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異世界アイドル始めました  作者: フォクシー
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3 「造物主」にできること

「造物主」は話を戻す。


「わたくしたち「造物主」にできる「世界創造」というのは、自分に割り当てられた「空間」に対して、「そこに適用される物理法則を定めること」と「その物理法則が適用される空間内の存在の初期状態を定めること」、そして「初期状態から世界をスタートさせる、いわば「起動する」こと」です。」

「世界をスタートさせた後は、わたくしたちがその世界に介入することは「ほぼ」ありません。「〇タゴラ〇イッチ」で装置を動かし始めた後は、その動きを見守っているだけであるようなそんなイメージです。」


 これを聞いてティアが疑問に思ったことを質問した。

「でもそうしたらどうしてわたしたちは、…、えっと、あなたと今こうして接触しているのですか?これって「介入」じゃないんですか?」


「そうですね。その前に、ティアさんは今わたくしの名前を呼ぼうとされて、わたくしの名前を知らないので「あなた」とおっしゃったんですよね?」「造物主」はそう言って、

「ごめんなさい。あなた方の世界の慣習では最初に名乗っておくべきなのですよね。ただ、「造物主」同士では名前を呼び合う必要もないものですからわたくしたち「造物主」には名前がございません。」

「それに転移自体が稀なことで転移者の方とお話しするような機会もほとんどありませんから名乗ることをついつい失念してしまったのです。申し訳ございませんでした。」

「造物主」は言い訳めいたことを言ってから謝った。


「そうですね、それではわたくしのことは「グラビス」と呼んでください。」そう言うとグラビスはティアの質問に答えた。

「そう、確かに今のこの状況は「介入」です。先ほど、わたくしたちが「世界」に介入することは「ほぼ」ない、と申し上げましたが、今の「介入」は、その「ほぼない」と言った例外にあたるものなのです。」


「わたくしたちに例外的に許されている「介入」は、他の「造物主」との合意に基づいて、その「造物主」の「世界」に存在する「実体」の一部を自分の「世界」に転移させることです。転移させる実体が生物である場合は、転移後の転移体がすぐに死んでしまうようなことは避けなければなりませんので、その生存を脅かさないために必要な最小限の措置を講じることを含みます。」


「ということは、わたしたちは今まで生きていた世界から「転移」させられる、っていうことですか?」グラビスの説明で、自分たちがグラビスの勝手な都合で転移させられることを理解したティアが叫んだ。

「その通りです。理解が早いですね。」その叫びに転移に対する怒りの感情が含まれていることを十分に理解しつつ、グラビスは感情のこもっていないような声音でそう答えた。


「先ほど申し上げたように、わたくしたち「造物主」が持っている「世界創造」の権能は「「世界」に対して物理法則を設定し初期状態を定める」ことです。初期状態が定まり、そこから物理法則に従って世界が動いていく以上、その「世界」の将来の状態は一意に定まるはずです。ですが…」

「一意に定まるとは限りませんよね。量子力学によれば原因から結果は確率的にしか決まらない、と聞いたことがあります。」ティアは勝手に転移させられることへの怒りを込めてツッコんだ。


 だがグラビスはティアの怒りの感情を受け流して答えた。

「そうですね。わたくしが言葉足らずでした。物理法則の内容によって、一意に定まるか否かは変わってきますね。わたくしが知る限り、ほとんどの「造物主」は原因から結果が一意に定まるような物理法則を設定しているので…。」

「というのも、原因から結果が一意に定まるような物理法則を決定することで起動後の任意の時点での世界の状態は厳密に決定されますから、「造物主」にできることが「世界創造」にほぼ限定されている中で、「自分の「世界創造」という行為の結果を予測し、その予測が正しいかどうかを検証する」という楽しみが得られるからです。そんな楽しみでもなければ「世界創造」後の長い時間が、ただただ世界の観察をするという退屈な時間になってしまいますから。」


「なんだかすごく俗物的ね。神様じゃないってのも納得。」カノンが呟いた。彼女もまた、勝手に転移させられることに納得できていなかった。


 しかし、そのカノンの気持ちもグラビスに取り上げられることはなかった。グラビスは淡々と続けた。

「その意味で、あなたがたが生きてきた世界は数多ある「世界」の中では珍しいと言えます。」

 その言葉の後でグラビスが「まああいつだからなぁ」と呟いたのをフウカは聞いて反射的に言った。「あいつって?」

 グラビスも反射的に言う。

「あなた方の「世界」の「造物主」です。性格がねじ曲がってて…、あ、話がそれました。」どうやらグラビスは三人の世界の「造物主」にかなり含むところがありそうだ。


 ティアはグラビスのそんな話は脇にうっちゃって、話を戻すように尋ねた。

「今の言い方だと、グラビスさんの「世界」は原因から結果が一意に定まるような物理法則が設定されているんですね。」

「その通りです。物理法則としてはあなた方の生きてきた世界で「ニュートン物理学」と言われているものにかなり近いです。量子力学の法則は導入していません。わたくしの「世界」に起こる事象は完全に決定されています。」


 そこまで話すと、グラビスは少し表情を曇らせて俯き、黙り込んだ。


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