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新しい出会い

「なんだよここ……」


扉の向こうに広がっていたのは、自分の想像を遥かに越える宮殿のような学院だった。


「ようこそ、イージス学院へ」

「こんなにでっかいのかよ」

「こんなの学院のほんの一部だよ、明日、と言ってももう今日だけど、学院を案内して貰うといい。今日はもう遅いから僕の部屋で休んで」


そういってリクはすたすたと歩いて行ってしまう。こんなところに1人置いていかれたら絶対に迷子になると思った俺は、遠ざかっていくリクの背中を急いで追いかけた。


「ここが僕の部屋だよ。基本2人1部屋だけどここは1人部屋だから僕しかいない。ベットは1つしかないから今日は君が使って、僕はソファで寝るから」


そう言って案内された部屋は白と黒だけで統一されたとてもシンプルな部屋だった。物も必要最低限しか置かれていなくて、生活感はまるでない。


「俺がソファでいいよ」

「そんなに気を遣わないで、後輩なんだから」

「後輩?」

「いいからもう寝るよ。明日は朝一番に学院長の所に行くからね。おやすみ」

「おやすみ」


いまだに現実感がないが今までと明らかに違う場所にいると、嫌でも自分が学院に来たのだと思い知らされる。


布団に入って眠ろうとしても眠れる気がしない。当たり前だ。初めてリクに会ってから数日、それまでの出来事を思い返しても信じられないことばかりだった。本当にこれでいいのかまだ不安は拭えないが、やると決めた以上逃げることはできない。


そんなことを考えていたら本当に眠れなくなってしまい、一睡も出来ないまま新しい環境での初めての朝を迎えた。


「なにその隈、もしかして寝てないの?」


起きて早々俺の顔をみて訝しげな表情をしたリクだか、起きてからの第一声がおはようじゃないこいつもこいつだ。


「うるせぇな。色々考えてたら眠れなかったんだよ」

「逃げたくなった?」


一瞬不安を見透かされたような気がした。可愛らしい見た目に反してリクは鋭い。それにリクの青い瞳に見つめられると、本当に全てを見透かされている気分になる。


「逃げたりしねぇよ。それより学院長のところに行くんだろ?」

「うん。でもその前にこれに着替えて」

「制服?」

「そう。まだ正式に入学した訳じゃないけど一応ね」


渡されたのはいたってシンプルな制服だった。ブレザータイプで黒ベースに青いラインが入っている。


「ピッタリだ……」


事前にサイズを知っていたというぐらいピッタリなことに疑問を持ったが、その疑問はすぐに解消されることになる。


「やっぱりピッタリだね。さすが双子。レンと同じサイズにして正解」


なるほど。俺たちは一卵性双生児だから体格がほとんど変わらない。レンがまだ俺たちと暮らしていた頃、よくお互いの服を交換して周りを騙して遊んでいた。


「じゃあ行こうか」


リクの少し後ろを歩いて学院長のもとへ向かっていると、なんだか周りからすごく視線を向けられているような気がした。驚きを隠せないような視線から怪しい奴を見るような視線、様々な視線を向けられ居心地が悪い。


