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20.決闘 その2


烈志視点



「くそっ……くそっ!」


 それからもオレは、一時の休みも取らずに剣を振り続けた。

 

 ただ、ひたすらに強さを求めて。


「まだ……もういっちょ!」


 基地の訓練場が閉まってる間は実家の道場で親父の弟子達と何度も太刀稽古をした。


「っ! いっ……つ」


 気付けば手の平には大量の血豆が出来ていた。

 それも破れては、握った柄を真っ赤に染めて。

 

 滴り落ちて、床板まで血で濡らしていた。


「お、おい……もう」


 そんな様子を見ていた弟子の一人が稽古を止めるようオレに言い寄ってきたけど、そんなことにオレは聞く耳なんて持たなかった。

 

 ひたすらに、何度も、何度も。


「はぁっ! おらぁ!」


 向かってくる弟子達相手に剣を振り続けた。


 けど。


(手ごたえが、ない……)


 強くなった実感が、全く湧かなかった。

 オレの心の中にはただ、焦りの感情だけが生まれていた。




 ある日のことだった。


「……いちっ! ……にっ!」


 いつものように、早朝から道場で素振りをしていた時だった。

 

「烈志……。お前、もう暫くこっちには来るな」

「……は?」


 突然、オレは親父から道場からの出禁を言い渡された。


「な、なんだよ急に……ここに来るなって、どういうことだよっ!」


(こっちはただ鍛錬をしているだけだぞ)


 訳が分からず、オレは親父に向かって怒鳴りつけた。


「今のお前は……剣をただ物か何かを斬るだけの道具だとしか思っていない。悪いことは言わん。少し、頭を冷やせ」

「なんだよそれっ!」


(剣をただの道具だとしか思ってない?)


 オレは親父が言っていることの意味がさっぱり分からなかった。


「じゃあ聞くが、烈志。お前は今、何の為に剣を振る」

「な、何の為って……。そりゃ強くなるために」

「お前にとって、()()の強さって、なんだ」

「そんなの」


(…………あれ)


「なぜ、すぐに答えられない」

「い、いや。だから」

「もういい。さっきも言った通り、お前は暫くここには来るな」

「お、親父っ!!」


 結局、何もい言い返せないまま、オレは道場から追い出されてしまった。


 



「天下様……。また転送要請ですか?」

「いいから、早く」

「転送制限が無い特待枠とはいえ、流石にこのペースは」

「いいから早くっ!」

「っ! か、畏まりました……」


 道場を追い出されてからというもの。代わりとしてオレは、基地の訓練場が閉まっている時間帯にあっちの世界の魔物を狩ることにした。


 相手は予測不可能な凶悪生物。

 道場での太刀稽古よりもシビアな環境で闘う。


(こっちのほうがもっと鍛えられるじゃねぇか)


