表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
152/153

46.ねぇ、神様



 マモルちゃんが、連れていかれた。



 あんなにずっと、嫌がっていたマモルちゃんを。

 みんなに向かって、違うんだって言い続けていたマモルちゃんを。


 どうして。


 どうしてみんな、聞いてくれなかったの。

 全部、あいつがやったことなのに。どうしてみんな、マモルちゃんのせいにしたの。


 

 --------ねぇ、どうして



 どうして、マモルちゃんが責められなきゃいけなかったの。




 目の前の机に向かって、黒い服を着た人が。

 小さな木づちを叩いて、マモルちゃんに何かを言ったあと。


 マモルちゃんは、その場で暴れ始めた。


 でもすぐに、周りにいた大人の人達に捕まってしまって。

 それでも、マモルちゃんはずっと、冷たい床の上で、叫び続けていた。




 大きな建物から、マモルちゃんが出てきた。

 そこに大勢の人達が、囲うように待っていて。


 出てきたマモルちゃんは、頭から大きな黒い布が被せられていて、顔が見られないようにしていたけれど。


 沢山の、知らない人たちが。

 出てきたマモルちゃんに近付こうと、集まろうとしていた。


 マモルちゃんは、何度も真っ白な光に当てられて。

 

 マモルちゃんは何もしていないのに。

 みんな、マモルちゃんに向かって酷い言葉を投げつけていた。


 すぐにマモルちゃんは、黒い車に乗せられて。

 また、どこかへと連れ去られていったけど。


 マモルちゃんが通った跡には。

 マモルちゃんの血が、ポタポタと落ちていた。




 新しい施設に着いたマモルちゃんは、すぐに建物の中へと入っていた。


 そのままマモルちゃんは、あるお部屋へと連れていかれたけど、そのお部屋は、冷たく、暗い廊下の先にポツンと、一つだけ空いていて。

 

 中はとっても小さくて、イスも、机もなにもなくて。

 ただ、くしゃくしゃになったお布団が、お部屋の隅っこに小さく畳まれていただけだった。


 お部屋の鍵を持っていた施設の人に、マモルちゃんは何か言われていたけれど、施設の人がいなくなった後、そのままマモルちゃんは、そのくしゃくしゃのお布団の上で横になって、身体を小さく丸めて眠ってしまった。


 その日からマモルちゃんは、そのお部屋に独りぼっちで暮らすことになった。




 施設の人が、マモルちゃんを起こしにやってきた。

 その人は、マモルちゃんに朝ご飯を持ってきてくれたけど、マモルちゃんのことを怖がっていたみたいで、お部屋の出入り口より少し離れたところから、持っていた朝ごはんを、軽く投げるようにして、マモルちゃんへと渡した。


