22.激戦
「” את כל・לַהֲרוֹג ” !」
渦を巻き、互いに捻れ合う巨大な二つの斬撃が魔物の軍勢に直撃する。
地面はえぐれ、砂塵と共に魔物達の肉片が宙を舞い、斬撃が通り過ぎた跡には血の一文字が出来上がる。
「「「うおおおおおおおっ!!」」」
斬撃が消えたのを合図に、剣士部隊と盾士部隊が一斉に攻め込む。
「「グォオオオオオ!!」」
対する魔物達も地鳴りのような咆哮を上げ、一斉に突進。
両者は草原の中心で激しく衝突する。
剣と牙。
楯と爪。
互いが互いの命を奪おうと。
互いの呼吸音がハッキリと聴こえるほどの至近距離まで身体を寄せあい、鬩ぎ合う。
「っし!」
「はぁっ!」
先ほど剣技を放ったばかりのローミッドとペーラもすぐさま前線へと駆け、迫り来る魔物達を次々と打っ手斬っていく。
更に。
「” Summoned Fire ” ! ―炎の精霊よ、燃やし尽くせ―」
「” Summoned Wind ” ! ―風の精霊よ、空を刻め―」
後衛からは召喚士部隊が各々の召喚獣を呼び出し、波状攻撃を仕掛けていく。
開戦早々、一瞬の気も抜けない一進一退の攻防が。
徐々に血の海と化していく草原の上で繰り広げられる。
「全員下がれっ!」
戦禍の中、ルーナが一際大きな声で周りの兵士達に後退の指示を出す。
兵士達は声がした方向を振り返ると、黄蘗色の楯を体の正面に構え、技の発動準備に掛かるルーナの姿が。
「お前らっ! あれに巻き込まれるぞ!!」
ルーナは構えながら上を向く。
釣られて他の兵士達も上空を見上げると。
「”我が内に秘めたる生命の根源たるマナよ”」
そこには空中を浮遊しながら詠唱を行うザフィロが。
「”今一度我が手に集い、全てを消滅へと導く神の御業と成れ”」
魔物の軍勢に向け構えた両手には大量のマナが集まり、みるみる圧縮されていく。
「盾技っ!」
先に技を唱えたのはルーナ。
冥国の牢で見せたものと同じ、黄蘗色の楯は粒子状の物質へと変化し、宙に散る。 そして。
「” הכל・לְצַרֵף”!―全てを囲えー」
星々のように煌めく粒子は再び形を変え、ルーナの目の前で巨大なドーム型の楯となり、辺り一帯にいる兵士達の上に覆い被さった、瞬間。
「魔技」
ザフィロが技を唱える。
圧縮された高密度のマナの塊がザフィロの掌から離れ、宙を浮遊し、魔物の軍勢の下へと向かうと。
「” לְהִתְפּוֹצֵץ ” ―爆ぜろ-」
「「「っ!!」」」
眩い光を発したと同時、大爆発を起こす。
耳を劈く爆発音が戦場に響き、途轍もない威力で一帯の魔物達を消し飛ばす。
「くっ! ぐうう!!」
盾技を展開していたルーナの下に爆風が襲い掛かるが、小さな身体で必死に巨大化した楯を支え、自身の後ろで待機する兵士達を守る。
だが。
「ほれ、次いくぞ」
ザフィロは先ほどの技の発動から間髪入れず、二発目を放とうと詠唱を再開する。
「ま、待てっ!! まだこっちの準備が!」
爆風が収まってすぐに盾技が解除されたルーナはザフィロに魔技の発動を止めるよう呼び掛けるが、ザフィロはお構い無しに圧縮されたマナの塊を放つ。
再び宙へと放たれたマナの塊は魔物達の下へと向かい、先程と同じように眩い光を放った。
その時。
「盾・擬技」
「っ!!」
突如ルーナの左から白く輝くマナが現れる。
「―全てを囲え-」
それはルーナが見せた物と同じ巨大なドーム型の楯となり、ルーナ達を覆い爆風から守る。
思わずルーナは技の出所を見ると。
「……ったく、手間掛けさせてんじゃねぇよ、このクソちびが」
右手で後頭部を搔きながら怠そうに歩く護がいた。
「てっめぇ……!!」
「あ?」
護の姿を見た途端ルーナは激昂する。
「んだよ、なんか文句でもあんのか? 脆い楯使いやがって」
「なんだと……?」
その時、護が展開した楯の外側で三度目の爆音が鳴り響く。
