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S4 試練のダンジョン

俺たち十四人全員の実演が終わった後、訓練場には興奮とそして一種の畏敬が入り混じった沈黙が流れていた。

互いの隠された力が今明らかになった。

俺たちはもうただのクラスメイトではない。

それぞれが異なる武器を手に同じ戦場に立つ仲間なのだ。


ダンジョン…

誰が誰と組むのか。

俺はすぐにクラスメイトたちを見渡した。


(バランスが重要だ。前衛、後衛、そして回復役……)


勇者として俺がまとめなければ。

そう思ったその時だった。


「へっ話が早えじゃねえか」


葛城が一歩前に出た。


「強い奴は強い奴と組む。当然だろ。おい牧野! 斎藤! お前らは俺と来い。俺たち三人で前衛は完璧だ」


葛城が狂戦士の牧野と武闘家の斎藤を指名する。

二人ともクラス屈指の近接攻撃力を誇る。

牧野は待ってましたとばかりに葛城の隣に立った。

斎藤もにやりと笑いそれに続く。


「それから……」


葛城の視線が弓兵の園田と盗賊の工藤を捉えた。


「お前らもだ。遠距離攻撃と偵察役は必要だからな」


強引にメンバーを決めていく葛城。

だが誰も文句は言えなかった。彼のパーティが現状最も攻撃的な部隊であることは間違いなかったからだ。


その時だった。


「――待ちなさい」


凛とした声。

高坂が静かに前に出た。


「その編成では回復役がいないわ。短期決戦ならともかくダンジョンでの長期戦には向かない」


「ああん? 回復なんざやられる前にやれば必要ねえだろうが」


葛城が牙を剥く。

一触即発。

その空気を断ち切ったのはベアトリスだった。


「賢者の言う通りだ。葛城、貴様のパーティには吟遊詩人を加えることを推奨する。彼女の回復魔法と支援能力があれば貴様らの生存率は格段に上がるだろう」

汐見がびくりと肩を震わせる。

葛城はちっと舌打ちをしたがベアトリスの命令には逆らえない。


「……おい汐見。足引っ張んじゃねえぞ」


「う、うん! がんばる!」


こうして葛城をリーダーとするパーティがまず完成した。


残ったのは八人。

俺は改めて仲間たちに向き直った。


「佐伯、太田。二人の守備力は俺たちの生命線になる。前衛を頼む」


「「おう!」」


聖騎士の佐伯と守護士の太田が力強く頷く。


「高坂、水野、桜井さん。三人の魔法の力が必要だ。後衛を頼む」


賢者の高坂、精霊術師の水野、そして聖女の桜井。

彼女たちの魔法があればどんな敵にも対抗できるはずだ。

三人は静かに頷き返した。


「そして長谷川さん。俺たちの命を預ける。回復を頼む」


「……う、うん! 任せて!」


神官の長谷川さんがぎゅっと杖を握りしめる。


こうして俺、結城大和(勇者)をリーダーとする七人のパーティが完成した。

葛城のパーティが攻撃に特化した「剣」だとしたら、俺たちのパーティはどんな状況にも対応できる「盾」のような編成だった。


最後に一人残ったのは桐谷だった。

ベアトリスが彼に問いかける。

「解析者。貴様はどうする? どちらのパーティに加わりたい」


桐谷は俺たちのパーティと葛城のパーティを値踏みするように見比べると、やがてふっと不気味に笑った。


「……どちらも面白そうだ。ですがまあ今回はこちらにしておきましょうか」


彼が指さしたのは俺たちのパーティだった。


こうして十四人の戦闘部隊は葛城率いる六人パーティと俺が率いる八人パーティの二つに分かれることになった。



パーティ編成を終え、俺たち二つのパーティは、ベアトリスに率いられ城の薄暗い地下通路を進んでいった。

壁に等間隔で灯された松明の光が、仲間たちの緊張した顔をぼんやりと照らし出している。

ひんやりとした湿った空気。どこか黴臭いような土の匂い。

普段の生活とはかけ離れたその空気に、誰もが無言で唾を飲み込んでいた。



しばらく歩くとやがて巨大な石造りの両開きの扉の前にたどり着いた。

扉の表面には古代の文字だろうか、見たこともない複雑な紋様がびっしりと刻まれている。

そしてその扉全体が淡い青色の光を放っていた。



「ここが『試練のダンジョン』の入り口だ」


ベアトリスが静かに告げる。


「このダンジョンは古代の魔法によって造られた半永久的な迷宮。内部には魔物が常に自然発生するようになっている。最初の実戦経験を積むには最適な場所だ」


彼女は俺たちに向き直る。


「今回の試練の目標は第五階層への到達。そして無事に全員で帰還することだ。各パーティのリーダーは仲間たちの消耗具合を常に把握し、危険だと判断したら迷わず撤退すること」


