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3.生命の樹


「「「転生っ!?」」」


 今し方ユスティの口から出た言葉に、一同が騒めく。


「て、転生……?」


 その中で一人、空宙が周りの反応に驚きつつ、怪訝な面持ちで訊き返す。


「そうです。ソラ殿はこの世界の者ではないので、転生については初めてお聞きするかと思われます」

「は、はい……」


 生命の樹に関しては、以前にアーシャからその存在と役目について知らされていた空宙だったが、”転生”という言葉についてはこの場が初耳だった。


「それでは、ソラ殿もいらっしゃる場、改めて”生命の樹”についてご説明させていただきます。ソラ殿、生命の樹についてはどこまでご存知ですか?」


 ユスティが真っすぐ空宙を見つめる。


「えっと……。確か、この世界で生きる生物全てが必要とするマナを作り出してくれる存在。ということまでは」

「仰る通りです」


 空宙の解答に、ユスティは胸に手を充て、小さくお辞儀する。


「この世界で生きる我々にとってマナは、いついかなる時も必要不可欠なもの。この場にいらっしゃるシェーメ殿を除いて、この世界で唯一、マナを生成することが出来る存在。それが生命の樹です」


 空宙は話を聴きながら、右斜め前の方を向く。

 そこには険しい表情をしながらユスティの話を静聴するオーロの姿があった。


「この生命の樹については、太古の昔よりエルフが住む国”フィヨーツ”で生息し続けており、数百年に一度、今ある大樹の姿から新芽へと、生まれ変わりを行うのです。これが、生命の樹の”転生”となります」

「なるほど……」


 空宙が小さく頷く。


「重要なのはここから。数百年に一度と転生を繰り返す生命の樹ですが……。この時、生命の樹は大樹の中で”マナの実”を実らせます」

「マナの……実?」


 新たな言葉にまたしても眉をひそめる空宙。


「はい。”マナの実”を説明する前に……もう一つだけソラ殿にお伺いさせていただければ。ソラ殿、マナの種類についてはどれほど存じ上げられておりますか?」

「火、水、土、風の四つがある、とは……」

「ありがとうございます。ソラ殿が仰る通り、この世界のマナは四種類存在しますが、生命の樹が生み出すマナの実も同様に、火、水、土、風と、全部で四つ。この世に顕現されます」


 再び空宙に向けて問いを投げかけたユスティは、少しだけ微笑むと、懐から白い球体のデバイスを取り出す。


「っ!」


 それは空宙がこの世界に遭難する前に、何度も目にしていた物。


「では、そのマナの実についての詳細ですが、その前に……」


 ユスティが手に持つデバイスを起動させる。 そして。


「-レム王、ユスティ殿。そして、レグノ王国軍の皆様方。この度は御集り頂き、感謝いたします-」


 空間に展開されたスクリーンに、井後の姿が映し出される。


「総隊長っ!」

「-空宙、病室以来だな。具合は大丈夫か?-」


 空宙の姿を見た井後が、優しく話し掛ける。


「ここからは、井後殿も交えて会議を進行させていただきます。井後殿、宜しくお願いいたします」

「井後殿、頼む」


 ユスティとレム王は、井後に向けて頭を下げる。


「-こちらこそ、宜しくお願いいたします。早速ですが、ユスティ殿。先日ご報告があった生命の樹の転生について、何か進展は?-」


 両者に挨拶を済ませた井後は、すぐに本題へと切り出す。


「今のところは特にありませんが、後ほどこの場に合流する者から、何かしら新しい情報が伝えられるかもしれません」

「-なるほど。了解いたしまし「あ、あのっ!」 ん?-」


 その時。


「お話の最中、申し訳ありません。今回の転生の件と、その……。そちらの軍とは一体どのような関係が……」


 右手を上げたペーラが、ユスティと井後を交互に見ながら尋ねる。


「それについては、わしから」

「っ! レム王」


 真っ先に応えたのはレム王。


「生命の樹の転生とマナの実については、二日前。フィヨーツの警護担当を任せていた我が国軍の者から連絡があった」


 静かな表情で一同を見渡し、淡々と言葉を並べていく。


「マナの実については古来より、一つ一つが極上の質を持つマナの塊であると認識され、過去幾度も、大きな戦や種族間の争いを止めたほどの力を秘めていると言い伝えられておる」


 静寂。


「此度、そのマナの実を、我々はエルフ国から頂戴し、エレマ隊へと寄贈。今後来るであろう魔族への対抗手段として軍事活用する画策を立てた」

「「「っ!!」」」


 レム王の言葉に、ユスティ、井後以外の者が驚愕する。


「マナの実をもらう!? そんなこと、エルフの連中が許してくれんのか!?」


 ルーナが勢いよく立ち上がり、テーブルから身を乗り出しては大声を上げる。


「転生ですら、エルフ族でない我々でさえ人生に一度お目に掛かれるか否かという次元の話ですよ……? ましてやマナの実ともなれば、エルフ族側にとっても数百年に一度の貴重な物を、そう易々と渡していただけるとは思い難いのですが……」


 続けてオーロも険しい顔をしながら主張する。


「もちろん、タダでというわけではない。彼らが無条件で引き渡すことは決してないだろうからの。そこでじゃ」


 レム王がユスティのほうを見る。


「はい。ここからが本題です。2日前に頂いた情報の中には、現在のエルフ国軍の戦力状況も含まれておりました。結論から申し上げますと、エルフ国軍も、瘴気の影響により戦力がかなり落ちているとのことでした」


 ユスティが手元の資料へと目を落とす。


「そこで、我々レグノ王国軍とエレマ隊の二か国同盟は、魔族への対抗手段を得るためマナの実を頂戴する代わりに、生命の樹の転生が無事に終わるまで、エルフ国の警護を全面的に担当することを提示しようかと」

「……なるほど」


 レム王のとユスティの話に、ローミッドが両腕を組む。


「エルフ国軍の戦力が低下する中での生命の樹の転生。生命の樹は魔族にとっても邪魔な存在、この機にエルフ国へと攻め込んでくる可能性もあるということですね」

「仰る通りです」


 ローミッドの意をユスティが肯定する。


「しかし、この案はあくまでも仮のもの。エルフ国として別の問題があるのであれば、他の方法を新たに画策する予定ではありますが、今一度情報を確認し」


 その時だった。


「――っ! ――――!!」

「ん?」


 突如、外廊下からの騒がしい声が会議場内に漏れる。


「あぁ。恐らく到着されましたね」


 その声を聴いたユスティが、一人納得した様子で扉のほうを見る。


「な、なんだ……?」


 喧騒は更に大きく、徐々に近づいてくる中。


「「「っ!!」」」


 会議場の扉が轟音と共に、勢いよく開かれる。

 そして、扉から現れた者は。


「いやぁ! レム王、ユスティ殿! 遅れてすまない!!」


 一人の大柄の男と。


「放してってば! ねぇ! ()()!!」


 大柄の男の肩に担がれ、赤子のように両足をばたつかせるザフィロだった。


ここまで読んでくださりありがとうございます。

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