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試験当日

皆様の応援のおかげで、投稿から6日という短い期間で、累計2000PV、そして330名を超えるユーザー様にお読みいただくことができました。一つ一つのPV、そしてブックマークが本当に励みになっております。


物語はまだ始まったばかりですが、皆様の応援を力に変えて頑張ります!!

学院都市の木々が、春の若葉で彩られ始めた頃。

ついに、アルボリア学院の入学試験の日が、やってきた。


「いよいよ、だね……リィア」

「ええ。大丈夫ですよ、ミエル。私たちは、この日のために、ちゃんと準備をしてきましたから」


宿屋の部屋の窓から、朝日に照らされる学院を見下ろす。

隣に立つミエルの表情は、緊張と期待で少しだけ硬い。

私は、そんな彼女の肩を、ぽんと優しく叩いた。


試験当日の学院は、これまでの落ち着いた雰囲気とは違い、どこかお祭りのような明るい熱気に満ちていた。

私たちと同じ新入生たちが、希望に満ちた顔で、案内に従ってそれぞれの試験会場へと向かっていく。


私たちが最初に案内されたのは、大きな講義室。筆記試験の会場だ。

ずらりと並んだ長机の一つに、ミエルと隣同士で腰を下ろす。


(筆記試験、ですか。エレーナさんも、知識は力だと言っていましたね)


やがて、試験監督の先生が、静かに入室してきた。

配られた羊皮紙の問題用紙を、そっと裏返す。


内容は、魔法理論の基礎、エルフの歴史、そして薬草学の基本的な知識。

どれも、父の書斎や、この街の図書館で、何度も目にしたことのある問題ばかりだった。


(……なるほど。これは、ふるいにかけるための試験、というよりは、基礎的な知識と思考力があるかどうかを見るための、確認のようなものですね)


隣の席では、ミエルが薬草学の問題を見つけて、ほっとしたように息をついている。彼女なら、きっと大丈夫だろう。

私も、羽ペンを手に取ると、淀みなく解答を書き連ねていった。


あまりにも、簡単すぎた。

試験時間の半分も経たないうちに、全ての問いに答え終えてしまう。

手持ち無沙汰になった私は、少しだけ、悪戯心が湧いてくるのを感じた。


(この問題、あまりに基礎的すぎるな……。でも、この術式を応用すれば、父の手記にあったあの理論にも繋がるかもしれない)


私は、解答用紙の余白に、問題の問いに対する、さらなる発展的な考察を、自分用のメモのような感覚で書き加えていく。

それは、もはや試験の解答ではなく、一つの小さな論文に近いものだったかもしれない。


「――そこまで。ペンを置きなさい」


試験終了の合図。

試験監督の先生が、解答用紙を回収して回ってくる。

そして、私の席の前で、ぴたりと足を止めた。

彼の視線は、私の解答用紙の、その余白にびっしりと書き込まれた数式や古代文字に、釘付けになっていた。


先生は、何も言わずに、ただ驚愕の色を浮かべたまま、私の解答用紙を手に取り、次の席へと向かう。

その背中を見送りながら、私は小さく肩をすくめた。

少し、やりすぎてしまったかもしれない。



筆記試験を終え、昼食を挟んだ後。

私たちは、適性検査が行われる、あの大講堂へと案内された。

高い天井には光る苔が星空のように瞬き、壁には歴代の卒業生たちの名前がびっしりと刻まれている。

百人近い新入生たちが、今度は実技試験を前にして、再び緊張した面持ちで、検査の開始を待っていた。


やがて、壇上にエルミナ学長と、数人の教師たちが姿を現す。


「皆さん、筆記試験、ご苦労さまでした。これより、皆さんの魔法適性を拝見します。難しいことはありません。ただ、目の前の水晶に手を触れ、自分の持つ力を、素直に流し込んでみてください。……さあ、最初の者から、前へ」


その言葉を合図に、適性検査が始まった。

一人、また一人と名前を呼ばれ、生徒たちが壇上の水晶に手を触れていく。

水晶は、その生徒が持つ才能に応じて、様々な色の光を放った。

炎のように燃え盛る赤い光、水のように澄み渡る青い光、森の若葉のような優しい緑の光。


「綺麗……」

ミエルが、うっとりとした声で呟く。


「ええ。一人一人、全く違う色をしているのですね」

私も、興味深くその光景を眺めていた。


検査が進むにつれて、講堂のざわめきが大きくなることもあった。

ひときわ強い光を放つ者、二つ以上の色が混じり合った珍しい光を放つ者。その度に、新入生たちの間から感嘆の声が上がる。


そして、ついにその名が呼ばれた。


「――セラフィーナ・フォン・ヴァルノスト」


その名が呼ばれた瞬間、講堂の空気が一変した。

ざわめきがぴたりと止み、全ての視線が、一人の少女へと注がれる。

列の中から、銀糸のような長い髪を揺らし、一人の少女が優雅に歩み出てきた。

その立ち居振る舞いは、子供とは思えないほど、気品と自信に満ち溢れている。


彼女は壇上に上がると、他の生徒たちとは違い、何の感情も浮かべないまま、そっと水晶に手を触れた。

次の瞬間――。


講堂全体が、真紅の光に染まった。

それは、ただ赤いだけではない。炎の奥で燃える核のような、圧倒的な密度と力強さを秘めた、純粋な破壊の光。

水晶が、そのあまりの魔力に耐えきれず、悲鳴を上げるように軋んでいるのが、遠目にも分かった。


「……すごい……」

ミエルの声が、震えている。


私もまた、その光景から目を離せずにいた。

セラフィーナは、講堂のどよめきを意にも介さず、静かに水晶から手を離すと、何事もなかったかのように自分の席へと戻っていく。彼女にとって、これはあまりにも当然の結果なのだ。


(魂の色、ですか。……面白い。私の力は、一体どんな色をしているんだろう?)


あの、真紅の光を見た後でさえ、私の胸は不思議と、静かな期待に満ちていた。

私たちの番は、もう、すぐそこまで迫っていた。

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― 新着の感想 ―
なんか勇者たちに比べてほのぼのしすぎて、最後の「隣には、いつも、ミエルがいてくれたから」がなんか死亡フラグっぽく思えてきたんですけど。そうじゃないよね?
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