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召喚され損ねたこの世界で、ありのままに生きてみる  作者: オオマンティス
迷宮都市ランパード編

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番人の攻略法

大迷宮、第20階層。

そこは、これまでのどの階層とも、全く異なる空気に満ちていた。

天井という概念はなく、どこまでも続く夜空のような蒼穹が広がっている。地面は、磨き上げられた黒曜石のように滑らかで、足を踏み出すたびに、自分の姿が鏡のように映り込んだ。


「……綺麗……」

隣を歩くエリスさんが、思わず息を呑む。

私も、そのあまりにも幻想的な光景に、言葉を失っていた。

だが、その美しさとは裏腹に、この空間に満ちるマナは、まるで死んだかのように静まり返っている。生命の気配が、一切しない。


「……行きましょうか」

「ええ」


私とエリスさんは、顔を見合わせると、この静寂のフロアの中心へと、慎重に歩を進めていった。

やがて、視界が開け、円形の、巨大な闘技場のような空間に出た。

そして、その中央に、「それ」はいた。


高さは、十メートルほどだろうか。

磨き上げられた金属と、未知の鉱石で構成された、人型の機械兵。

その身体には、継ぎ目というものが一切なく、まるで一つの金属塊から削り出されたかのような、完璧なフォルムをしていた。

顔に当たる部分には、スリット状のカメラアイがあるだけ。感情も、意志も、そこからは読み取れない。

あれが、ギルドマスター・グラハムが、そして情報屋のジャックが語っていた、第20階層の番人。


「……あれが、“賢者の戯れ”」

エリスさんの声が、緊張に震えている。


その周囲で、激しい戦闘を繰り広げている者たちがいたのだ。


閃光が走り、爆音が響き渡る。

見覚えのある顔ぶれ。――勇者、結城大和のパーティ。そして、魔槍士、葛城隼人のパーティ。

彼らは、二つのパーティで連携し、この巨大な番人に、総力戦を挑んでいた。



「聖剣技! ホーリークロス!」

大和の剣が、聖なる光の十字を描き、番人の巨体に叩き込まれる。

だが、番人はそれを、分厚い装甲で意にも介さず、全く同じ軌跡、全く同じ威力の光の十字を、その腕から放って反撃した。


「ぐっ……! みんな、下がりなさい!」

パーティの聖女、桜井美羽が叫び、咄嗟に聖域結界を展開する。光の十字が結界に激突し、凄まじい衝撃波が周囲に広がった。



「ちくしょう! 効かねえのかよ!」

葛城が、忌々しげに吐き捨てる。

彼の魔槍が、重力を操り、番人の足元を歪ませようとする。だが、番人は、その身体から同じ性質の魔力を放ち、いとも容易くそれを相殺してしまった。



「……なるほど。ジャックさんの言っていた通りですね」

私は、その光景を冷静に分析していた。

「あれは、ただの模倣じゃない。相手の技を、瞬時に解析し、そして最適化して、自分のものにしている。……戦えば戦うほど、相手のデータを吸収して、強くなる」



「反則じゃないの、そんなの……!」

エリスさんが、信じられないといった顔で唇を噛む。



勇者たちの攻撃は、ことごとく模倣され、より強力な形で返されていた。

高坂静流の放つ古代魔法は、同じ魔法で相殺され、斎藤の剣技は、同じ剣技で弾き返される。

彼らは、まるで自分自身の鏡と戦っているかのようだった。



「このままじゃ、ジリ貧だわ。彼らの魔力が、先に尽きる……!」

エリスさんの言う通り、勇者たちの顔には、すでに疲労の色が濃く浮かんでいた。



「……少しだけ、助太刀に入ることにしましょうか」

私がそう言って、一歩前に出ようとした、その時だった。


「――待ちなさい」

エリスさんが、私の肩を掴んで、それを制した。

「あなたの気持ちは分かるわ。でも、今、あの戦いに割って入るのは、得策じゃない」



「どういう意味です?」

「見てみなさい。彼らの、特にあの“勇者”の目を」

彼女が指差す先、大和の瞳には、まだ闘志の炎が燃え盛っていた。

仲間を守り、この困難を乗り越えようとする、強い意志の光。



「彼らは、まだ諦めていない。自分たちの力で、この試練を乗り越えようとしている。……そこに、私たちが割って入るのは、彼らの誇りを、踏みにじることになるわ」


その言葉は、冒険者として数多の戦場を生き抜いてきた彼女だからこその、重みを持っていた。




戦況は、膠着していた。

いや、じりじりと、勇者たちの方が追い詰められていく。

「はぁ、はぁ……! くそ、キリがねえ……!」

葛城の呼吸が、荒くなっていく。

大和の聖剣の輝きも、心なしか弱まっているように見えた。



「……もう、限界のようですね」

私は、静かに呟いた。

「ええ。……ここが、潮時よ」

エリスさんも、同意するように頷く。



私は、ゆっくりと、その戦場へと歩み出た。

私の接近に、最初に気づいたのは、賢者の高坂静流だった。

「……あなた……!」



その声に、全員の視線が一斉にこちらへと注がれる。

驚愕、困惑、そして、葛城の、憎悪に満ちた視線。


「……てめぇ、何のようだ……! 見物か!?」

