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召喚され損ねたこの世界で、ありのままに生きてみる  作者: オオマンティス
辺境都市アークライト編

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S3 力の証明

鑑定の儀から一夜が明けた。

俺たち前線組の十四名は城の広大な訓練場へと集められていた。

乾いた土と鉄の匂い。燦々と降り注ぐ異世界の太陽。

昨日までの日常が急速に遠ざかっていく。


(……ここが俺たちの新しい教室か)

俺は腰に差した真新しいロングソードの柄をそっと握った。


鎧を纏った女性が俺たちの前に立つと、その涼やかな青い瞳で俺たち一人一人を射抜くように見渡した。


「静粛に。……私が、本日より、貴方がたの監督役を務める、クラリオン王国騎士団長、ベアトリス・フォン・エルハイムだ」


「貴方がたがどれほどの力を持つのか、まずはこの目で確認させてもらう。これは訓練ではない。実演だ。魔法の心得がある者から前に出ろ」


その言葉に高坂、長谷川さん、そして新しく前線組に加わった水野と桜井の四人が一歩前に出た。

クラスでも特に物静かだったりお淑やかだったりした彼女たち。

その華奢な身体のどこにあれほどの力が眠っているというのだろうか。


「高坂殿」


ベアトリスが指さしたのは訓練場の一番奥に置かれた、馬車ほどもある巨大な岩の的だった。


「あの岩に魔法を撃ってみてくれ」


高坂は静かに頷くと杖を構えた。

彼女が何かを呟き始めた瞬間、周囲の空気がびりびりと震える。


「――獄炎球ヘルフレイム!」

彼女の杖先に凝縮された闇のような炎の弾。それが解き放たれ黒い軌跡を描きながら的へと殺到した。

轟音。

巨大な岩の的が一瞬で蒸発し、地面にはガラスのように溶けたクレーターだけが残されていた。


「……うそだろ……」


誰かが呟いた。

葛城ですらその圧倒的な破壊力を前に言葉を失っている。


「次。精霊術師、水野殿」

ベアトリスは表情一つ変えない。

水野はおずおずと前に出ると、乾いた地面にそっと手を触れた。


「大地の息吹よ……」


彼女の祈るような囁き。

すると地面が盛り上がり無数の蔦と茨がまるで生き物のように伸び始めた。

それはほんの数秒で俺たちの前に、人が数人は隠れられそうなほどの巨大な茨の壁を作り上げた。


攻撃の高坂。

防御と妨害の水野。

その対照的な魔法に俺たちはただ圧倒される。

続いて桜井が前に出た。聖女。そのあまりにも神々しい響きのクラス。


彼女は祈るように両手を組む。

「聖なる守護よ……聖域結界サンクチュアリ!」

ふわりと彼女の周囲に黄金の光のドームが出現した。

それは見るからに温かく、そして絶対に破れないであろう神聖なオーラを放っていた。


最後に長谷川さんが前に出る。

彼女は戸惑ったように周りを見渡していたが、やがて先程の高坂の魔法の余波で翼を傷つけられたらしい一羽の小鳥を見つけた。


彼女はその小鳥をそっと両手で包み込む。


「女神の慈悲を……ヒール」


優しい光。

光が消えた時、小鳥は元気そうにさえずると彼女の手から大空へと羽ばたいていった。


破壊、創造、守護、そして再生。

四人の少女が見せた魔法の奇跡。

俺たちはただ呆然とその光景を見つめていた。


俺は自分の腰にある剣の重みを改めて感じていた。




「次は前衛職の力を見せてもらおう」


ベアトリスの静かな声がその沈黙を破る。

彼女が指さしたのは先程高坂が破壊した岩の的とは別に用意されていた、分厚い鉄の的だった。


「的はあれを使え。生半可な力では傷一つ付かん」


その言葉に最初に反応したのはやはり葛城だった。

彼はにやりと好戦的な笑みを浮かべると、仲間たちから借り受けた巨大な槍を肩に担ぎ一番前に進み出る。


「魔法だけが力じゃねえってとこを見せてやるよ」


彼は槍を構える。

そして叫んだ。

「――魔力付与!」

禍々しい深紅の魔力が槍の穂先に渦を巻くようにまとわりついた。

次の瞬間彼は地面を蹴る。スキル『身体強化』。その身体は弾丸のように加速した。


「おおおおっ!」

雄叫びと共に放たれた一撃。

キィィィンッ!

鼓膜が破れそうなほどの甲高い金属音。

魔力を纏った槍の穂先が分厚い鉄の的を、まるで紙のように貫通していた。

的の向こう側まで突き抜けた槍が魔力の余波でびりびりと震えている。

純粋な破壊力。そのあまりの威力に俺たちは再び息を呑んだ。



(葛城と同じことをやっても意味がない。俺の力は……)


俺はロングソードを構え静かにスキルを発動させた。


(聖剣術……!)


