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【27】お姫さまみたいな彼女とデート(?)

「風馬くん?」



 土曜日の朝。駅前広場にて、聞き覚えのある声がして後ろを振り返る。

 そこにいたのは――。



「天城さん」


「よかった。やっぱり風馬くんでしたか。この時間にいらっしゃるとは思わなくて人違いかと思いました」



 天城さんはホッとしたように胸をなで下ろす。


 天城さんは白いサマーニットを上に羽織り、下は淡いピンク色のロングスカートを穿いていた。

 髪は綺麗にセットされており、春の日差しを浴びて薄金色の長髪がキラキラと輝いている。

 そんな天城さんを見て思う。



(可愛いかよ……)



 寝間着と制服姿しか見たことがなかったので、私服姿の天城さんは新鮮だった。

 道行く人間は老若男女問わず、天城さんの姿に目を奪われていた。

 親に手を引かれて歩く少女が立ち止まり、天城さんを指差しながら「お姫さまがいるよ」とはしゃいでいる。

 気持ちはよくわかる。そんなお姫様みたいな子と俺はこれから……。



「どうかしましたか?」


「あっ、いや。その服、似合ってると思って」


「ふふっ。ありがとうございます」



 天城さんは照れくさそうに、だけど嬉しそうに微笑んで長いスカートの端を摘まみ上げた。



「千鶴さんにお願いして選んでもらったんです。風馬くんの隣に立っても恥ずかしくないお洋服を、と思いまして」


「逆だろ。俺の方が気を遣わなくちゃいけない立場なのに」



 間に合わせの格好をしている自分の姿を(かえり)みて、俺はため息をつく。



「すまない。こんなのしか持ってなくて」


「何を仰るんですか。風馬くんは何を着ても様になります」



 天城さんは人差し指を立てると言葉を探すように、くるくると指を回した。



「えっと……アレです。心の内側が顔に出ていると言いますか」


「天城さんは俺を怖い人間だと思ってるんだな。恐ろしい内面が顔の怖さに現れてるわけだ」


「違いますっ。風馬くんは男らして格好いいと言いたかったんです。以前、わたしのことも褒めてくださったじゃないですか。そのお返しと言いますか」


「わかってるよ。からかっただけだ」



 俺は苦笑を浮かべると、さりげなく天城さんから顔を背ける。赤くなった頬を隠すように。

 たとえお世辞だとしても、格好いいと言われたら嬉しいわけで。



「あれ? お耳が真っ赤ですよ」



 俺の様子がおかしいことに気がついたのだろう。

 天城さんは前屈みになると、俺の顔を下から覗きこんできた。



(顔が近い……っ)



 これ以上、顔を見つめたら頭がどうにかなる。

 俺は一歩離れて、頭を掻きながら天城さんから視線を逸らした。



「き、気にするな。それよりどうしてこんな早くに?」


「ソワソワしちゃって早めに出てきたんです。今日のことを考えたら夜も眠れなくて」


「なんだ俺と同じか」


「風馬くんもお寝坊さんだったんですか? そんなに楽しみにしてくださってたんですね。お誘いしてよかったです」



 天城さんは心底嬉しそうに微笑むと。



「観るの楽しみですね。ボッチィング・オブ・ザ・デッド!」


 今話題のB級ホラー映画のタイトルを口にした。


 『ボッチィング・オブ・ザ・デッド』とは、ボッチなオタクがゾンビになって同人誌即売会がハチャメチャになるっていう内容の映画だ。

 TVCMも流れていたが、あまりにも怖いのでクレームが入って放送中止になったという。



「ジョージ・B・ロマン監督が手がけるオブ・ザ・デッドシリーズの最新作で、出演陣も超豪華。あのシャークネイルシリーズに出てくるマック様ことドガイシ・ジョンソンがキーキャラとして出てくるんです」


「詳しいんだな。ホラーが好きなのか?」


「好きというほどではありませんが、テレビや映画館で新作が発表されるとつい見ちゃうんですよね。ホラーのストーリーは単純な分、映像や演出に凝った作品が多いんですよ。二度三度見て、画面の裏側に隠されたメッセージを読み解いていくミステリー的な楽しみ方もあると言いますか!」


「天城さんがホラー好きなのはよくわかった」



 俺が掃除道具について熱弁するときと同じだ。天城さんは目をキラキラと輝かせてホラーについて語り始める。

 ホラー好きな女の子は多いと聞くが、天城さんもその一人のようだ。


 土曜日の午前中から駅に集まったのは、ホラー映画を見に行くためだった。

 映画館は電車で10分ほど行った隣町のショッピングモールにあるため、まずは地元の駅で待ち合わせることにしたのだ。



「急にお呼びだてして申し訳ありません。以前から見たいと思っていた映画なのですが、一人で出歩くのは千鶴さんに禁止されておりまして。でも、風馬くんとなら許可が下りまして」


「わかってる。お嬢様のエスコートを頼むって、千鶴さんにも念を押されたからな」



 昨日の夜中に届いたチャットには、千鶴さんも参加していた。

 どうやら先んじて席を予約したようで、俺が渋っていると……。



【千鶴さん】「ユニバースシネマのプレミアムシートを予約しました。上映は明日の11時からです。お早めのお返事をお願いします」


【俺】「そういえばこれグループチャットでしたね……(滝汗のスタンプ)」


【千鶴さん】「まさかお嬢様のお誘いを断ったりいたしませんよね?(笑顔のキツネスタンプ)」


【俺】「喜んで行かせていただきます……」



 ……というわけで、天城さんと映画館に向かうことになったのだ。



(これはデート……なのか?)



 天城さんは一人で映画に行くのを禁止されているので、仕方なく俺に声をかけたのだ。

 もしも俺以外の誰かが付き人として雇われていたなら、そいつと映画を見に行っただろう。

 千鶴さんだって仕事として傍にいるから、俺との同行を許しているわけで。



(天城さんはどうなんだろう。俺をただの付き人として思っているんだろうか?)



 天城さんの真意を確かめる、いい機会かもしれない。

 付き人としての職務は全うしつつ、それとなく天城さんの気持ちを探ろう。


 なんて思っていたのだが……。



 ◇◇◇



「映画とても面白かったですね。何度も血がブシャーっと飛び散って!」



 隣町にあるショッピングモール。その一角にある映画館から出てきた天城さんは、肌をつやつやさせながら感嘆の声をあげた。

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