「ええ、まあ。あなた方の、見事な連携と、不屈の闘志に、少しだけ見入ってしまいました」



「ふざけてんのか!」

「いいえ。ですが、このままでは、埒が明かないでしょう?」

私は、勇者たちと、そして、巨大な番人を交互に見渡す。



「少しだけ、この戦い、私に預けてはいただけませんか?」



その一言に、その場にいた全員が、言葉を失った。

私が、ゆっくりと、番人の前へと進み出る。

エリスさんも、私の背後を固めるように、その銀の長剣を抜き放っていた。



番人の、感情のないカメラアイが、私という新しい「データ」を、正確に捉えた、その時だった。

「――始めましょうか、エリスさん」

「ええ。……派手に、ね!」



私の身体から、白金のオーラが迸る。

その光は、私だけでなく、隣に立つエリスさんの身体をも、優しく包み込んでいった。


エリスさんの身体から、先ほどまでの疲労が嘘のように消え、それ以上の力が漲ってくる。


番人が、その巨大な腕を、私たち二人同時に叩き潰さんと、振り下ろす。

だが、その動きは、今の私たちの目には、あまりにも、遅く見えた。



番人がその巨大な腕を、私たち二人同時に叩き潰さんと振り下ろす。

だがその動きは今の私たちの目にはあまりにも遅く見えた。



「――行きますよエリスさん!」

「ええ!」



エリスさんの身体が白金の光を纏い、まるで弾丸のように飛び出した。

彼女の剣技はもはや神速の域に達している。番人の巨腕を壁を駆け上がるようにして駆け抜け、その鎧の隙間という隙間を銀色の閃光となって切り刻んでいく。

ガキン! ギンッ!と甲高い金属音が、闘技場に連続して響き渡った。


「……なっ!? なんだあの速さ……!」


勇者たちが信じられないものを見るような目で、エリスさんの戦いぶりに息を呑む。

だが番人はそれでも止まらない。


エリスさんの剣撃を受けながらも、その攻撃パターンを恐るべき速度で学習していく。

最初は面白いように通っていた刃が、次第に的確に装甲で受け止められるようになっていく。

「ちっ……! 私の動きを読んでいるの!?」



エリスさんの顔に焦りの色が浮かぶ。

番人が学習した彼女の剣技をより洗練された形で模倣し、反撃を開始した。

銀色の閃光と機械的な腕が互角の速度で交差し始める。



(……やはり駄目ですね。どんなに優れた剣技も魔法も、それが“既知”の技である限りいずれは学習されてしまう)

私は戦況を冷静に分析しながら、静かに自分の杖を握りしめた。

「エリスさん!」

私は彼女にだけ聞こえる声で叫んだ。



「――三秒後! 最大の一撃をお願いします!」

「……分かったわ!」



エリスさんは私の意図を瞬時に理解してくれた。

彼女は一度大きく距離を取ると、その銀の長剣にありったけの魔力を注ぎ込む。私の強化魔法を受けた彼女の魔力は、眩いほどの光となって刃に収束していった。



番人もまたその巨大なエネルギーを察知し、迎え撃つべくその両腕を胸の前でクロスさせ完璧な防御態勢を取った。

学習したデータに基づきこれから来るであろう最大級の斬撃を、最小限の被害で受け止めるための最適な防御。



凄まじい轟音と閃光。

だが番人はその一撃を確かに受け止めてみせた。その装甲に深い傷は刻まれたが致命傷にはほど遠い。


(……ええ。それでいいのです)


番人の全意識がエリスさんの一撃に集中したその一瞬。

そのコンマ一秒にも満たない完璧な隙。


私は動いた。

私が魔力を注ぎ込んだのは私自身ではない。

私の手の中にある黒い月鋼の杖。

古竜の魔石が心臓のように脈動し、森の主の宝玉が生命力に満ちた輝きを放つ。



杖が熱を帯び白金の光を放ち始めた。

(学習も適応も結構。ですが――)

私はその輝く杖を剣のようにではなく、一本の「槍」のように固く握りしめていた。


私はそれを思いきり振りかぶって、投げた。

放たれた杖は光の槍と化し、音すら置き去りにして一直線に番人の元へと飛翔した。

それは魔法ではない。剣技でもない。

ただひたすらに純粋な質量と速度だけを持った、原始にして究極の「物理攻撃」。



番人がその未知の攻撃に気づいた時にはもう遅かった。

回避も防御も間に合わない。

光の槍――いやただの杖は、番人の装甲が手薄なその胴体中央に寸分の狂いもなく着弾した。



――音が、消えた。

一瞬の静寂の後、凄まじい衝撃波が闘技場全体を揺るがした。

番人の完璧だったはずの金属の身体が、中心からガラスのように砕け散っていく。

学習も適応も模倣も何一つできないまま、その存在そのものが純粋な「力」によってこの世から消し飛ばされた。



後に残されたのは水を打ったような静寂と、呆然と立ち尽くす勇者たちだけ。

そして闘技場の壁に深々と突き刺さり、まだ微かに白金の光を放っている一本の杖。


私はふぅと一つ長い息を吐いた。

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ビスケット・オリバみたいな戦い方。 魔法士じゃなかったん?最近タクマシスギルwww
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