二人と一匹の迷宮散歩(改稿済)
上書きするはずのepを消してしまい……
新規ep更新通知として届いたと思いますが、先日周知していた既存epの改稿になります。
申し訳ございません。
それと、改稿前のエピソードを気に入っていた方にも、申し訳ないです。
地底湖のほとりで、私たちはしばらくの間、言葉もなく、ただ静かに足を水に浸していた。
天井から滴り落ちる水滴が、湖面に小さな波紋を作る音だけが、洞窟の中に優しく響いている。
ピヨはすっかりこの場所が気に入ったらしく、時折、気持ちよさそうに水浴びをしていた。
「……ふぅ。生き返るわね」
隣に座るエリスさんが、満足げな息を吐いた。
彼女の横顔は、戦闘中の険しさが嘘のように、穏やかだ。
「ええ。こんな場所があるなんて、知りませんでした」
「でしょう? ここは、私の秘密の場所だったのだけれど……まあ、あなたなら特別よ」
彼女はそう言って、悪戯っぽく笑う。
私もつられて、小さく笑みを返した。
「それにしても」
エリスさんは、水面を眺めながら、ぽつりと呟いた。
「あなたのそのグリフォン……ピヨ、だったかしら。本当に、よく懐いているのね。グリフォンは気性が荒くて、人に懐くなんて話、聞いたことがないわ」
「彼とは、少しだけ特別な出会い方をしましたので。ね、ピヨ」
私の言葉に、ピヨが「キェェ!」と嬉しそうに一声鳴く。
私たちがそんな軽口を叩き合っていると、ふと、エリスさんが真剣な顔でこちらを向いた。
「リィア」
彼女が、私の名を呼ぶ。その声は、静かだが、不思議なほどよく通った。
「あなた、この先どうするの? まさか、このまま一人で深層を目指すつもりじゃないでしょうね」
その問いは、もっともだった。
ゴールドランクとはいえ、ソロでの迷宮攻略は無謀を通り越して自殺行為だ。私自身、そのつもりはなかった。
ガルドランで情報を集め、必要とあらば信頼できる仲間を探す。それが、私の元々の計画だった。
「ええ。ひとまずは、第十五階層にあるという中継都市を目指すつもりです。そこで、今後のことを考えようかと」
「ガルドランか……。なら、ちょうどいいわ」
エリスさんは、湖面に視線を落としながら、少しだけ躊躇うように、しかしはっきりと続けた。
「……もし、あなたが良ければ。私と一緒に来てくれないかしら」
それは、あまりにも唐突な誘いだった。
私は、驚いて彼女の顔を見つめ返す。
「一緒に……ですか?」
「ええ。見ての通り、私は一人よ。あなたも一人。……それに、あなたのその剣技と知識、私の剣と経験。二人で組めば、この迷宮でもっと上を目指せるはずだわ」
彼女の言葉に、嘘はなかった。
悪い話ではない。むしろ、これ以上ないほどの提案だったかもしれない。
「お誘いは、光栄です。ですが……少しだけ、よろしいですか」
「何?」
「私の旅の目的は、ただ迷宮を攻略することではないんです。この迷宮にある、まだ誰も知らないことを見つけたい。なので……足手まといになるかもしれません」
私のその、どこか自分本位ともとれる言葉。
エリスさんは、きょとんとした顔で私を見つめ、やがて、楽しそうにふっと笑った。
「……あなた、本当に面白いことを言うのね。冒険者なんて、みんなそんなものでしょう?」
「え?」
「誰だって、自分の目的のために迷宮に潜るのよ。金のため、名声のため……あるいは、あなたみたいに、まだ見ぬ何かを求めてね。目的が違うからこそ、組む意味があるんじゃないかしら」
彼女のその、あまりにもあっけらかんとした言葉に、私は少しだけ、意表を突かれた。
(……そう、ですね。そうかもしれません)
「どうかしら? 少なくとも、ガルドランまでは。退屈はさせない、と約束するわ」
彼女はそう言って、悪戯っぽく笑いながら、私に手を差し出した。
私は、その手を見つめ、そして、これまでで一番素直な笑顔で、その手を握り返した。
「決まりね。じゃあ、これからはよろしく、リィア」
「ええ。……こちらこそ、よろしくお願いします。エリスさん」
私たちは、どちらからともなく顔を見合わせ、笑った。
先ほどまでの緊張感が嘘のように、洞窟の中は穏やかな空気に満ちている。
「さて、と」
エリスさんは立ち上がると、濡れた足を器用にブーツに収めた。
「感傷に浸るのはこれくらいにして、そろそろ行きましょうか。まずは情報収集よ。ガルドランに行くにしても、今の深層の状況を知っておくに越したことはないわ」
「賛成です。何か、心当たりでも?」
「ええ。この近くに、腕利きの情報屋がいるの。少し偏屈だけど、腕は確かよ。あなたも、紹介しておくわ」
彼女のその手際の良さに、私は感心する。
「ピヨ、行きますよ」
私が声をかけると、水浴びを終えたピヨが、翼を広げて私たちの隣に舞い降りる。
その巨体と、風圧に、エリスさんが少しだけ目を丸くした。