「ほらみろ」
遅れて爆風が襲い掛かるが目の前の巨大な楯はびくともせず。
「こっちのほうが耐える」
楯の外が静かになったタイミングで護は見せつけるように擬技を解除する。
「てめぇ……ぶっ殺す!!」
「ちょっ! 抑えてくださいっ! ケセフ部隊長!!」
煽りにキレたルーナが爪を立てて護を襲おうとするが、近くにいた盾士部隊の兵士達に抑えられる。
「てめぇら離せっ! もう我慢ならねぇ!」
自身の部下達を振り払おうとするルーナに対し、護は横目に見るだけで相手にしようとはせず。
「ギャンギャンうるせぇなぁ。おい天下。てめぇもこっち見てねぇでさっさと行ってこいや」
護は遠くから様子を見ていた烈志に気付くと、刃のように鋭い目つきで睨む。
「あ、ばれた? それじゃあ」
すると、護に厭われた烈志はやれやれと言った顔をしながらエレマで造られた剣を抜くと。
「いっちょやりますか」
ダンッと地面を踏み込み敵陣へと突っ込んでいく。
「オラオラオラオラァ!」
烈志は身体を捻り魔物の攻撃をギリギリで躱しながら、勢いよく次々と敵を切り倒していく。 しかし、次の瞬間。
「おっと、危ねっ!」
魔物の爪が烈志の背後を強襲する。 だが。
「でも」
「っ!?」
「効かないんだよなー」
爪が烈志のエレマ体に触れた途端、緑色の粒子が火花のように散り、同時に魔物は後方へと弾かれる。
「残念っ! おらぁ!!」
「ギャウウッ!」
一瞬何が起きたか分からず混乱する魔物に対し、烈志はお返しと言わんばかりに思いっきり剣を持つ手を振り抜き、首を落とす。
次々と押し寄せてくる大量の魔物達。
余程の実力者であってもこの状況で一人敵と闘うのは捨て身と同義。
だが、烈志の戦い方は電子によって守られているからこそ可能となるもの。
エレマ体の性質を上手く利用し烈志は更に奥へと進んでいく。
「おいっ天下! いくら電子に守られているとはいえ気をつけろ!」
そんな様子を見ていた彩楓は各所を援護しながら烈志に忠告する。
「もー、良いとこなのに。水差さないでよ左雲ちゃん。それに」
烈志は駄々をこねる子どものようなに文句を言うと。
「何とかしてくれるっしょ、瀧」
不敵な笑みを浮かべ後ろを振り返った。
振り返る先には呆れた顔をし両腕を広げ構える瀧が。
「……はぁ。癒・擬技。 ―癒しを-」
ため息をつき、技を唱える瀧。
右手からはマナ、左手からは電子を放ち、それぞれレグノ王国軍の兵士達と烈志の下へと送り届ける。
受け取った者達はみるみる傷が癒え、烈志のエレマ体も損傷部分が綺麗に直り、元通りとなる。
「さっすがー」
「これっきりにしてくれ」
烈志の言葉に瀧は短く返事をすると、別の場所へと向かう為その場を後にする。
「確かに以前より実力は上がっているが」
「…………」
「あの闘い方は、嫌いだ」
エレマ隊四将のやり取りを見ていたローミッドとペーラ。
「……我々も行くぞ」
「はい」
二人も再び戦場へと駆ける。
ザフィロの大技により敵軍を攪乱した所へローミッドとペーラ、烈志が強襲。
魔物が散り散りになった所を、彩楓の援護の下レグノ王国軍剣士部隊と召喚士部隊が殲滅を図る。
魔物に襲われそうになった兵士達をルーナと護が庇い、傷ついた者はメルクーリオと瀧が癒技を駆使して回復させる。
侵攻が始まってから3時間が経過。
いざこざはあれど、ここまでは侵攻に対し順調に防衛を成功させていた人族側。
だが。
「総員さがれっ!!」
「「っ!!」」
事態は急変する。
魔物達の動きが止まり、突如として後退。
そして。
「……きたか」
入れ替わり、大量のエセク達が姿を現す。
「ヒヒヒヒヒヒ……」
厄介者が不気味に笑う。
闘いはまだ、始まったばかり。
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