↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天才エルフの錬金ぶらり旅  ~召喚され損ねたこの世界で、ありのままに生きてみる~ (書籍6/15発売)  作者: オオマンティス
迷宮都市ランパード編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

77/120

書庫の賢者と模倣の番人(改稿版)

ギルドマスターから与えられた工房付きの個室で、私は一夜を明かした。

外の喧騒も届かず、暖炉の火の音だけが部屋に満ちる静寂。誰にも邪魔されない空間は、頭の中を研ぎ澄ませるのに最適だった。


窓から射し込むランパードの朝日を浴びながら、私は机に置いた地図を指でなぞった。

目的は第20階層の調査。だが、ただ突っ込むだけでは無駄に命を削るだけだ。

――力で押し通せないのなら、知識で上回る。それが私のやり方。


「さて……調べ物から始めますか」

そう呟き、私は外套を羽織ると、ギルドの地下層へと向かった。


そこに広がるのは、「大迷宮専門書庫」。

高ランクの冒険者でも滅多に足を踏み入れない、学者や魔法研究者の領域だ。

冷えた空気と、羊皮紙と古いインクの匂いが鼻腔をくすぐる。どこまでも続く書架は、まるで別世界に迷い込んだような錯覚を覚えさせた。


閲覧カウンターの奥に、一人の痩身の老人が座っている。

山のように積まれた古文書の影から覗くのは、埃っぽい眼鏡と鋭い眼光。彼――エルリックは、この書庫の番人であり、生き字引と呼ばれる人物だった。


「……何の用だ。ここは、成り上がっただけの若造が箔付けに来る場所じゃないぞ」

予想通り、口調も態度も刺々しい。私のゴールドランクのプレートをちらりと見ただけで、興味なさげに視線を文献へ戻した。


私は一歩進み、カウンターに手を置く。

「第20階層に関する過去の調査報告書を、全て見せてほしいのですが…」


その一言で、エルリックの手が止まる。

彼はゆっくりと顔を上げ、初めて真っすぐに私を見た。


「……ほう。またか。その依頼がどういう意味を持つか、分かっているのかね」


「ええ。だからここに来ました」


短いやり取りに、しばし沈黙が落ちた後――

「威勢のいいことだ。……よかろう、読めるものなら読んでみなさい。その若さでどこまで古文書を解せるか、見せてもらおうじゃないか」


奥の書架から、台車に山積みの羊皮紙が運ばれてきた。

積み上げれば私の腰の高さを超えるほどの量。表紙には無数の失敗と撤退の記録が刻まれている。


私はその挑発を受け止めるように一礼し、書類の山を抱えて閲覧席へと向かった。


閲覧用の大きなテーブルに報告書の山を築き、その一番上を手に取る。

右目に竜眼のモノクルを装着すると、世界から余計な色が消え、文字と魔力の残滓だけが浮かび上がった。


私の視界には、書かれた言葉だけでなく、そこに滲んだ術者の感情――恐怖や焦りまでもが色の流れとして見える。

古文書特有の迂遠な表現は「竜の叡智」によって瞬時に翻訳され、私は常人離れした速度で読み進めていった。


『――シルバーランクパーティ「鉄槌」の報告。第20階層中央のゴーレムに必殺スキルを使用。直後、ゴーレムが全く同じスキルを再現、戦斧を破壊され撤退』

『――ゴールドランクパーティ「賢者の瞳」の報告。古代魔法による拘束を試みたが、ゴーレムが同様の術式を行使。術者が自身の魔法で拘束され、精神汚染により昏睡』


……どれも失敗。

力の種類や規模は違えど、結果は同じ。攻撃を仕掛けた瞬間、その技をそっくりそのまま返されている。


「ふむ……」

ページをめくりながら、私は報告書を横に並べて比較し、共通する要点だけを手早くメモしていく。

ただ読むのではない。情報を噛み砕き、構造を剥ぎ取り、断片を組み合わせていく作業。


最初は遠巻きに見ていたエルリックの視線が、徐々にこちらへ引き寄せられていくのを感じた。

時折こちらを凝視し、書きつけるペン先を追っている。


半日後、最後の一枚を机に置くと、バラバラだったピースが頭の中で形を成した。

私は低く呟く。

「……なるほど。これは物理的にも魔法的にも防御しているわけじゃない。侵入者の攻撃をその場で“学習”し、模倣して反撃する自己進化型の防衛機構……戦うほどに相手を強くしてしまうわけですか」


「……!」

息を呑んだ気配。視線を上げると、エルリックがこちらに歩み寄ってきていた。


「お嬢さん……君は何者だ? その結論に半日で辿り着くとは……」


私は肩をすくめる。

「答えは最初からそこにありました。ただ、皆さん“反撃”という結果に囚われて、“模倣”という過程に気づけなかっただけです」


エルリックは唇の端を吊り上げ、古びた羊皮紙を一枚持ってきた。

「……私が長年辿り着けなかった答えを、君は補った。その上で一つアドバイスだ。古文書によれば、この機構は“理解を超えた一撃”には対応できないと記されている。つまり、学習能力の限界を超えるほどの、規格外の攻撃が必要だということだ」


「規格外の攻撃……」

私はその言葉を反芻し、胸の奥で小さな歯車が回り始める音を感じた。


書庫を出た私は、朝よりも少し重くなった羊皮紙の束を抱え、ギルドの最上階に戻った。

部屋の鍵を閉め、机に地図と素材を並べる。

父から託された月鋼の端材、霧の谷で得た古竜の魔石の欠片、そして森の主から贈られた翠の宝玉――どれも一級品だ。


「規格外の一撃……私にできるとすれば、それは一つだけですね」

呟きながら指先で月鋼をなぞる。ひやりとした感触の奥に、血と火をくぐった金属の記憶が眠っている。

頭の中では既に形が見えていた。剣でも盾でもない。私の強化魔法の威力を、限界を超えて増幅させるための、特殊な杖だ。

月鋼、最後の残りは何になるんでしょうか……?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
>「彼女の経歴はヴェリスもランパードも完全に封鎖されている。ギルドマスターの最高権限で、だ」 >高坂静流が低く報告する 「彼女の経歴はヴェリスもランパードも完全に封鎖されている。ギルドマスターの最高権…
お父様が『遺して』だと、いつお亡くなりに?はて?となり… 変換ミスかしら こちらの物語に出逢ってから、夏休みを利用して一気に読み進めております。 続きも楽しみにしております。
2025/08/11 00:31 ほのぼの能天気
こんばんは。 鍵かぁ…ドラク○シリーズの最後の鍵(先端がマネマネ銀という金属なので、あらゆる鍵穴に対応する)みたく、万能鍵を作るとか?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。