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20.覚悟

三人称視点



「皆様、お久しぶりでございます」


 レム王に呼ばれ、大会議場に入ってきたのはエレマ隊総隊長、井後義紀。

 誰もが予想だにしなかった人物の登場に、ローミッド達は驚愕する。


「っ! 貴様っ!!」


 刹那、井後の姿を見て激昂したペーラが剣を抜き、その勢いのまま井後に向かって突進する。


「よせっ! ペーラっ!!」


 咄嗟にレム王が大声でペーラを制止する。


「…………」


 間一髪、ペーラが振り抜いた剣は井後の首元、僅か数センチの辺りで留まる。

 井後はその迫り来る剣先に対し一歩も動かず、じっとペーラを見つめていた。


「ペーラ殿、今すぐその剣を降ろしなさい」


 低く唸る声でユスティがペーラに命令する。


「……私を殺したければ、殺すがいい。元より、ここにはその覚悟で来た。しかしそれは、レム王、ユスティさんの話を聴いてからでも宜しいでしょうか」

「……レム王、ユスティ殿、承知いたしました」


 ペーラは井後を睨み続けながら、一歩下がり、構えた剣を鞘に納める。


 テーブルの奥ではルーナが全身の毛を逆立て、今にも襲い掛かろうという様子で井後に向かって威嚇をしていた。

 普段はペーラの行き過ぎた行為を宥めにいくはずのローミッドも、この時ばかりは腕を組み、鬼の形相で井後を睨む。


「……皆、静まれ」

「っ!」


 あまりの雰囲気に、レム王は今一度、全員に対し制止の声を掛ける。


「レム王、ご説明頂けますでしょうか」


 ほんの僅かだけ表情を緩めたローミッドはレム王に対し、井後について尋ねる。


「あぁ。まずは皆、驚かせてしまいすまない。大変不快に思った者もおるだろう」


 レム王は話し始めると、一度口を閉じ、全員の顔をゆっくりと見渡す。


「我々レグノ王国は……再び地球、エレマ隊と共同戦線を張る事を決定した」

「「「っ!?」」」


 レム王が発した言葉にローミッド、ペーラ、ルーナの三人が唖然とする。


「はぁ!? てめぇ何いってんだよ!?」


 ルーナは堪らずレム王に対し暴言を吐く。 だが。


「静まれ!!」

「っ!!」


 その様子を見たユスティがすぐさま統制を図る。


「これは既にレム王ご自身が決定した事だ! 異論は認めぬ!!」

「なん……だと……っ!!」


 ユスティの言葉にルーナは怒りで目を血走らせては歯を食いしばり、更に顔を歪ませる。


「……レム王、失礼を承知でお伺いいたしますが……。正気でございましょうか」

「あぁ、無論じゃ」

「……そうですか」


 ローミッドはハッキリと怒気を含んだ声でレム王に尋ねるが、返答に対しては指先一つ微動だにせず静かに聞き入る。


「ケセフ部隊長、ペーラ、話を聞きましょう……」

「っ!」

「隊長っ!」


 ローミッドの発言に、ペーラとルーナは理解し難いといった顔を向ける。


「レム王、続けて頂けますか」

「……すまない、ローミッド」


 レム王はローミッドに対し謝ると、ユスティの方を見る。


「まずは……2日前、わしの寝室に魔族の間者が現れると、奴は3日後、すなわち明日。ここ王都へ侵攻するということを伝えた。そして」


 続けてレム王は井後の方を向く。


「この世界の人族を滅ぼした後、今ここに居る、井後殿が暮らす世界の人族も滅ぼしに向かうと言い放った」

「「っ!?」」

「…………」


 レム王の言葉に一同が困惑する。

 しかし、その中でローミッドはその様子をただじっと見つめ、レム王の話を静かに傾聴し続ける。


「どういうことだ? こいつら、魔族と手を組んでいたんじゃなかったのかよ?」

「魔族に、裏切られたということですか?」


 ルーナとペーラが立て続けてレム王に訊く。


「その件については……井後殿、頼めるか?」

「承知いたしました」


 レム王は井後に話の続きを振ると、井後は両腕を後ろに組み、丁寧に返事をする。


「まずは皆さま、我々、日本国及びエレマ隊は決して魔族の手先ではございません。そして、先程レム王の話にもありました、魔族が我々の世界に攻めてくる事については一切存じ上げなかったものです」


