歓談と別れ(改稿版)
私たちは、夜明けの光の中で、手分けして戦利品である魔石や、ゲイルハウンドの鋭い爪などを回収し始めた。
「リィアさんは休んでてくれていいんですよ! ほとんど一人で倒してくれたようなもんですし!」
ケインさんが慌ててそう言ってくれたが、私は静かに首を横に振った。
「いえ、戦いは全員で乗り越えたものです。それに、この魔獣の素材には少し興味がありますので」
私がそう言って、魔石の一つを光にかざしていると、パーティの魔術師の少女――彼女はリナと名乗った――が、目を輝かせながら隣に座った。
「リィアさんの故郷って、どんなところなんですか?」
リナさんの純粋な問いに、私は少しだけ考える。
「……そうですね。とても大きな樹の上にある、静かな街です。いつも花の香りがして、風が心地よくて……夜は、二つの月がとても綺麗に見える場所でした」
「わぁ……。なんだか、詩みたい……」
私の故郷の話に、他のメンバーもいつの間にか耳を傾けていた。
盾役の屈強なドワーフ、バルガスさんが、豪快に笑う。
「エルフの都か。一度でいいから見てみてえもんだ。酒は美味いのか?」
「ええ、とても。果実を何年も寝かせた、蜂蜜のように甘いお酒がありますよ」
「へっ、そりゃたまらねえな!」
そんなやり取りに、パーティの空気が和んでいく。
戦いの後の高揚感と、生き延びた安堵感。そして、私という異邦人への純粋な興味が、彼らの心を少しだけ開かせていた。
戦利品の回収を終え、私たちはそれぞれのキャンプに戻って朝食の準備を始めた。
すると、ケインさんが少し照れたように、自分たちの焚き火で焼いた干し肉を一切れ、差し出してくれた。
「これ、よかったら。俺たちの街の特産なんだ。少し硬いけど、噛めば噛むほど味が出る」
「ありがとうございます。では、こちらもお返しに」
私は、自分の荷物から、アークライトでメーヴィスさんからもらった「太陽の実」を一つ、取り出して渡した。
その不思議な輝きと、ほんのり温かい感触に、ケインさんたちは目を丸くする。
「うわ、なんだこれ!? すげえ!」
「初めて見ました……こんな果物」
「どんな痩せた土地でも育つ、不思議な作物だそうです。栄養価も高いですよ」
私たちがそうして、食料を交換していると、不意に、ケインさんが真剣な顔で尋ねてきた。
「……リィアさんは、どうして一人でこんな深層を目指してるんだ? ゴールドランクなら、もっと大きなクランからの誘いもあるだろうに」
ケインさんのその問いに、パーティの誰もが、同意するように頷いた。
このパーティの誰もが抱いていた、純粋な疑問だったのだろう。
全員の視線が、私に集まる。
私は焚き火の揺れる炎を見つめ、少しだけ言葉を探した。
「大きなクランに所属すれば、確かに安定はするのでしょうね。ですが、私の旅の目的は、お金や名声ではないんです」
私は顔を上げ、彼らの目をまっすぐに見つめ返す。
「私は、この世界の誰も知らないことを見つけたい」
「まだ誰も見たことがない景色を、この目で見たい」
「ただ、それだけなんですよ」
私のその、あまりにも純粋な答え。
ケインさんたちは、一瞬、きょとんとした顔をした。
冒険者とは、もっと実利的なものだと考えていたのだろう。
やがて、魔術師のリナさんが、憧れるような、それでいて少し照れたような顔で言った。
「……なんだか、すごいです。物語の主人公みたい」
「主人公、ですか。私にはあまり似合わない言葉ですね」
私がそう言って苦笑すると、今度はドワーフのバルガスさんが、腕を組んで唸った。
「だが、筋は通ってる。自分の足で歩き、自分の目で確かめる。それこそが、冒険者の原点ってもんだ」
「ありがとうございます。そう言ってもらえると、少しだけ、自信が持てます」
その時、パーティの斥候役の青年が、遠くの空を指差した。
「……おい、あれ」
見ると、巨大な影が、ゆっくりと草原の上を旋回している。
階層の主、グリフォンだ。
おそらく、ゲイルハウンドの縄張りが静かになったことを、訝しんでいるのだろう。
「……そろそろ、長居は無用みたいですね」
私が言うと、ケインさんも頷いた。
「ああ、そうだな。俺たちも、そろそろ出発しないと」
私たちは手早く野営の跡を片付け、互いに顔を見合わせた。
「リィアさん。あんたのおかげで助かった。この恩は、必ず返す」
ケインさんが、力強く言う。
「いえ、お互い様ですよ。私も、あなたたちと話せて楽しかったですから」
「もし、この先、中継都市のガルドランに行くことがあったら、声をかけてくれ。俺たちは、いつも《風の旅団》の詰所にいる」
「ええ、覚えておきます。その時は、また美味しい干し肉をご馳走してください」
私のその言葉に、ケインさんたちは、顔を見合わせて笑った。
ほんの短い間の出会い。
だが、そこには確かに、冒険者同士の温かい繋がりが生まれていた。
私たちは、目の前に広がる二つの分かれ道を、それぞれ指さし、同時に歩き出す。
一つは、さらに深層へと続く最短ルート。
もう一つは、別の区域へと繋がる、迂回ルートだ。
「じゃあな、リィアさん! またどっかで!」
遠ざかる彼らの声に、私は一度だけ、小さく手を振って応えた。




