疲れ果てた魔王、流行りのスローライフに憧れる。 〜戦闘狂な脳筋魔王軍と平穏に暮らしたい魔王の攻防戦〜
「魔王様! ハイオークが人間の村を襲って討伐されました! 報復はどうされますか!?」
――――またか。
なんでだ。
なんでなんだ。
こんなにも統治システムを整備しているのに。
「っ、脳筋だらけすぎるだろうが!」
それぞれの能力に特化した四天王を決め、トラブル対処にあたらせた。が、ダメだった。
兎にも角にも人間に襲われたら百倍返しをするやつばかり。『手を出されるまでは手出ししない』『戦闘は極力回避を』というルールは、手を出させればいいんだな! と解釈するやつしかいなかった。
頭脳派だと豪語するヤツを宰相にした。魔族たちの中では比較的まともそうだったから。
「魔王様が、勇者の出身国に極大魔法を打ち込めばいいんです。時短、権威のアピール、人間へ畏怖の植え付け、などなど他にも利点がありますが、それら全てが一発で解決します。これ以上の低コストはありません」
いや、別に低コストで人間を傅かせたいわけではなく、ただ平穏に日々を過ごしたいだけなんだ。
巷で流行りのスローライフとかやってみたいだけなんだ。
「それを叶えるためには、世界征服が一番早いのですが?」
「なんでだよ!」
「まずその見た目。人間には受け入れられません」
「ほぼ一緒だろ」
「ほぼ一緒ですが、人間にそのような角は生えていません」
見た目は黒髪で人型だからほぼ人間と変わらないのに。角か、角なのか。
「…………折ってやんよ!」
「ちょぉぉぉぉ! 駄目ですって! バカですか! 魔族の角は魔力の象徴でしょうが!」
じゃぁ、どうしろっていうんだとキレ散らかしていたら、自称頭脳派宰相が提案してきた。
とりあえず、人間界の山奥で生活してみてはどうかと。
「山奥であれば人は近づきませんし、スローライフを楽しめるのでは?」
「たしかに――――」
善は急げと二ヵ月の休暇を取り、魔界から一番近い人間の国の山奥に魔法で屋敷を作りそこに住んでみた。
うるさい部下たちもおらず、騒がしい闘争も起き――――玄関に何かが体当たりしているな? 無視でいいか? いやしかし、野生動物に襲われた人間が助けを求めに来ていたら? 助けたら、友だちになれるのでは? 人間と友好関係が結べるのではないのか!?
よしっ――――!
「ブモォォォォォォ」
「…………フレア!」
異様に凶暴化した猪だった。紛らわしい。
「……ん?」
屋敷の周りを見て妙な違和感に包まれた。ここはたしかに山奥だったが、こんなにも薄暗かっただろうか?
今日は雨が降るのかもしれないな。
山奥の屋敷でのんびり過ごしつつ、猪の丸焼きを食べていた。また玄関が殴り叩かれている。この五日間で玄関に攻撃してきたやつは、猪、猪、虎、猪、野犬の群れ、猪、猪だった。猪来すぎだろう。どうなっている人間界。
「はぁ、今度こそ――――ケルベロスかよ。アイスランス!」
ケルベロスが毒素を撒き散らしながら襲ってきたので、氷の槍を降らせて退治した。
「…………ん? ケルベロス? ここは人間界だろ…………は?」
目の前に広がるおどろおどろしい魔の森感。
どうなっているのかと呆然としていると、自称頭脳派の宰相が転移で現れた。
「さすが魔王様です!」
「は?」
「魔素など一切ない人間界で生活するだけで周囲を瘴気で満たし魔界と同じ環境にするとは! この勢いでこちらの人間の国を落としましょう!」
………………スローライフしようとしていただけなのに、領地拡大のための布石にされていた。
「俺のスローライフは?」
「魔王城に戻って作戦を練りますよ!」
「俺の、スローライフは!?」
「終わりました!」
――――くそっ!
俺は諦めないぞ。待ってろよ、俺は絶対にスローライフを手に入れてやる!
―― fin ――
読んでいただきありがとうございます!
夢で見たほのぼのスローライフ魔王を文字起こし……したら何かめっちゃ楽しくなった←
またアホなことしてんな笛路……って感じでブクマや評価などしていただけますと、笛路が大喜びして舞い踊りますヽ(=´▽`=)ノ