 井後はこの場にいる一同の顔を真っ直ぐ見ては、一寸の迷い無く、ハッキリと話す。


「嘘だっ! 現にこの前の戦いでは敵は皆初めから貴様らの兵士達に化けていたではないか!! あれを見てもなお、貴様らが魔族の手先ではないと誰が考える!」


 ペーラは目の前の長テーブルの上を叩き、井後に向かって激しく問い詰める。 だが。


「……ペーラ、今は静かにしろ」

「っ! 隊長……」


 すぐさまローミッドが牽制する。


「井後殿、話を続けてください」

「ありがとうございます」


 井後はローミッドに対し深く頭を下げる。


「そして先日、レム王より我々にコンタクトがあり、再び共同戦線を張ることを締結いたしました。しかし、一国の王とそれに仕える重役のみが理解を示しても、他の方が納得するのは想像しがたいと。では、何を以って信用と成すかを考えた結果……」

「井後殿自ら一人で、我らの世界へと赴いた、というわけですね」

「仰る通りです」

「なるほど……」


 ローミッドの言葉に対し、井後は目を見て相槌を打つ。


「仮に目の前の男が敵国の者だとしてだ。戦時中において、大将が護衛も付けず丸腰で本陣に来ることなど、まず万が一にもあり得ない。尚更、その大将を今すぐにでも殺せるぞといった者達が同時に居座っているこの状況で。潔白となる証拠が出せない以上、現時点で己が無実だと示せる方法としては、理解できる」


 井後の意図に気付いたローミッドが、ペーラ、ルーナに対し淡々と説明していく。


「当初、お互い魔族の手に脅かされる者同士、利害の一致という点で手を組み、明日の侵攻を凌ごうという提案でした。しかし、その案を通すには前提として、裏切り者ではないと信用して貰う為、こうして井後殿がやってきた、というわけになります」


 ユスティが前日に交わされた経緯を説明する。


「どうか皆様、魔族と対抗する為に、今一度、力を合わせては頂けないでしょうか」


 井後は深く頭を下げ、この場にいる一同に懇願する。


「わしからもじゃ、どうか理解してもらえるだろか」


 それに続く形で、レム王も頼み込む。


「……承知いたしました」

「っ! 隊長!!」

「おい、まじかよ!」


 ローミッドの承諾に、ペーラとルーナは未だ納得がいかないといった反応を示す。


「二人とも、覚悟を決めろ。明日の戦いは絶対に勝たなければならないもの。こちらとしても、少しでも戦力が補えるのなら本望。向こうも口だけではなく行動で示したのだ。ここから更にレム王直々の頼みとなれば……。我々はそれに応えるだけだ」


 しかし、ローミッドの態度は変わらなかった。


「御二方、いかがでしょうか」


 ユスティが念押しを図る。


「……承知いたしました」

「わかったよ」


 二人は渋々頷いた。


「……ありがとうございます」


 その反応を見た井後は、再び一同に向け頭を下げる。


「……では、時間もありませんので、このまま明日の作戦会議に移ります」


 そして、ユスティの進行の下、明日へ向けた軍事会議が開かれた。


* * *


少年視点


 -レグノ王国軍魔法士部隊研究所-


「――っ。――――」


 誰かの声が聞こえる。


「ツェデック部隊長、これを」

「クフフッ……。なんだこれは?」


 ここは……。どこだ。


「見てください。先ほどフラスコに入れたエセクの皮膚ですが、白銀の物質により完全に浄化され、さらにマナへと変化しています」


 なんだ……? 動けない……。


「こんな物質は初めて見るのぅ……。お前達、あの少年からもっと採取するのだ」

「畏まりました」


 誰かが、近づいてくる。

 右腕に何かが刺さる。


 ……どうして俺は、こんな所にいるんだ?


「――っ! おいっ! 誰か眠り薬を!」


 あの場所に、戻らなきゃ。


「……!? 何故だっ!? 鎮静しない!」

「まずいっ! 全員で抑えろ!」


 また、誰かを傷つけてしまう前に。


「ツェデック部隊長っ! 少年が!!」


 俺はあそこ以外に居ちゃダメなんだ。


「全くうるさいのぅ……。ほれ、”Chain(チェイン) Bind(バインド)” ―捕えよ-」


-彼を、離して


「っ!?」

「なんだとっ!? これは……レジストか!? いかんっ! 奴が逃げるぞっ!!」


 もう二度と。


「追えっ! 追うのだっ!!」


 あんな悲劇を起こさないように。


ここまで読んでくださりありがとうございます

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