 そう思ったオレは転送後、王都周辺の魔物を狩りまくって、マナを集めながら更なる強さを求めていった。


 来る日も来る日も。

 深夜から早朝まで魔物を狩って、日中は基地の訓練場で鍛錬を続けた。


 もう、最後に休んだのがいつだったかも、分からなくなっていた。





「天下様っ! もうこれ以上の訓練は規定違反になります! 本日はもう御止めになられてくださいっ!」


 基地での訓練中、係員がオレの身体に抱き着いてまで必死に止めにきた。


「うるせぇっ! こんなんじゃ、いつまでたっても強くなんかなれねぇ!」


 そんな係員を、オレは乱暴に振り解いた。


「あいつに……あいつに勝てるようになるまではっ……!」


 強くなるため。

 あいつに勝って、それで。


 それで……。


* * *


三人称視点



「ふざけるなぁっ!」


 月光に照らされる森林に囲われた湖畔の側。

 剣を突き立て、咆哮を上げながらローミッドに向かって烈志が迫る。


「ふっ!」


 それを躱すローミッド。

 自身の左を通り過ぎる烈志の背後に周り、再び距離を取る。


「なぜ」


 そして。


「なぜ、そこまでボロボロになってまで、私に固執する」


 烈志に対し静かに、囁くように問いかける。


「…………なぜかって?」


 ローミッドの声に反応する烈志。


「何度も言っているだろ」


 振り返った時の顔は般若の様相となり。


「あんたが……ペーラちゃんの気持ちを無視するからだって」


 己が宿敵を強く睨みつける。


「私が?」


 烈志の返事の内容を理解できず、顔をしかめるローミッド。


「……すまない。その言葉、君にそのまま返そう。彼女の気持ちを無視して言い寄り続けているのは君のほうではないのか?」


 剣を地面に突き立て両腕を組み、烈志に対して不快な感情を見せる。


「そうじゃねぇ」


 だが。


「あんた……なんでペーラちゃんがあんたの事が好きだってこと、ずっと気付いてないフリしてる」

「っ!」


 すぐにその感情は烈志の言葉によって微かな動揺へと上書きされる。


「……さぁ、なんのことかな」


 ローミッドは悟られないよう、落ち着いた様子を払いながら地面に突き立てていた剣を引き抜くと、烈志に向かって構え直す。


「とぼけるな」


 しかし、この男がそれを見逃してくれるわけがなく。


「思い知れ」


 烈志が抜刀の構えを見せると。


「擬技」


 抜刀と同時。


「っ!」


 烈志の剣から衝撃波と共に巨大な斬撃が現れる。


「ぐぅぅっ!?」


 完全に虚を突かれたローミッド。

 一瞬のうちに目の前まで迫った斬撃をギリギリ剣で受け止めるが、直前の踏み込みが甘かった為、簡単に後方へと飛ばされてしまう。


「ぐぁっ!」


 そしてまたしても樹を背負う形になり、退路を断たれる。


「ぬううううっ!」


 襲い続ける斬撃。

 押されるごとに、ローミッドの背中が後ろの樹へとめり込んでいく。


「ぐっ、あぁぁぁぁぁ!!」


 敗けてはならない。

 ここで死ぬわけにはいけないと。


 圧倒的に不利な態勢の中、歯を食いしばっては踏み込みなおし、ようやくの思いで斬撃を振り払う。


「はぁ……はぁ。今のは、まさか……」


 たった今烈志が見せた技。

 それはローミッド自身が何度も繰り出してきた技。


「”エトクォール・ラハオーグ”、だっけか?」


 不敵な笑みを浮かべる烈志。


「真似させてもらった」

「馬鹿な……」


 ローミッドは烈志の言葉に対し、信じられないといった顔を浮かべながら、先程軌道をずらした斬撃が通った跡を見ようと後ろを振り返ると。


「っ! これほどとは……」


 そこには、斬撃によって無惨にも抉り取られた木々が地面に横たわり、斬撃が通った所には人が余裕で通れるほどの道が出来ていた。


 烈志の言葉を聞いた時、それは決して借り物の力で成せる技ではないと思っていたローミッド。


(否。借り物の力だからこそ、ここまで再現できるものなのか……それでもこれは)


 すぐにその考えを改め、烈志に対して警戒を強める。


「もう一度訊く」


 再びローミッドに剣を向ける烈志。


「どうしてペーラちゃんがあんたの事を好きだってこと、無視してんだよ!」


 再三にわたり、問い詰める。


「…………」


 先ほどの一撃に、烈志の並ならぬ努力を感じ取ったローミッド。


(……このままでは、埒は開かないか)


 なるべく穏便に済ませようとしていたが、諦めたかのように地面を見つめる。


「……仕方あるまい」


 そして、烈志には聞こえないほどの小さな声で愚痴をこぼすと。


「君のような、平和な世界で暮らしていける者には分からないことだ」


 これまで誰にも言わず、ずっと胸中に留めていた想いを吐露し始めた。


ここまで読んでくださりありがとうございます。

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