俺の剣が清浄な金色の光を放つ。葛城の荒々しい魔力とは対照的な、穏やかでしかし力強い光。

俺は走った。

そして鉄の的に向かって剣を横に一閃する。


ス、と。

音はほとんどしなかった。

ただ俺が通り過ぎた後、鉄の的の上半身が何の抵抗もなく地面に滑り落ちただけだった。

その切断面はまるで鏡のように滑らかだった。


力と技。

葛城と俺の戦い方の違いがそこにはっきりと示されていた。


その後も実演は続く。

佐伯と太田はその巨大な盾で訓練用の魔道具から放たれる魔力弾を、いとも容易く防ぎきってみせた。

汐見が楽しそうに歌い始めると俺たちの身体が少しだけ軽くなるのを感じる。

工藤はベアトリスに命じられ訓練場の隅に置かれた鍵付きの宝箱を、スキル『隠密』で誰にも気づかれずに開けてみせた。


一人一人がそれぞれのクラスに与えられた力の片鱗を見せていく。

誰もがもうただの高校生ではなかった。

この世界で戦うための「武器」を、俺たちはすでにその手に握っていたのだ。



前衛組の実演が終わり訓練場には、興奮したようなそれでいてどこか張り詰めたような不思議な空気が流れていた。

俺たちは互いの力の片鱗を目の当たりにした。

すごい奴らだ。心からそう思う。

だが同時に疑問も浮かんでいた。

このバラバラな力を俺たちは本当に使いこなせるのだろうかと。


そんな俺たちの思考を見透かしたかのようにベアトリスが静かに口を開いた。

彼女の視線は今までただ黙って全てを観察していただけの、一人の男へと向けられていた。


「――解析者。桐谷蒼」

名前を呼ばれ桐谷の肩がびくりと震える。

クラス全員の視線が一斉に彼へと集まった。


「……俺は見ての通り非力です。戦闘系のスキルは何も……」


そのか細い声。

だがベアトリスは許さなかった。

ジッと桐谷を見つめつづける。


桐谷は観念したように一つため息をついた。

そしてずれていた眼鏡の位置を指でくいと直す。

その瞬間彼の雰囲気が変わった。


「……分かりました。ではお見せします」


彼は高坂が先程的を破壊した場所へと、ゆっくりと歩いていく。

そして溶けた地面に向かっておもむろに手をかざした。


「――獄炎球ヘルフレイム


桐谷の口から紡がれたのは先程高坂が使ったものと全く同じ魔法の名称だった。


「なっ……!?」


高坂が信じられないものを見るような表情で息を呑む。

桐谷の手のひらに黒い炎が確かに出現した。

それは高坂の放ったものと比べれば半分ほどの大きさだろうか。それでも熱気を帯びた黒い炎は不気味な光を放ち周囲の空気を歪ませる。


桐谷はその炎をゆっくりと標的が残骸へと変わった場所へと放った。

轟とまではいかないまでも重い爆発音が響き、黒い炎が周囲の地面を黒焦げにする。

高坂が作り出したクレーターには及ばないものの、確かに岩を砕く程度の威力はあった。


訓練場に再び静寂が訪れる。


「……どうしてあなたが私の魔法を……」


高坂が驚愕の色を隠せない声で問い詰める。

桐谷はゆっくりと振り返った。

その眼鏡の奥の瞳が不気味なほど静かだった。


「ユニークスキル『神の瞳』。この眼で一度視たスキルは全てコピーできます。ただし……」

彼は続ける。

「その威力は俺自身のステータスに準拠する。俺の知力は高い。魔力もそれなりにある。だが賢者であるあなたと違って魔法への適正、そして何よりも魔力そのものの絶対量が違う。故に威力は及ばない」


スキルコピー。

その信じがたい能力。

威力は本家に劣るものの確かに脅威となる力。

俺たちは改めて桐谷という存在の特異さを思い知らされた。


「……なるほどな」

その静寂を破ったのはベアトリスだった。

彼女は先程よりも興味深そうな表情で頷いている。



ベアトリスは俺たちを見渡した。


「今のが貴方がたの現在地だ。強大な力を持ちながらその使い方すら知らんただの赤子。今のまま実戦に出れば半日も持たずに全滅するだろう」


ベアトリスの冷たい言葉が俺たちの胸に突き刺さる。


「だが希望はある」


彼女は続ける。


「互いの長所と短所を補い合える仲間がいる。その力を本物の『強さ』に変えるため、最初の試練に向かってもらう」


彼女の視線の先。

そこには城の地下へと続く古びた階段があった。

「――『試練のダンジョン』でな」


俺は改めて仲間たちを見渡した。

葛城も高坂も、瞳には新たな闘志を宿している。


俺は強く拳を握りしめた。

次回は幕間パートです

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― 新着の感想 ―
>俺たち前線組の十四名はベアトリスに率いられ、城の広大な訓練場へと集められていた。 異世界のネームドキャラはまだ国王様しか居なかったかと思ったんですが…当たり前のように先導してるもののどちら様でしょう…
ただ兵器としての役割しか期待してないんやな、ってはっきり分かるね
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