表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
召喚され損ねたこの世界で、ありのままに生きてみる  作者: オオマンティス
辺境都市アークライト編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

50/113

次の街へ

次の目的地は、商業都市ヴェリス――。

そう決めた私は、宿に戻るなり、早速旅の準備を始めた。と言っても、元々が旅仕様の荷物なので、やるべきことはそう多くない。


「食料と水は……これで足りますね。傷薬は、ミエルがくれた分も合わせて多めに。そして、セレネの手入れは念入りに……」


一つひとつ、指差し確認をしていく。その時、ふと手が止まった。

ロックリザード、ゴブリン、鉄鋼猪――この街に来てからの、いくつかの実戦。あの戦いで積み重ねた経験が、どれほど今の自分を成長させてくれたのか、客観的な「数字」で知っておきたかった。


(……そうですね。自分の現在地は、正確に把握しておくべきです)


私は冒険者ギルドへと、再び足を向けた。


ホールの隅に、ぽつんと置かれた鑑定用の水晶玉。有料の魔道具のはずだが、「登録済みの冒険者は無料」という太っ腹なサービスは、実にありがたい。

私が水晶に手を触れると、温かい光が指先から全身に広がり、新しい情報が脳裏に直接浮かび上がってきた。


(レベル……八? ふむ、ずいぶん上がりましたね)


