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30.反抗


-生命の樹内部 地上エリア-


「これにて、全階層の案内は以上となります」

「うむ。ここまで長い時間、感謝する」


 昨日、酒屋でアリー達と別れて以降すぐに防衛部隊の下へと向かったローミッド。生命の樹の内部構造やその詳細、警備体制や巡回についてなどの説明を駐在部隊兵から夜通しに渡って受けていた。


「しかし、外から見ても確かな大樹だが、中に入ればその見た目以上、いや、想像など出来ないほどここまで広い空間が存在していたとは……なんとも不思議なものだ」

「私もここに初めて着任した時はローミッド部隊長と同じことを思いましたよ。どうやら中は異空間になっているようでして。原理はエルフ達にも分からないようですが、外見に反してだだっ広い空間が何層にも積み重なっているのは、それが要因だと」


 ローミッドが戸惑いを感じていたのは生命の樹の中について。

 アレットに生息する樹の中で最も大きな存在となる生命の樹。その規模、高さは数十メートルを遥かに超え、幹の太さは人が手をつなぎ合わせても千人では囲えないほどのもの。

 だが、実際に大樹の中で広がっていた光景は、それ以上に高く、広大無辺な空間。

 地面は灰色鉱石物のタイルで敷き詰められ、壁面には(おびただ)しいほどの植物が重々と生えており、そんな空間がどこまでもどこまでも、果てしなく続いていたのだった。


「しかし、こんなにも広い中、上に登れる手段は手前中央の螺旋階段だけとはな。緊急時の脱出ルートの確保が円滑にいくかどうか……。そこだけは気がかりだな」

「そうですね。魔族の動きはもちろん気になりますが、ただこの国には天の加護がありますので、きっと大事にはいたらないかと」

「うーむ……」


 目に映るものすべてに驚きつつも、ローミッドは案内役を務めた若い部隊兵と会話を交え、ありとあらゆる事態を想定すべく思案にふけながら歩き、出口へと向かう。


「では、私はここで」

「はっ! また、午後から宜しくお願い致します」


 そして、生命の樹の外へと出たローミッドが部隊兵に別れを告げ、そのまま一度街へと戻ろうとした時。


「これはこれは、御苦労様でございます」

「っ!」


 そこで待っていたのは。


「マルカ、殿……」


 にこやかな表情を浮かべるマルカ。

 凛として立つその姿は、初めからローミッドが出てくるのを分かっていたかのような、とても余裕のある様子だった。


「生命の樹の中は、いかがでしたか?」

「え、ええ。初めて見るものばかりで、正直任務とはいえ、終始圧倒されました」


 思わぬ重役の登場に動揺するローミッド。

 こちらもアリーと同じように、国の使者として昨日に続いての失態を犯してなるまいと、マルカに対し慎重に接していく。


「そうでございましょう。訪れる者はみな、そう仰います」


 そんなことは気にも留めず、マルカはローミッドに対し穏やかに話し掛け、細切れの目を柔らかくしながら歩き、近付こうとする。


「生命の樹内にて大きく分かれる四つの世界。土のマナが集いし、”活動の間”。水のマナが集いし、”形成の間”。風のマナが集いし、”創造の間”。火のマナが集いし、”流出の間”。それぞれが広大な空間を成し、その始点と終点は認知出来ず。そして、生命の樹が転生する際、各間のどこか、それぞれのマナの実が発現されると。それを我々は、どんな手の者が忍び寄ろうとも、必ずしも守り抜かなければなりません」


 しかし。


「くれぐれも」


 マルカはローミッドの側に並んだ途端。


「宜しくお願いいたしますよ」


「……肝に銘じておきます」


 先程見せた態度とは裏腹に、その眼を鋭く光らせ、ローミッドの耳元に向かって低い声で小さく囁き、警鐘を鳴らす。


「では、私はこれにて」


 忠告を受けたローミッドの顔が険しいものへと変化する様を見たマルカは、再び笑みを作ると、そのまま一人、生命の樹の中へと向かっていく。


「……はぁ。これは、思っていた以上に動きずらいな」


 マルカの背を目で追っていたローミッド。その姿が生命の樹の中へと完全に消えると、暫くしてから少し背を前へと曲げ、深く息を吐く。


「さて……ザフィロ殿のほうが一番気にはなるが、他の皆は問題なくやれているのだろうか」


* * *


「それで、ラレーシェちゃんは普段どんな修行をしているの?」

「え、えっと」


 中心街から大きく外れた場所に群生する広葉樹の中。

 街へと繋がる本道から更に筋道を通り、奥へ奥へと進んでいくオーロとラレーシェ。


 ラレーシェの修行を手伝うと言ったオーロは、早速ラレーシェに修行場所へと案内してもらうよう求め、道中ではなるべく心の距離を縮められるようにと、気さくに話しかけていた。


