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始まりの一歩

「おい、起きろ! もう授業終わったぞ!」

「んぇ?」

「午前中丸々寝るなんて、お前昨日どんだけゲームしてたんだよ」


昨日、少年と別れ家に帰ったら案の定蘭は激怒していた。みっちり2時間突然家を飛び出したことについて怒られ、やっと解放されて寝ようと思ってもあの一連の出来事のインパクトが強すぎて、全く寝付けなかった。


「早く行かねぇと学食売り切れちまうぞ」

「俺今日行かない」

「は? どうしたんだよお前。今日はデラックスランチの日だろ」

「食欲ない」


デラックスランチの日は毎回必ず誰よりも早く教室を出て学食に行く俺が、机を動こうともしない様子を見て、友人たちが心配そうに俺のことを見ていた。


「大丈夫だって。ちょっと寝不足なだけ。心配すんな」

「でも……」

「ほら、売り切れちまうぞ! はやく行け」


納得言っていない顔をしているが、俺に促されて渋々学食へ向かっていった。


「屋上でも行こうかな……」


教室にいても気分が晴れず、友人が教室を出たのを見て、俺も1人屋上に向かった。よく晴れていて風が気持ちいい。幾分か俺の心を救ってくれるような気がした。


誰かに昨日のことを言いたかったが、言ったところでどうにもならない。まだ頭の中はぐちゃぐちゃだが、俺に出せる答えなんか結局1つしかなかった。でもその答えを決断できずにいるのは、得たいの知れない学院に行く恐怖と、蓮がいない現実を受け止める自信がないからだ。


学院に行ったところで俺に出来ることなんかないし、結局見つけられないなんてことになれば……。そんなこと考えたくないのにどうしたって考えてしまう。その時ふと昨日蘭に言われたことを思い出した。


『私にはないけど、あんたには蓮を助けに行けるチャンスがあるんだよ』


昨日家で怒られついでに言われた言葉だった。学院に行ける、つまり蓮を探しに行けるのは俺しかいない。蘭は行きたくても行くことができない。そう思わされた一言だった。


例え何が待ち構えていようと、たった1人の血の繋がった家族を見放すことは俺には出来ない。不安は消えないがそれでも行くしかない。そう自分を奮い立たせ覚悟を決め、約束の日を迎えた。


「来ると思ってたよ」

「もう既に帰りたいけどな」

「いいよ? まだ引き返すことは出来るからね」

「そんなことしない。俺は行くって決めた。それに約束したからな」

「約束?」


ここにくる30分前、家を出るとき蘭と約束した。必ず蓮を連れて戻ると。


『絶対2人一緒に帰ってきなさいよ。待ってるから』


不安そうに、それでいて優しそうな目をしながら蘭は俺を送り出してくれた。


「お前こそ、自分の仕事は手紙を渡すだけとか言ってたくせに、なんだかんだまだいるじゃねぇか」

「1人じゃ心細いかと思ってね」

「べ、べつにそんなことねぇよ」


図星をつかれ動揺してしまう。決断したもののまだ不安だった。しかし、目の前にいる少年はどこからどうみても頼れそうには見えない。強いていうなら可愛らしい小学生だ。それに……。


「得たいも知れない奴と一緒にいたって不安しかねぇよ。第一名前も知らないし」

「あれ? まだ言ってなかったか。改めまして僕の名前は、西園寺 利空。リクって呼んでよ」


見た目にあった可愛らしい名前だと思いながら、差し出された手を握った。


「この間渡した鍵はちゃんと持ってきた?」

「あぁ。持ってきたよ」

「言っておくけど、今が逃げる最後のチャンスだよ。学院に行けば許可なく戻ることは出来ない。それでも本当に行く?」

「行くよ。もう逃げたりしたない」


リクに、そして自分自身に言い聞かせるように、自分の意思をハッキリと告げた。もう後戻りは出来ない、進むしかない。不安を誤魔化すように心の中でそう言い続けた。


「じゃあ鍵を出して、そしたらこう唱えるんだ。"我を導きたまえ"」


よくわからないが言われた通りにやるしかない。


「"我を導きたまえ"」


そう唱えた瞬間、目の前の海が真っ二つに別れ、その間に1つの道が出来た。その道の向こう側には大きな扉が立っている。


「なんだこれ!」

「行くよ」


そう言ってすたすたと歩いて行ってしまうリクに置いていかれないよう、急ぎ足で後を追う。


「おい、どうなってんだよこれ。何が起こってるんだよ」

「鍵が君を導いているんだよ。言ったでしょ、導けって」

「そうやって言えって言うから」


初めてリクに会ったときもそうだが、こんな超常現象みたいなもの何度も見せられたら、俺の心臓が持たない。


「じゃあ扉を開けて」

「開けてって……」

「普通に鍵開ければいいから」


何処にでもある普通の扉だった、それが立っている場所さえ除けば。言われた通り鍵を開けドアノブに手を掛けた。


「準備はいい?」

「あぁ」

「それじゃあ、行こうか」


その言葉と同時に手に力を込めドアノブ回し、蓮を見つける決意を胸に一歩踏み出した。


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