「なぁ、なんでこんなに見られてるんだ?」

「みんなレンが戻ってきたと思ってるんじゃない? 双子だって知らない人からしたハクはレンなんだよ」


顔も同じ、体格も同じだから間違えたって仕方ない。今までもそんなことは多々あった。でもだったら……。


「だったらもっと喜んだ反応するんじゃないのか? 行方不明だった奴が帰ってきたんだから」

「それは……」

「レーン! レン! レンなのか!?」


突然レンを呼ぶ声がしたと思ったら、前方からこっちに向かって突っ込んでこようとしている奴がいた。


「お前生きてたのか!? いつ帰ってきたんだよ!?」


両肩をつかまれ前後に思い切り揺らされながら、目の前で大声を出されてはなにも答えられない。


「なんでなにも言わねぇんだよ!」

「ルイ、落ち着いて。それはレンじゃないよ」


ルイと呼ばれた男は揺らすのを止め、今度は俺の顔を凝視し始めた。


「どっからどう見てもレンじゃないですか」

「この人はハク。レンの双子の兄だよ」

「……双子!?」

「行くよ、ハク」

「え? あ、待てよ」


信じられないものを見たと言わんばかりの顔をするルイをよそに、全く気にすることなくリクは再び学院長の所へ向かって歩き出す。


「さっきのは?」

「東條 類。レンと同室なんだよ、仲が良かったしね」


同室で仲が良かったってことは、ここでのレンがどんなだったかを一番よく知ってるのか。


「そのルイってのはどんなやつなんだよ」

「とにかく元気なやつだよ。いつ見かけてもハイテンションだし、訓練でもへばってるところは見たことない」

「訓練って?」

「それはこれからのお楽しみ」


不敵な笑みを浮かべてこっちを見てくる。やっぱりどうにもリクの青い瞳に見つめられるのは慣れない。


「さ、着いたよ。ここが学院長室。ここから先はハク1人でね」

「え? 一緒に入らねぇの?」

「僕は僕で忙しいからね。それに用があるのはハク1人だし。じゃ、僕は行くね」


そう言ってリクは来た道を戻っていってしまった。ここに来て初めて1人になる。まだ全然慣れていないこの環境の中1人にされる不安は、想像以上に大きかった。


「とりあえず入るしかない」


大きく深呼吸をして気持ちを落ち着かせてから目の前の扉をノックした。


「失礼します」


ゆっくりとドアを開け部屋の中に入る。照明が少ない上に窓は正面に1つしかないため、陽がでているのに少々薄暗い。


周りを見渡すと様々な形や大きさの時計が置かれており、両端の中央には大きな古時計のようなものが置かれている。刻まれている時間がバラバラなのが不気味だ。


「やぁ、如月 ハクくん。来てくれて嬉しいよ」


部屋を見渡していると前方から声がした。窓の前に座っている人影がある。逆光になっていて顔はよく見えなかった。


「とりあえずかけてくれ」

「はい」


言われるがままに学院長であろう人物の前に座った。近くに来ると目の前の人物の顔がはっきりしてくる。整った顔立ちで長い髪を1つに結わいている。美しい人というのが最初の印象だった。


「ここまで来てくれたこと、感謝している。私はこの学院の学院長をしている橘 慧だ」

「如月 ハクです。俺はあくまでレンを探しに来ただけですから」

「あぁ、わかっている。我々も全力でレンの捜索にあたっている」

「それで俺はどうすればいいんですか?」


蓮を探すことを決意したのはいいが、どう探せばいいのかわからない。


「君には1つやってほしいことがあるんだ」

「やってほしいこと?」

「レンがなんで行方不明になったか聞いているか?」

「任務がどうのってリクから聞きました」

「そうだ。レンはとある任務中に事故に遭いそこから消息がわからない。事故に遭ったことで任務も中止になってしまった」


なんとなく嫌な予感がした。


「そこでその任務を君に引き継いで欲しいんだ」


何を言われているのかわからなかった。俺はレンを探しに来ただけで、任務なんか知ったことではない。


「ちょっと待ってください。俺はレンを探しに来たんです。任務なんて言われても困ります!」

「もちろんレンを見つけることが君にとって最優先事項なのは承知している。しかしレンを見つけるには中止された任務を完遂しなければならない。それができる可能性を秘めているのはハク、君だけなんだ」


任務の完遂……。そんなこと俺にできるだろうかと弱気な考えが浮かんでしまう。しかしもう逃げないと決めた。それがレンを見つけるために必要だと言うのならやるしかない。


「わかりました。俺にできるかわかりませんけど、それがレンを探すことに繋がるのならやります」

「ありがとう。そう言って貰えて嬉しいよ。早速だけど君には正式にうちの学院の生徒になってもらう」

「え!?」

「今まで通ってた学校に関しては心配しなくていい。こちらで手続きをしておく。取り敢えず今日のところはゆっくり休むといい。ルイ、そこにいるんだろ」

「ばれました?」


学院長が俺の後ろに視線を向け声をかけた直後、ここに来る前に会ったルイという男が部屋の中に入ってきた。


「君には今日からルイと同じ部屋で生活してもらう。学院のことはルイに聞くといい」

「さっきも会ったな! 俺は東條 ルイ、よろしくな!」

「如月 ハクだ。よろしく」


犬みたい、それがルイに対して最初に思ったことだった。色素の薄いふわふわそうな髪、人懐っこい笑顔、耳と尻尾があれば完璧だ。


「それにしてもそっくりだな。本当にレンが戻ってきたみたいだ」


似たようなセリフを何処かで聞いたような。


「とりあえず学院を案内してやる。ついてこい!」


そう言われウキウキで前を歩くルイについていき、イージス学院の学内ツアーが始まった。


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