気が気じゃなかったぞ」

「本当ですよね。武器が手からスッポ抜けた時なんて、心臓が止まりかけました」


 ――武器が飛んでいったのが人のいない平原だったからよかったけど、もし街に向かってきてたら……。


 続きを考えるだけでも血の気がサーッと引いて、顔を真っ青になるゼアフィーズ。


「……さて、帰って仕事するか」

「はい」

『おお〜い!ゼア、コン=ノウァ!』


 二人が教会に帰ろうとしたその時、アルフィーズの声が街中に響き渡る。

 何事かと振り返ると、平原に一体、二人に向かって手を振る魔導機兵の姿があった。


『忙しいのに訓練を見に来てくれて、ありがとう!今日は失敗しちゃったけど、これから頑張って立派な騎士団の一員になるからーっ!』


 魔導機兵の拡声器を通したアルフィーズの声は街中に広がる。


「きっと、騎士団の許可をもらっての行動ですよね?」

「だと思いたいが……ああ、街の奴らに何て言われるか……」


 頭を抱えて呆れかえるコン=ノウァ。

 しかし、彼女の尻尾は忙しなく動いている。

 チラリと見える表情もどこか嬉しそうに見えた。


「コン=ノウァ。返事、一緒にしませんか?」

「……そうだな。無駄に騒がれても困るしな」


 仕方なさそうにしながら、アルフィーズへ手を振り返すコン=ノウァ。


 ――これから頑張ってください、お姉ちゃん。


 ゼアフィーズもコン=ノウァの側で手を振る。

 夢に向かって歩んでいく姉へ、精一杯の応援の気持ちを込めて。


 直後のことだ。


 アルフィーズが背を向ける遺跡群から、小さな光が瞬く。

 それは遺跡の隙間を縫いながら、高速でアルフィーズの機体へ迫っていき――。


 ドンッ。


 次の瞬間、光に接触した魔導機は突然爆発。

 爆発の光に飲み込まれ、機体はあっという間に粉々になる。


「えっ……?」


 あまりの突然のことに、ゼアフィーズは言葉を失う。


 地面に散らばる魔導機の破片。

 アルフィーズがいたはずのコックピット周辺はもはや元の形さえ保っていなかった。

最後まで読んでくださいありがとうございます。

もし面白いと感じてくださったら、ぜひ続きも手に取ってみてください。


感想やレビューをいただけたら、作者が歓喜の舞を踊ります。

<もちろん一言でも大歓迎!!> あなたの想いが詰まった言葉を、ぜひ感想欄・レビュー欄に刻んでいってください。


本作品は毎週金曜日18:00に定期更新しています。

詳しい情報は作者X(旧Twitter)で発信しています。

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