迷宮都市へ
「とんでもない化け物ができちまったな」
ボルガンさんが笑みを浮かべる。その口調には満足と、わずかな畏敬の色が混じっていた。
「化け物、ですか」
まずは外套を手に取る。深い紺色に、虹色の糸がオーロラのように輝く。
「着ればわかるさ、防具の顔をした化け物だってな」
「褒め言葉として受け取っておきます」
「おうよ、褒めてるんだぜ」
そして、生まれ変わったセレネ。柄頭の竜の魔石が、手の中で脈打った。
「……脈がある。生きてるみたいですね」
「生きてるんだよ、それは。お前さんが息を吹き込んだ」
「なら、ちゃんと試してあげないといけませんね」
ボルガンさんが顎で工房の隅を指す。
「魔吸鋼だ。魔力も物理も通らん代物だが――斬れるか?」
「じゃあ、遠慮なく」
魔力を注ぐと、竜の魔石がそれを増幅し、刀身が金色の光に包まれる。
「……行きます」
静かに振り下ろした瞬間、黒い塊が音もなく真っ二つになった。
「クハハハ! 神様だって斬れるかもしれねぇ」
「試す予定はありませんけど」
「そういうことは、やる前も言え」
「冗談ですって」
笑いが収まると、ボルガンさんは真顔になった。
「金は受け取らん。その代わり頼みがある」
「何です?」
「旅が終わったら、もう一度ここに来い。この武具がどんな冒険をしたか、土産話を聞かせてくれ」
「……いいですね。それなら私も話したいことがたくさんありそうです」
「それと、アークライトに戻ったら弟弟子のグラックにも見せてやれ。間違いなく腰を抜かす」
「腰を抜かした姿、ちょっと見てみたいです」
「おいおい、弟弟子をからかう気満々じゃねぇか」
「悪い癖です」
工房を出ると、夕暮れの光が街を染めていた。
背後では、ボルガンさんがいつまでも立ち尽くして見送ってくれている。
「……また会いましょう」小さくそう呟き、宿へ戻った。
荷をまとめ、新しい装備を身に付ける。
「似合ってるかどうかは、ランパードで試すとしましょう」
宿の主人に礼を告げ、ギルドへ向かった。
扉を開けた瞬間、ざわめきが止まる。
受付に近づくと、眼鏡の女性が顔を上げ、息を呑んだ。
「その装備……」
「この街を発ちます。手続きをおねがいしてもいいですか?」
慌てて書類を取り出す彼女。その時、声が響いた。
「リィア君!」
レオンさんが仲間と駆け寄ってくる。
「……本当に完成させたんだな」
「ええ。あなたが見ても腰を抜かすくらいには」
レオンさんは、苦笑しながら懐から指輪を取り出す。
「行くんだな、ランパードへ」
「はい」
「じゃあこの指輪を持って行け。困った時は蒼き剣のランパードの支部で見せるといい」
「……頼りにさせてもらいます」
「気をつけろ。ヴェリス以上に危険な場所だ」
「忠告はありがたく受け取ります。そちらもお元気で」
背後に複雑な視線を感じながらギルドを出る。
片隅では、深紅の牙のダリウスが爬虫類のような目を向けていたが、あえて視線を外した。




