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異世界アイドル始めました  作者: フォクシー
9/9

9 転移先は見渡す限りの畑

 今三人が立っている田舎道の両側には、見渡す限りの畑が広がっている。さっきまで歌って踊っていた東新宿「さてさて」のステージでもなければ、つい今しがたグラビスと話をしていた何もない空間でもない。


 目の前に広がるこの景色を見た三人は、自分たちがほんとうに転移したのだ、ということを実感していた。

 そうはいっても、周囲に見えているのは日本であっても田舎に行ったら普通に見られそうな風景である。だから、三人は「転移したのだ」ということは実感できても、「転移先であるここが異世界なのだ」というまでの実感は未だになかった。グラビスとのやりとりは常識外のことであったが、その体験を経てなお、三人は自分たちが直面しているこの超常的な現象を現実のものであると心の底から納得することはできていないのだった。


 そんな不安定な心持で、三人は互いの姿を見交わした。

 すると、グラビスが言っていた通り、自分たちが、異世界物のアニメで見たことがあるような、いかにも旅人風といった服装をしていて、旅人が持っていそうな革のバッグをたすき掛けに掛けているのがわかった。

 その姿は確かに異世界っぽいと言えば異世界っぽいと言えなくもないが、地球でもどこかの外国であれば、こういう服装もないこともなさそうに思える。


 できるだけ冷静になって今の自分たちの状態を把握しようと、改めてまじまじとお互いを観察する。

 三人が来ている服も三人の顔も土埃で汚れている。よく見るとステージ用に施していたはずのメイクも落ちているようだ。着ている旅人風の茶色の服は汚れているばかりでなくところどころ破れていて、そこから乙女の素肌が垣間見えている。そうは言っても、いつも着ているステージ衣装よりははるかに露出が少ないから、現役地下アイドルとしてたくさん(?)の観客の前でステージに立って衣装姿で歌って踊っている三人にとって、その程度は恥ずかしいなどということはないけれども。


 そうして自分たちの外見がどのようになっているかを客観的に認識すると、今度は自分たちの身体的な状態に三人の注意は向いた。

 全身を簡単に見たがケガをしている様子はない。ただ、さっきまでグラビスと話をしていた何もない空間にいた時には感じなかったのだが、とてもお腹がすいていることに気づいた。また、少し体を動かしてみると、手足に少し筋肉痛があり、しかも全身が疲れ切っていた。

 三人は自分たちの身体の状態を把握すると、急に空腹と疲労が我慢できなくなり、そのまま道端に座り込んでしまった。


 グラビスが三人に徹底的に教えてくれた「故郷を旅立ってからここに来るまでのストーリー」では、所持金が心許なくなって昨日から何も食べておらず、宿にも泊まることもできずに野宿していた、という設定になっているので、身体の方もそれに合わせて極度の空腹と疲労という状況に置かれているのだろう。


 三人は俯いてしばらく座り込んでいたが、道の横の畑に植えられている野菜を見てフウカがすきっ腹を手で押さえながら、「これ何の野菜だろう。」と呟いた。

 これを聞いたティアが顔をあげて、「異世界転移して最初に出てくる言葉がそれ?」と突っ込んだ。

 その突っ込みは正しいよ。それはそうなんだけどさぁ、お腹がすいているんだよ。食べられるものかなぁと思っちゃうのはしょうがなくない?ただまあティアの言う通り、見も知らぬ場所に空腹と疲労の状態で放り出されているのに、野菜のことなど考えている場合ではない、というのはまったくその通りだ。

 ここにある野菜は畑に植えられているのだから、どう見ても食べられる野菜であるが、そうだとしても、これに手を出してはいけない。そんなことをしたら、異世界に転移したとたんに犯罪者になってしまうではないか。そうしたら、牢屋に入れられてしまい、グラビスニアにエンタメを根付かせることなど思いもよらないということになりかねない。


 そんな間の抜けたやりとりのおかげか、三人は座り込みながらも、次に起こるべきことを思い出した。グラビスの言っていた「拾ってくれそうな人」が現れるはずだ。

 だが今のところそのような人物は見当たらない。それどころか人がまったくいない。空に鳥が飛んでいるだけだ。


 カノンはフウカとティアのやりとりをよそに、座り込んだまま人影が見えないかと道の一方の延びた先をじいっと見つめていたが、ふと何かに気が付いたように「あ、何かこっちに向かって来るよ。」と言った。

 その声にティアとフウカもカノンが見つめている方向に視線を向けた。

「ほんとだ。」

「あれが「拾ってくれそうな人」かな。」

「きっとそうだよ。」

 口々に言いながら、三人はその「何か」が近づいてくる姿から目を離さず、期待を込めて待った。

 その「何か」が近づいてくるにつれて、三人にはその姿が段々とはっきり見えるようになってきた。それは、三人とも地球にいたときにはほとんど生では見たことがないものだったが、それでもよく知ってはいるもの、馬車であることが分かった。三人は馬車に乗っている人物の姿が見えないかと、近づいてくる馬車をじっと見据えていた。

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