その一 不細工と蔑まれる娘
呪いの未亡人という肩書きをそろそろ返上したくございますの
登場人物のヨアキムがヒーローとなっております。
私、インケリはそれなりの家の娘だ。
貴族や紳士階級では無い。
父は商人で、ガレラ町では手広くやっていて金持ちだ、という程度のそれなりな娘であると言う事だ。
よって、紳士階級の娘ぐらいの贅沢と教養を手に入れられるはずだが、そういった恩恵は全て妹が享受している。
私は美しくなどないからだ。
そのためか、私は両親に疎まれている。
私の後に生まれた妹が美しかったのならば尚更だ。
妹は輝くような金髪に宝石みたいな緑色の瞳をしているのだ。
赤みがかった茶色の髪に、顔立ちをさらに暗くするだけの真っ黒な瞳で、私の外見はさらにみすぼらしいと家族の笑いの種である。
母が継母ならばまだ理解できるが、私は母の実の子供だ。
父は母と結婚してから愛人を作った事が無ければ、母と再婚したわけでもない。
ということは、私は彼等の正真正銘の子供でしかない。
母と妹が同じ色合いだからこそ、この私の外見が汚らしく思えるのだろうか。
「お母さん。どうして私は女学校に通わせてもらえないの?」
「あなたには学校に通えるほどの教養は無いじゃない。お金をかけてもどれもこれも身につかなかった。お金の無駄使いをまださせるつもり?」
楽器の講師は私と妹に付けられたが、高価な楽器は一つしかない。
私がその楽器に触れるのは講師が来たその時だけで、それ以外は妹のものとして私が触ってはいけないことになっていた。
結果妹は見事な腕前となり、私は初歩の曲だって通しで奏でる事が出来ない。
絵を描くにしても同じことだ。
妹と一緒に使えと父が画材を用意しても、使えるのは妹だけ。
木炭だけでしか描けないことで、絵を仕上げる集中力も気力も無いと見なされて、絵画講師も私を見放した。
そして、才能豊かな妹は寄宿舎に行き、残された私はごくつぶしの失敗作として家の仕事をする毎日である。
それでも私には息抜きできる場所を見つけていた。
私は父の経営する貸し馬屋の帳簿仕事も手伝わされたが、そこにいる馬の世話は自分が勝手に願い出て任せられているのである。
馬達には私の外見が醜い事などわからない。
彼等に分かることは、優しく世話をしてくれるか、だけである。
私は純粋に自分を見てくれる相手を見つけたのだ。
私の額に生温かなものが押しつけられた。
馬の鼻面だ。
私の気持を察して慰めようとしているのか。
私は今日も一日頑張った哀れな馬のトーリを撫で、彼女の為にもうひと頑張りとブラシを持つ手を上げた。
この子は我慢強いから良く指名されて貸し出されるが、我慢強いからこそひどい借り主に鞭うたれたりして帰って来ることも多いのだ。
「あなたは出来ない子なんかじゃないわ。あなたが牽くには重すぎる荷を課す人達が悪いだけなの。でもごめんなさいね。そんな人達にあなたを任せてしまっているなんて」
トーリは私の泣き言を聞くよりも、私こそを慰めたいと私に鼻を擦りつけた。
私は彼女の為にさらに優しくブラシを入れた。
「いいな、その子は。俺もそんな風に大事にされたいよ」
聞き覚えのない男性の声に私は声がした方へと振り返った。
そこには、なんと、天使がいるではありませんか!!
金髪碧眼、そんな簡単に言っちゃ駄目。
キラキラ輝く髪は月の光で出来ているようだし、両目に輝く真っ青な瞳は、瑠璃色の鳥の羽みたいに美しいわ。
まるで絵本の中から抜け出た王子様みたいなその人は、ええと、私がいる方へと一歩踏み出して、イグサだらけの床に沈んだ。
「ど、どうなさったの!!」