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【19】天城さんは可愛い!(熱弁)

 朝の通学路。俺と天城さんが一緒に歩いていると、近くを通りがかった女子生徒二人組がヒソヒソと話を始めた。



「見て。”だいだらぼっち”が芋子ちゃんを脅してる。きっと吹かして食べるつもりよ。逃げてー、芋子ちゃーん(小声)」


「でも、芋子ちゃんはあまり気にしてないみたいだね」


「もしかしてあの二人、付き合ってたり?」


「ははっ、まさかぁ。どうせ芋子ちゃんが弱みを握られてるんでしょ」


「美化委員の仕事も芋子ちゃんに押しつけてるって噂だもんね。そもそもどうして美化委員なんだっての、あの顔で似合わな~い」


「――――ああん?」


「ひっ! こっち見た。いこっ」



 あまりにも耳障りだったので、思わず睨みつけてしまった。

 恐れを成したのか、女子生徒たちは血相を変えてその場から逃げ出した。

 一連の流れを隣で見ていた天城さんが、俺の制服の袖を掴んで首を横に振る。



「ケンカはいけませんよ。めっ」


「だけどあいつら、天城さんを芋だなんだと言いやがって」


「ご自身のことで怒ったのではないのですか?」


「俺のことはどうでもいいんだ。言われ慣れてるからな。けど、天城さんを悪く言うのは許せない。天城さんはこんなにも可愛いのに!」


「かわっ!? かわわっ!?」


「どうした? 顔が真っ赤だぞ」


「い、いま……わたしのことを……」


「天城さんは可愛いっ!」


「……っ!?」


「前から思ってたんだ。天城さんは肌が白くてスタイルもよくて、モデルみたいに綺麗な顔をしてて。きっと内面の美しさが外見として現れてるんだろうな」


「わ、わかりましたから。それくらいでご勘弁を……」


「この際だからハッキリ言わせてもらう。天城さんはクラスで一番……いや、校内で一番可愛い!」


「はぐぅ……っ!」


「だから天城さんが悪く言われるのは悔しいんだっ」



 俺はグッと拳を握りしめながら熱弁する。

 天城さんは見えない矢に打ち抜かれたように胸を押さえた。よくわからないが顔も真っ赤だ。



「天城さんも天城さんだぞ。いくら身分を隠すためとはいえ、そんな冴えない格好をするなんて」


「それはどういう意味ですか?」


「お嬢様だとわからないようにオーラを隠してるんだろ?」



 天城さんの動きがピタリと止まる。俺はかまわず話を続けた。



「だから髪型も野暮ったくて、個性が出ないように制服も地味めに抑えてる。違うか?」


「…………」


「磨けば光る逸材なのに実に惜しい。天城さんの魅力を積極的にアピールすれば、誰も芋子だなんて言わないのに」


「…………」


「おっとすまん。調子に乗って独りでべらべらと喋りすぎた」



 いつもはこんなに喋らないのだが、掃除と天城さんの話になるとつい熱が入ってしまう。

 何も考えずにまくし立てたが、もしかしておかしな事を口走っただろうか。

 俺が頬を掻いて謝ると……。



「わ、わあぁ……。わたしってそんなにイケてませんでしたか……」



 ちいさくてかわいい生き物みたいな情けない声をあげて、天城さんはその場に泣き崩れた。



 ◇◇◇



 昼休み。今日も水やり当番が回ってきて、俺と天城さんは花壇近くのベンチで並んで腰掛けた。

 教室では目立つので一緒に昼飯を取ることはない。

 だから、週に一度あるかないかの美化活動は天城さんと昼飯を食べられる貴重な時間だった。

 そんな二人だけの時間だったが甘い空気はどこへやら。俺は両手を合わせて天城さんに謝った。



「すまんっ。今朝は俺が悪かった!」


「ツーンだ」


「機嫌直してくれよ。俺の唐揚げをやるから。な?」


「唐揚げならわたしのお弁当にも入ってます。風馬くんが作ってくれたじゃないですか」


「だったら筑前煮はどうだ? 天城さんの弁当には入ってないだろ」



 天城さんにおねだりされたので、彼女の分の弁当も俺が作るようになった。

 俺と天城さんの弁当の中身が同じだと怪しまれるので、わざわざ献立を変えている。

 俺の弁当は和食中心で、天城さんの弁当は洋食にアレンジしてある。

 唐揚げならメニューが被っても平気だろうと、二人の弁当に唐揚げを入れていた。



「しかたないですね。そこまで言うなら……」



 俺が弁当を傾けて筑前煮を見せると、天城さんは口を開いた。



「あーん♪」


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