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ルーラ

図書館を出て正面に見える同じような外観をした建物、それが資料館だとさっきルイに教わった気がする。中に入るとこの世界のものと思われる地図が壁の1面を占めていた。


「この資料館には学院のことや、この世界についてのありとあらゆる資料が貯蔵されている。もちろんハクが知りたいことが書かれた資料もあるよ」


図書館ほどではないが大量に置かれた本、20台あるパソコン、あちこちに積まれているファイルなど、多くの資料がこの資料館に溢れていた。


「さっき言ってた指輪って言うのは?」

「それはこっち」


そう言ってルイは資料館の奥へと進み、壁につけられている本棚の前で止まった。不思議に思っていた俺の横でルイは1冊の本を取り出し開いた後、自分の首からさげているネックレスを取り外した。


開いたページには何も書いておらずただ穴だけが空いている。その穴に取り外したネックレスの飾りが付いている部分をはめた。その直後、目の前にある本棚が動きだし、下へと続く階段が姿を現す。


「指輪はこの奥だよ」

「こんなところに隠し階段があったなんて……。第一さっき案内してもらった時はこんなの見なかったぞ」


目の前に現れた階段は先が見えない暗闇に包まれている。懐中電灯をつけてその暗闇へと足を踏み出す。


「だから俺には開けられないって言ってるだろ!!」

「ここは鍵を持っている人しか開けられないからね。本来鍵を持った人しか入れないんだけど今回は特別」


リクはそう言いながらさっき取り外したネックレスの飾りを見せてくれる。懐中電灯に照らされた飾りは桜の花が5つ付いたものだった。


「これが鍵?」

「そう。これは学院長と僕らサクラの3人しか持っていないんだよ。だからさっきルイが案内した時ここは紹介出来なかったんだ」


ほらみたことか、と言わんばかりの視線を送ってくるルイを一瞥して、ネックレスの桜を凝視する。なにも知らなければただのネックレスにしか見えない。


「サクラって?」

「成績優秀者のことだよ」


なぜかルイが得意気に答える。


「なんでサクラ? サクラってあの花の桜?」

「"summa cum laude"(サムナ・クム・ラウデ)。この読み方の頭文字をとってサクラなんだ」

「サムナ……、なんだって?」

「サムナ・クム・ラウデ。最優等って意味で成績上位者に贈られる称号だよ」


聞き取れなかった言葉をリクが再度意味と一緒に教えてくれる。


「ハクがもといた世界にこういうのがあるって知った学院の創設者が取り入れたんだって。あとはまぁ後付けだけど、桜の花には精神美とか高潔って意味があるでしょ?」


あるでしょ?って聞かれても花のことはよくわからない。


「それを創設者がいたく気に入ったみたいだよ。だから成績優秀者には桜の飾りが付いたネックレスが渡されるんだ」


「それって俺も成績優秀者になったら貰えるのか?」

「いや、成績優秀者は学院に保管される指輪の数で決まる。今は3つ保管されているから3人ってこと。僕を含め既に3人いるから、ハクが成績優秀者になるには現サクラの卒業を待つか、自分の方が優秀だと認めさせるしかないね」


含みのある笑みを浮かべながら言うリクに何も言い返せなかったが、自分は優秀なのだと自慢されたような気がして少しムカつく。


「そう気を落とすなよ、ハク。サクラは学院の全教員から一目置かれているし全生徒の憧れなんだ。そんな人たちに俺たちみたいなのが叶うわけないだろ」


拗ねているように見えたのか俺の肩に手を置き励ましの言葉を口にするルイ。


「それはどうかな? レンは僕らと同じように教員に一目置かれていたし、知識も技術も申し分なかったよ」

「レンが?」


レンの事を褒められると素直に嬉しく思う。レンは昔から要領が良くて優秀だった。双子なのにどうしてこんなに出来が違うのかとよくランに言われていたことを思い出す。


「実際レンがこの学院に呼ばれたのだってレンの優秀さを見込んでの事だったし、それにハクだって……」


リクが次の言葉を口にしようとした時、辺り一面が突如として明るくなった。暗闇になれた瞳に許容限界を越える光が一気に差し込んできたため、思わず目を瞑ってしまう。


次に目を開けた先に広がっていた光景に目を奪われ、俺は暫くその場を動くことができなかった。


「なんだよ……、これ」


俺の視界いっぱいに入ってきたのは、人間や動物のようなものが5つ描かれている壁とそれら全てが目を離さないと言っているかのごとく見守られているショーケースに入った3つの指輪だった。


「これが全て集めたら莫大な力が手に入るという5つの指輪のうちの3つだよ」


その指輪は特に珍しいものでもなく、一見すると普通の指輪のように見える。特徴とすれば3つの指輪全てに違う色のラインが入っていることだった。


「普通の指輪にしか見えないけど」

「正確に言うと集めるだけじゃ駄目だからね。指輪ははめられてこそのものだから」


リクがショーケースの横に置かれた機械に手を置くとショーケースが開いた。3つのうち緑のラインが入った指輪を取り出し、右手の中指にはめる。


次の瞬間はめたはずの指輪がなくなり、リクの隣に純白ストレートの髪と翡翠の色をした瞳を持つ女性が現れた。


「……」


急な出来事とあまりの美しさに目を奪われた俺は、暫くその女性を凝視し続けた。そのときの俺の顔はなんとも言えない気持ち悪さだったと思う。


「リク、この方はいったい……」

「彼女はルーラ。さっき僕が着けた指輪に宿っている精霊だよ」

「初めまして、ハク。私はルーラ。よろしくね」


耳に優しい透き通るような声。


「どうして俺の名前を?」

「あなたのことなら何でも知っているわよ」


普通、初対面でこんなことを言われたら相手に対して恐怖を感じるところだが、天使のように微笑んだ顔を向けられるとなんだか照れてしまう。


「お前今すごいキモい顔してるぞ」

「だまれ」


ルイにニヤニヤされながらキモいと言われたが、お前の顔の方がよっぽどキモいと思った事は口には出さなかった。


そこでふとあることに気づく。壁に描かれている5つ絵のうち一番左の絵がルーラとそっくりなのだ。


「あれはルーラだよ」


心の中を見透かしたのか、おれが疑問に思っていることの答えをリクが答える。


「あの絵は一体なんなんだよ」

「あれはそれぞれの指輪に宿っている眷属たちの絵だよ」

「眷属?」

「この世界の最初の伝説を作ったとされる学院創設者と契約していたものたちだよ」


眷属、最初の伝説、頭の中ははてなでいっぱいだった。


「最初の伝説って言うのは……」


困惑の顔をしていたのだろう。リクはそんな俺の顔を見かねて、最初の伝説について語り始めた。

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