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【3】デッドorダイ○○ 提示された示談の条件とは

「デッドorダイ○ン。清掃か死か。好きな方をお選びください」



 駅前にある高級マンションの一室。

 ゴミの山とメイドさんに挟まれながら、俺は生死を分かつ二者択一の選択を迫られていた。

 だが……。



「いきなり人を拉致って何を言い出すんだ!? 警察を呼ぶぞ!」


「当然の反応ですね」



 悲鳴にも似た俺の叫びに、メイドさんは手にしていたハンディ掃除機を置いた。

 ロングスカートの端を両手でつまみ、恭しくお辞儀をする。



「瑠璃お嬢様の専属秘書をしております、千駄木せんだぎ 千鶴ちづると申します。以後お見知りおきを」


「瑠璃お嬢様……って、天城さんのことか」



 天城あまぎ 瑠璃るり。それが天城さんのフルネームだ。

 状況から考えると、このマンションの一室に天城さんが住んでいるのだろう。



「天城さんはどこにいる?」



 インターフォン越しに天城さんの声を聞いた。

 このメイドが天城さんの秘書で、この部屋が天城さんの住まいなら本人がいるはず。

 けれど、彼女の姿は見えない。俺は警戒しながらメイドに問いかけた。

 すると、メイドの千駄木さんは申し訳なさそうに首を横に振る。



「お嬢様は席を外しております。代わりに、わたくしめが用件を伝えにまいりました」


「用件?」


「風馬颯人様……。どうかこのお部屋をお掃除していただけませんか?」


「掃除……?」



 状況がよく掴めない。

 俺が何度も首を傾げていると、千駄木さんは長い睫毛を揺らして涼やかに微笑んだ。



「風馬様のお噂はかねがね。綺麗好きで細かいことに気がつく気配り上手。箒を手にしたら一騎当千。あなた様が通ったあとは塵ひとつ残らないと言われている、伝説の掃除屋だとか」


「どこでそんな噂を……」


「企業秘密です」



 千駄木さんは自分の唇に人差し指を当てて、色っぽくウインクを浮かべる。

 

 千駄木さんの言うように、俺は小さい頃から掃除が好きだった。

 簡単な掃除をするだけで達成感を得られるし、鏡のようにピカピカと輝いている洗面台を見ると毎日を新鮮な気分で迎えられるからだ。

 みんなが嫌がる美化委員に立候補したのも、趣味と実益(内申点)を兼ねたものだ。



(だけど、”伝説の掃除屋”の噂はデタラメだ)



 コワメンのせいで不良だなんだと陰口を叩かれているが、いい噂なんてひとつも聞いたことがない。



「失礼ながら風馬様の身辺を調べさせていただきました」



 千駄木さんはエプロンのポケットからスマホを取り出すと、表示された内容を事務的な口調で淡々と読み上げた。



「風馬颯人16歳、私立棚橋高校に通う高校1年生。市内にて母親と二人暮らし。犯罪歴なし。彼女いない歴=年齢。現在童貞」


「童貞っ!?」


「違いましたか?」


「…………違わないです」



 事実をありのままに述べられて反論できず、俺は顔を火照らせながら俯く。

 女性経験がなくて悪かったな! 顔のせいで近づくだけで逃げられるんだよっ。



「ご家庭の事情も把握しております。血眼(ちまなこ)になってアルバイトを探していらっしゃるのも、お母上の負担を減らすためですよね?」


「……本当によく調べてますね」



 千駄木さんの言う通りだった。ウチは母子家庭で決して裕福とは言えない。

 そんな家庭事情にも関わらず、息子の将来のために入学金を工面してくれた。

 ウチの学校は私立だ。高い授業料を払うため、母さんは何個も仕事を掛け持ちしている。

 そんな母さんの負担を減らしたくて、高校進学と共にバイト探しを始めたわけだが……。



「わたくしのお願いを聞いてくださるなら、報酬として100万円お渡しいたします」


「は…………?」



 千駄木さんはそう言うと、懐から白い長形封筒を取り出した。

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