俺と葛城がこくりと力強く頷いた。


「よし」

ベアトリスは満足そうに頷くと巨大な石の扉にそっと手を触れた。

すると扉に刻まれた紋様が一斉に輝きを増し、ゴゴゴと地響きのような音を立ててゆっくりと内側へと開いていく。


扉の向こう側は真っ暗だった。

その闇のさらに奥で不気味な紫色の光がぼんやりと揺らめいているのが見えた。

ひゅうと生暖かい風が中から吹き出してくる。

そこはまさしく異界への入り口だった。



葛城パーティが先に威勢よくダンジョンの中へと消えていく。

俺は自分のパーティの仲間たちを見渡した。

盾を固く握りしめる佐伯と太田。

杖を構え冷静に闇の奥を分析しようとしている高坂、水野、桜井さん。

不安そうに、しかし必死に前を向こうとしている長谷川さん。

そして、何を考えているのか分からない、桐谷。


(……行くぞ)


俺は静かに覚悟を決めると、腰のロングソードの柄を強く握りしめた。

そして仲間たちに一度だけ頷いてみせる。


俺たち結城パーティは顔を見合わせると、まだ見ぬダンジョンの闇の中へとその第一歩を踏み出した。



ダンジョンに一歩足を踏み入れると背後で巨大な石の扉が音もなく閉ざされた。

完全な暗闇。

ひんやりとした湿った空気が肌にまとわりつく。


「――光を」


高坂の冷静な声が響く。

彼女が杖の先を軽く振るとふわりと柔らかな光の玉が生まれ、俺たちの周囲を照らし出した。

そこに広がっていたのはどこまでも続く石造りの通路だった。壁も床も天井も全てが継ぎ目のない巨大な岩でできている。


「……すごい、これがダンジョン……」


長谷川さんが不安そうに呟いた。

通路のあちこちには紫色の奇妙な苔が自ら光を放ち、ぼんやりと辺りを照らしている。

それはどこか幻想的でしかし同時に不気味な光景だった。


俺はパーティの仲間たちに指示を出す。

「佐伯、太田は最前衛で盾を構えてくれ。俺と高坂はその後ろ。水野さんと桜井さん、長谷川さんはさらに後方から援護を。桐谷は……俺のすぐ隣にいてくれ。何か見えたらすぐに教えてほしい」

全員がこくりと頷く。

これが俺たち結城パーティの最初の陣形だ。


カツンカツンと。

俺たちの足音だけが静かな通路に響き渡る。

十分ほど進んだだろうか。

通路が少し開けた広場のような場所に出た。

その瞬間だった。


「――来る!」


俺の隣で桐谷が鋭く叫んだ。

ほぼ同時に広場の薄暗い影の中から、十体以上の小さな影が飛び出してきた。


「ギャアッ!」

甲高い奇声。ゴブリンだ。

数が多すぎる。


「怯むな! 陣形を維持しろ!」


俺は叫ぶ。

最前衛で佐伯と太田の二枚の盾が鉄壁の要塞を築く。ゴブリンたちの錆びた剣が盾に叩きつけられ、火花を散らした。


「結城! 右から三番目、そいつがリーダー格だ! 先にそいつを潰せ!」


桐谷の的確な指示が飛ぶ。

俺は盾の隙間から聖剣術の光を纏った剣を突き出し、リーダー格のゴブリンを正確に貫いた。


リーダーを失いゴブリンたちの動きが一瞬乱れる。

その好機を後衛の魔法使いたちは逃さなかった。


「大地の蔓よ! アースバインド!」


水野の詠唱。地面から無数の蔓が伸びゴブリンたちの足に絡みつく。


「聖なる光よ! ホーリーライト!」


桜井の魔法が炸裂し、ゴブリンたちの目を眩ませた。

そして仕上げは高坂だった。


「――燃え尽きなさい。ファイアボール!」


灼熱の炎の玉がゴブリンたちの中心で炸裂し、その全てを焼き尽くした。


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