第4話 真実と事実
僕は驚きを隠せなかった。
まさか僕たち魔族以外に、そんな種族がいたなんて。
僕は父さんに尋ねる。
「それで、僕はどうすれば?」
「うむ。我ら魔族の王家は代々、15歳になるとこの島を出る」
「同胞の復讐。ニンゲンたちを殺すのですね」
「違う。今、ワシが言ったことを盲目的に信じてニンゲンたちを殺すことは、≪ニンゲンが神や勇者を信じ、我らを殺していることと変わらぬ≫。よいか…」
父さんは、少し間をおいて続ける。
「ニンゲンにはニンゲンの真実がある。一方、我らには我らの真実がある。真実は1つではない。それぞれの種族、いや、《《それぞれの個人の中に存在》》するものなのだ」
「真実は1つではない…。ならば、どうすれば?」
「まずはお前自身の目でニンゲンと魔族に起こっている《《事実》》を見よ。そして、《《お前自身の真実》》を見つけるのだ。我ら魔族を率いる者としてのお前の答えは、その中にしかない」
「僕だけの真実……」
「うむ。ニンゲンに扮してニンゲンに紛れこみ、まずは《《事実》》を見よ。そして、お前の真実を見出だすまで、この島に戻ることは許さぬ」
厳しい父さんらしい。
「わかりました。ところで、父さん」
「なんだ?」
「父さんの真実は、なんなのですか?」
「うむ。わしがこうしてニンゲンのおらぬ島に移り住んだことが答えよ。共存共栄が無理ならば、《《鎖国による断絶共存》》しかない、とな。しかし、同胞たちはそれに納得していない。この考え方は、ニンゲンたちからの侵攻があれば即時撤退を意味するからな。それに、ニンゲンたちが、魔族の最後の砦たるこの島にやってきたらどうすれば良いのか。その答えは、わしも持ち合わせてはおらぬ。島を出ていった同胞たちを責めることはできぬ」
「わかりました。私が、この世界に平和をもたらして見せます」
「うむ。期待しておるぞ。しかし、大陸のことを知らぬのに1人では心許ない。従者をつけよう。ユリーナ」
「はい。ここに」
「え? ユリーナが?」
僕の家庭教師だ。
「お前も知ってのとおり、ユリーナは武術にも魔法にも長けておる。お前の力になるだろう」
「よろしくお願いします、イロキ王子」
「まずはニンゲンに姿を変えねばな」
「お任せください。スフォーム!」
すると、僕とユリーナの姿が変わった。
薄黄色の肌。
丸い耳。
これがニンゲンの姿か。
確かに、魔族と大きくは変わらない。
「行け、イロキよ!」
「はい! 行ってきます! 父さん、母さん!」
こうして、僕とユリーナはその日のうちに島を出た。
その夜、イロキの母親は、夫でかる魔王に尋ねた。
「よろしかったのですか? あのことを伝えなくて」
「うむ。今のイロキには受け止めきれんだろう。時が来ればユリーナが伝えるはずだ。《《ニンゲンであるお前》》を魔族の姿に変えたのは、ユリーナだからな」