「……お嬢、やはり少しは用心をだな」

「そうよ、オーロちゃん。フェニちゃんの言う通り」


 だが、それを未だに良しとはしないのが、二人の後ろから付いていくフェニクスとリヴァイア。


「うっ。そ、その……。皆さん、ほんとにごめんなさい……」


 再び二体の召喚獣から強い眼差しを向けられたラレーシェはその場で立ち止まると、今朝宿屋でオーロを襲おうとしたことについて、涙目になりながら慌てて謝る。


「ちょっとふたりとも! もういいじゃない。こうしてラレーシェちゃんも反省してるんだから」


 耳は垂れ下がり、縮こまってしまったラレーシェを庇おうと、フェニクスとリヴァイアの前に立つオーロ。


「もう、怖がらせちゃって。ラレーシェちゃん、気にしなくていいからね」

「う、うん……。ありがとう」


 背後から聴こえてくる二つの大きなため息のことなど気にせず、ラレーシェの頭を優しく撫でる。


「それで、さっきの話なんだけど」

「あ、それはね。もうすぐ修行場所に着くから、そこで教えるね」

「わかった、ありがとね。じゃ、いこっか」


 少しばかり調子を戻したラレーシェが、オーロの話に筋道の奥を指差しながら健気に答えていった。




「ここだよ」


 暫く歩いたのち、オーロ達が辿り着いた先にあったのは森の中でポッカリと開けた原っぱ。その中央には小さな(ほこら)があり、そこへラレーシェが小走りに向かっていく。


「ラレーシェちゃん、それは?」

「いつも修行で使っている祠。見てて」


 ラレーシェに続くように祠へと近づくオーロ。それを見るや、ラレーシェはオーロに合図を送ると、祠に向かって手を向け、両目を閉じる。


 そして。


「”לאסוף(レソフ) ” -集え-」

「っ!」


 ラレーシェが術を唱えた途端、森中から様々な光が現れ、それらは祠へと向かうとラレーシェの手の動きに合わせるように少しずつ混ざり合っていく。


「これは……マナ?」


 オーロの言葉に反応することなく直向(ひたむ)きに集中し続けるラレーシェ。ゆっくりと深呼吸を繰り返し、祠に集まる光を混ざ合わせ、徐々にその輝きを増幅させていくが。


 次の瞬間。


「ぐっ! うぁっ!?」


 祠から乾いた破裂音が鳴り響くと同時、ラレーシェは衝撃で後ろへと転び、集まっていた光は散り散りとなっては森の中へと還ってしまった。


「ラレーシェちゃん、今のは」

「はぁ……はぁ……。今のが、修行……だよ。こうやって、森中にある四つのマナを集めて、祠の中で混ざ合わせるの。マナの流れを視ながら、混ぜ合わせたマナを全部同じ量にして、虹色の光を出すことが出来たら合格だって、お婆さまが言ってた。でも……」


 オーロの問い掛けに淡々と話すものの、目の前で起きた出来事にショックを受けるラレーシェ。


「ダメだ……やっぱりワタシ」


 尻もちをついたまま、今は光一つも無くなった祠を、じっと虚しく見つめる。


「……ラレーシェちゃん」


 オーロがラレーシェの背中に手を当て、(さす)りながら励まそうと声を掛けた時。


「貴様、何故ここにいる」

「「っ!!」」


 二人の背後からは聴き慣れた荘厳な老人の声音が。


「り、リフィータ王女……」


 慌ててオーロが振り返った先には、射るような眼差しで自身を見下ろすリフィータ王女がいた。


「お、お婆さま……」

「ラレーシェ、何故そなた、この娘を。いや、今はそれよりも。ラレーシェ、昨日の話を聞いておらんかったのか?」


 リフィータ王女はすぐにオーロから狼狽する孫娘へと顔を向けると、今度はオーロを見ていた時とは違い、咎めるような厳しい目つきで見る。


「生命の樹の次期契約者については、そなたではなく、ここにいるシェーメ・オーロを予定とすると」

「ですが、お婆さま」

「先のマナの分散から見ても、また失敗したのだろう」

「それでも」

「そなたの力はまだ未熟なもの。今の段階ではどう足掻いても実力不足だ」

「…………」


 出会い頭、ラレーシェの話も聞かず捲し立てるように説教を続けるリフィータ王女。ラレーシェは謁見の間の時と同様に、懸命に自分の想いを話そうとするが、ほんの少しも聞いては貰えず、両の拳を握り締め、ただただ下を向きながら祖母からの叱責を浴びせられる。


「そなたも自覚しておるだろう。いい加減、意地を張るのは」

「……。お婆さま」


 だが。


「っ!」

「……分かりました。もう、いいです」


 いい加減に我慢がならなくなったラレーシェ。


「ラレーシェ……そなた」


 勢いよく上げた顔は悔しさと怒りで真っ赤になり、目元を赤く腫らしては噛んでいた唇から血を流す様子に、リフィータ王女が思わず驚く。


「もういいと、申し上げたのです。お婆さまがどう言おうと、ワタシに期待などしてなくとも……」


 祖母に負けじと睨み返す少女は。


「お婆さまの思い通りになんてさせませんっ! させてたまるものですかっ!!」


 生まれて初めての反抗を。


「お婆さまの言うことなんて、絶対に聞かないからっ!!!」


 目から大粒の涙を流し、声を荒げて森中に響き渡るほどの怒号を浴びせる。


「ちょ、ちょっと! ラレーシェちゃん」


 孫娘とは言え流石にリフィータ王女に対して示す態度としてはまずいと思ったオーロが、すぐにラレーシェを止めようとするが。


「……そうか。ならば、勝手にするがよい」

「っ!」


 リフィータ王女は怒るどころか、冷ややかな目をしたまま、静かに言葉を掛ける。


「だが」


 そして、そのまま後ろを振り返り、帰り道へと戻ろうとした際。


「時間は2日後までだ。出来なければ……分かっておろうな」

「……言われるまでもなく」


 孫娘に対して見せてはならないほどの、冷酷な態度を見せるのだった。

ここまで読んでくださりありがとうございます

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