【名前:リィア・フェンリエル】

【クラス:該当なし】

【レベル:8】

【HP:250/250 (+70)】

【MP:620/620 (+120)】

【筋力:28 (+18)】

【耐久:23 (+7)】

【敏捷:55 (+27)】

【知力:120 (+35)】

【器用:110 (+28)】

【幸運:60 (+0)】

【スキル:生命活性、物質同調、身体活性、構造解析、魔力循環、剣術(初級)】


魔力の最大値が大きく伸びているのは、嬉しい誤算だ。そして――。

「剣術……スキルとして、定着しましたか。これは、少しだけ嬉しいですね」

セレネを振るうたび、身体に染み込んでいく確かな感覚があった。それが、こうして明確な「力」として形になったのだ。


水晶から手を離すと、自然と笑みがこぼれた。

「よし。これなら、次の街でも十分に戦えます」

「お、リィアさんじゃねえか。レベルアップかい?」

声をかけてきたのは、カインさんだった。

「ええ、少しだけ。カインさんも、依頼帰りですか?」

「おう! おかげさんで、こっちもアイアンランクに片足突っ込めたぜ! ……にしても、レベル8かよ。俺の倍近くあるじゃねえか……化け物だな、あんた」

「失礼ですね。これも、日々の地道な努力の賜物ですよ」

私がそう言って優雅に微笑むと、彼は「へいへい」と降参するように両手を上げた。


ギルドを後にし、次に向かったのは北区画の職人街。

カンカン、と聞き慣れた金属を打つ音が、私を迎えてくれた。

扉を開けると、グラックさんが額の汗を拭いながら、熊のような巨体で振り返った。


「おう、嬢ちゃんか。どうした、セレネの具合でも悪いのか?」

「いいえ、切れ味は絶好調です。ただ……明日、この街を発ちますので、そのご挨拶に」


私の言葉に、彼は一瞬だけ目を丸くし、それから「はっ」と、いつものように豪快に笑った。

「まあ、そうだろうな。あんたみてぇな渡り鳥が、ずっとこんな田舎の巣箱に収まってるはずがねぇ」

彼は壁に立てかけてあったセレネを手に取ると、その黒い刀身を光にかざす。

「こいつは、お前さんとわしで魂込めて作った、最高の剣だ。だがな、どんな名剣も、手入れを怠りゃただの鉄屑だ。分かってるな?」

「はい。私の、相棒ですから」


グラックさんは満足そうに頷くと、懐から小さな布袋を取り出した。中には、夜空のように深い蒼色をした、美しい砥石が入っている。

「『星屑の砥石』だ。魔力を帯びた刃を研ぐための、特別な代物よ。セレネには、これくらい上等なもんが必要だろう。……餞別だ。持っていけ」


私は思わず、目を見開いた。

「グラックさん、これはあなたの商売道具では……」

「うるせえ! わしがやりたくてやってんだ! 弟子に道具の一つもやらんで、何が師匠だ!」

無理やり私の手に砥石を握らせると、彼は照れくさいのか、顔を背けてしまった。

「さっさと行け! これから打ちたい鉄が山ほどあるんだ、忙しい!」

「……本当に、ありがとうございました。このご恩は、一生忘れません」


背後で、カンッ、と。力強い槌の音が、再び響き始めた。

それは、彼なりの不器用なエールだった。


次に向かったのは、南通りの薬屋――『囁きの薬瓶』。

扉を開けると、カランコロンと、軽やかな音が響いた。

「はーい!」

奥から、元気な声と可愛らしい足音が近づいてきて、小さな少女がひょっこりと顔を出す。


「あっ! 妖精のお姉ちゃん!」

リリちゃんが、勢いよく駆け寄ってきて、私の足にぎゅっと抱きついた。

「こら、リリ。お客さんに、そんなはしたないことをするんじゃない」

奥から現れたセトさんの顔には、もう以前のような疲れの色はない。


「これはこれは、リィア殿。よく来てくだされた」

「こんにちは、セトさん、リリちゃん。すっかり元気になったみたいで、私も嬉しいです」

「ああ、これもみんな、あなた様のおかげじゃ。街中の医者が匙を投げたというのに……感謝してもしきれんよ」


温かい薬草茶をいただきながら、私は本題を切り出した。

「実は、明日、この街を発つことにしました。そのご挨拶に、と」

「……そうですか。それは……寂しくなりますな」

私の足元で、リリちゃんが不安そうに私を見上げた。


セトさんは、カウンターの下から一つの木箱を取り出した。

「旅の助けになればと、いくつか用意しておいた。最高品質の空の小瓶と、この辺りでしか採れん希少な薬草じゃ。これがあれば、どこでも薬が作れるじゃろう」

「……ありがとうございます。本当に、心強いです」


「お姉ちゃん、これ……」

すると、今度はリリちゃんが、私の前に、少しだけ不格好な白い花の腕輪を差し出した。

「私が作ったの! お守り……あげる!」

「……大切にします。ありがとう、リリちゃん」


二人に見送られ、店を後にする。花の腕輪を胸元でそっと握りしめながら、私は西門へと足を向けた。


一時間ほど歩き、メーヴィスさんの農場が見えてくる。母屋から顔を出した彼が、驚いたように声を上げた。

「おお、リィア殿! 街に戻ったんじゃなかったのか?」

「明日、発ちますので、最後にご挨拶を、と思いまして」

「……そうか。まあ、あんたみてぇなお方が、いつまでもこんな田舎にいるわけもねぇわな」


家の中に招かれ、瑞々しい果実を勧められる。

「これは……太陽の実とは、また違いますね」

「ああ、この土地特有の果物だ。うまいだろ?」

「ええ、とても」


「次は、ヴェリスへ行くんだったな」

「はい」

「……あそこは、でかくて、良い話も悪い話も多い街だ。人を信じるなとは言わん。だが、疑うことは忘れんでくれ」

「肝に銘じます」


立ち上がると、布包みにされた太陽の実を、どさりと差し出された。

「持っていけ。腹が減っては、戦はできんからの」

「ありがとうございます。本当にお世話になりました」

「……おう。達者でな」


農場を出て街に戻る頃には、空はすっかり茜色に染まっていた。

私はその足で、最後の挨拶のために、冒険者ギルドへと向かった。

カウンターでは、サラさんが私に気づき、手を振る。

「なんだいリィア、また面倒ごとでも持ち込んできたのかい?」

「いいえ。明日、この街を発ちます。お世話になった、ご挨拶に」


その瞬間、彼女のからかうような笑みが、少しだけ寂しそうに消えた。

「……そうかい。まあ、あんたがここに長居するとは思ってなかったけどね。で、次は?」

「商業都市ヴェリスです」


「ヴェリス、ねぇ」

会話を聞きつけたカインさんが、ジョッキ片手に割り込んできた。

「マジかよ、リィアさん! あそこはヤベえぞ、色んな意味で!」

「『ヤベえ』、ですか?」

「ああ! でっけぇ街だからな、派閥みてぇなのもあるし、最初は変な奴に絡まれねぇように、マジで気をつけろよ!」


サラさんも、肘をつきながら頷く。

「カインの言う通りだよ。あんたは腕も立つけど、それ以上に見た目が目立つからね。面倒な連中に目をつけられる前に、こっちでやったみたいに、誰も手出しできない実績を、さっさと作っちまいな」

「お二人とも……ご心配、痛み入ります。覚えておきますね」


ギルドを出ると、空には一番星が瞬き始めていた。

宿で荷物を整え、静かに一晩を過ごす。


翌朝。まだ陽が昇りきらぬ南門の前。

門番に鉄のプレートを見せると、彼は「達者でな」と、力強く敬礼して門を開けてくれた。

黄金色の光が、ヴェリスへと続く街道を、どこまでも照らしている。

私は一度も振り返らず、その道を踏み出した。

辺境都市 アークライト編 これにて終わりとなります!

次回より新章 商業都市ヴェリス編が始まります。

評価、感想いただけると励みになります‼️

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
>「……そうか。まあお前さんみたいなのがいつまでもこんな辺境の街にいるわけもねえか」 上記の台詞が重複しています。 誤字報告機能では全文削除できなかったので、こちらでご報告。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