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異世界アイドル始めました  作者: フォクシー
7/9

7 転移の準備(1)

 突きつけられたティアの正論に、グラビスは痛いところを突かれたという表情を隠そうともせず、しばらく考え込んだ。しばし沈黙が流れる。そしてグラビスは、仕方がないというようにため息をつくと、

「わかりました。なんとかできる限りやってみます。」と答えた。


「ただ、まずグラビスニアに住んでいるすべての人を観察して、拾ってくれる可能性の高い人を見極めた上で、その人が拾ってくれるような状況がいつ来るか、そのタイミングで転移させなければならず、それを待つ必要があるので、場合によってはかなりの時間がかかります。その間はただひたすらここで待っていただくことになりますのでご了承ください。」

「わかった。転移したはいいけど生き延びられませんでした、ってなるわけにはいかないから待てっていうなら待つわよ。でもあんまり時間がかかるとお腹すいちゃうかも。あ、あとお手洗いも。」カレンがそんな風に言う。


「ご心配なく。この空間にいる限りはお腹はすきませんし、お手洗いに行く必要もありません。それではお待ちください。」

 グラビスはそう言うと姿を消した。おそらくグラビスニアに住んでいるすべての人間の観察とやらをしに行ったのだろう。3人はグラビスが戻るのをおしゃべりしながら待った。

 考えてみれば、ライブの出番の最終盤でここに連れてこられたのだから、普通なら多少なりともお腹は空いているだろうし、疲れを感じたりもしていて当たり前だが、どちらも一切感じない。この空間にいる限りは食事や生理現象の心配はしなくてよさそうだ。

 とはいえここにずっといるなどということは考えたくないし、グラビスも許さないだろう。とにかくグラビスがいい状況を見つけて来るまで待つしかない。


 体感で二時間くらい経っただろうか。三人の目の前に再びグラビスが現れた。

「大変お待たせしました。」

「なんとかなりそうなの?」すぐにカノンが問いかける。


「はい、いい感じの状況になるにはあと数時間かかりそうなんですが。その時間を使って、あなた方の転移後のことについていろいろとお話しておかないといけません。」

「まず、転移先では、転移のことについては一切しゃべらない方が良いでしょう。禁則事項になっているわけではありませんが、グラビスニアの住人は「転移」などということがあることは知りません。ラノベやSF小説とかがないですからね。なので、あなた方が「自分たちは転移者だ」などと言っても周りからは頭がおかしいと思われるだけです。


 グラビスは続けた。

「そして、あなた方の身の上についてどう説明するかですが、あなた方は「オフトルスタン」という遠い国からやってきた旅人という設定でお願いします。その設定に合わせて、あなた方の服装を旅人に見えるような服装にして、今着ている衣装は旅人が使うバッグに入れてお渡しします。オフトルスタンのお金も少し財布に入れてお渡しします。」

「次に、あなた方が故郷のオフトルスタンを旅立ってから転移先に着くまでのいきさつについての作り物のストーリーをお話ししますね。」

 その設定は大筋次のようなものだった。


 三人はオフトルスタンのある同じ街に住んでいた。ティアが「女の子が歌って踊るのを人に見せてお金をもらう」ということを思いつき、同じくらいの年頃の女の子に片っ端から声をかけ、最終的にカノンとフウカが仲間になった。

 三人は繰り返し話し合って、人の目を引いてお金を払ってもらうためには、目立つかわいい衣装で歌って踊るべきだという結論に達し、アルバイトをしてお金を貯めて衣装を作り、歌と踊りは自分で作ったり友人たちにお願いしたりして用意した。

「みっともない」という親の反対を振り切って故郷の町で何度か披露し、期待したほどの反応は得られなかった。

 オフトルスタンは保守的な国民性で人口も少ないからなかなか新しいものは受け入れられないと考え、進歩的な気風の強いジポーンかアベニアに行って一旗揚げよう、という決心をした。


 アベニアの方が遠いので、まずはジポーンを目指そうということで、またバイトをしてお金を貯め、旅支度をして70日程前に故郷を旅立った。その後、陸路でヒンディア、ティンガノール、ワイタンを経由してジポーンに三日前に入国した。

 旅の初めは乗り合い馬車を使い、きちんとした宿に泊まっていたが、とうとうワイタンに入ったあたりで持ち金が心許なくなり、移動は徒歩、宿はどんどんランクを落とし、ついには野宿をしてようやくジポーンに入国した。

 ここまで来てほとほとお腹が空いて疲れ果て、道端に座り込んでしまった。途中ワイタンではイノシシに遭遇してしまい、なんとか逃げられたものの服が破れてしまった。


 三人はこのストーリーを頭に叩き込んだ。これで終わりかと思ったが、グラビスは続けた。

「さて、後はグラビスニアでの常識を身に着けてもらいます。そうは言っても万国共通の暦と通貨と他少しだけです。ジポーンのローカルな常識はむしろ知っていたらおかしいですからね。」

 三人はこれを聞いてげんなりした。まだ覚えなければならないことがあるのか。だが、確かにグラビスニア全土に共通な常識を知らないとなると問題だ。どこでぼろが出るかわからない。三人は気を取り直してグラビスの説明を聞くことにした。

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