 投げられたお膳の上は、こぼれた朝ごはんでごちゃごちゃになっていて。

 だけどマモルちゃんは、怒ろうともしないで。それをただ静かに見ているだけで、渡された朝ご飯を食べようとはしなかった。



 新しい施設での生活は、孤児院の時とはとっても違っていた。


 朝ごはんの時間が過ぎたあと、マモルちゃんは施設の人にどこかへ連れていかれて。別の部屋で、色んなお話を受けていた。

 お話が終わったあとは、またお部屋の中へと戻されて、そのまますぐに、お昼ご飯が渡された。

 孤児院の時みたいに、お外に出ることもほとんどなくて、お昼のあとはまた、朝の時と同じように、施設の人に、別の部屋に連れていかれて。お話を、受けていた。


 お話を受けて、ご飯が渡されて。またお話を受けて、またご飯が渡されて。


 そして、夜になったら。

 マモルちゃんは、あのくしゃくしゃのお布団の中で、また小さく丸まって、眠ってしまった。


 新しい施設には、孤児院の先生たちみたいに、明るくて、優しい人はいなかった。

 お友達もいなければ、お外で遊べることもなくて。


 誰も、マモルちゃんの名前を呼んでくれなかった。

 誰も、マモルちゃんのお顔を見てはくれなかった。


 みんな、マモルちゃんを遠ざけていた。


 マモルちゃんも、喋ることはなくて。

 ずっと下を俯いていて、じっと、床を睨んでいた。



 一日、また一日と。

 同じような日々が、時間が流れていった。


 ユキにはもう、いま、どれくらいの時間が経ったのか、過ぎてしまったのかなんて、感じることはなくなっていたけれど。


 それでも。


 マモルちゃんの姿が、段々と変わっていくのは。

 傍で見ていて、ハッキリと分かった。



 あんなに優しくて、かっこよかった目は、だんだん鋭く、怖くなって。マモルちゃんの目つきが、あいつみたいに悪くなっていった。


 あんなに真っ黒だった髪の毛も、色が落ちて、どんどん真っ白に変わっていってしまって。


 あんなにキラキラしていた、笑ったときのお顔も、もうしなくなって。

 日が経つごとに、孤児院にいた頃のマモルちゃんの面影は、どんどん無くなって、まるで別人のようになってしまった。



 ある時、夜にマモルちゃんが眠っていた時。

 ユキはもう眠くなることはないから、その日もずっと、傍でマモルちゃんのことを見守っていたけれど。


 もしいま、ユキの姿がマモルちゃんに見えるようになったら。

 マモルちゃんは、また笑ってくれるのかなって。


 もしいま、ユキの声が、マモルちゃんの耳に届くようになったら。

 マモルちゃんは驚いて、お顔を上げてくれるのかなって。


 どうしたら、マモルちゃんを助けられるんだろうって。


 ずっと、ずっと。



 ―――――――――ねぇ、神様。



 どうして、マモルちゃんだけ。

 こんなに酷い目に遭わなくちゃ、いけないの。


 もし、見ているのなら。


 どうか、マモルちゃんを助けてよ。





 マモルちゃんが、施設の人に乱暴した。


 その日もお話を受けていたマモルちゃんは、お話が終わったあと、いつも通り、お部屋へと戻されるところだった。


 だけど、その時に。

 マモルちゃんのお顔に、施設の人の肘が当たってしまった。


 きっと、それは偶々で。


 施設の人は、わざとやったわけじゃなかったと思う。


 だけど。


 マモルちゃんは、自分の顔に肘が当たってしまった瞬間。



 施設の人に向かって、思いっきり飛びかかった。



 マモルちゃんに襲われた施設の人が、大きな悲鳴を上げてから。

 あちこちから、大人の人達が一斉に集まってきた。


 すぐにマモルちゃんは押さえつけられてしまったけど、それでもずっと暴れ続けて。

 ベルの音と、沢山の叫び声が、グチャグチャに混ざり合って、辺りに響き渡っていた。



 絶対に暴力なんてする人じゃなかった。


 みんなに優しくて、困った人には手を差し伸べてくれる。


 マモルちゃんは、そんな人だった。



 ――――――――なのに



 もう、ユキの知っているマモルちゃんは。

 どこにも、いなくなってしまった。



 それからも、マモルちゃんは暴れるごとに。

 施設の人達によって、押さえつけられた。


 時々、お部屋から出してすら貰えない日もあった。


 時間が経つごとに。

 マモルちゃんの口癖や、行動が、変わっていってしまった。


 何時間だろう、何日だろう、もう何年なんだろう。


 変わらない日々。変わらない、日常。

 あの日から、マモルちゃんの全てが奪われて。


 ずっと、マモルちゃんが救われるようにと。

 祈り続けたユキの願いも、誰にも、どこにも届くことはなかった。



 時間だけが、過ぎ去っていった。

 施設の人は、たまに違う人が出入りするようになったり。


 マモルちゃんの背丈も、どんどん大きくなっていった。


 それでも。


 マモルちゃんが、昔のマモルちゃんに戻ることは無かった。


 そして。


 いつの日か。



 とうとう、大きくなったマモルちゃんは。


 お外へと。

 時が経った世界へと。


 誰にも迎えてもらえることもなく。


 独りぼっちのまま。


 

 施設から、出ていくことになった。


ここまで読んでくださりありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