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39.囚われ、再び

今回はサービスで長めです


 日も暮れ、夜闇へと包まれるフィヨーツ国内。

 一つ、二つと街中の至るところで魔道具による灯りが点けられていく中。


「……まだか」


 一方で、生命の樹の前には松明を掲げる者の陰が。


「そろそろだと思うのだが」


 そこには、辺りを橙色の光で照らしながら、今か今かと空宙達を待ち続けるローミッドの姿があった。


 一時宿で休みを取っている空宙達をアリーが迎えに行こうと生命の樹を出発してからおよそ二時間ほど。


 慣れない他国での任務、更には国の重役の監視による重圧が続き、その影響でか普段にしては珍しく、ローミッドは落ち着かない様子で何度も何度も辺りを見渡し、アリーが現れないことを確認する都度、胸中では焦燥を走らせていた。


 すると。


「ローミッド殿っ!」


「っ! アリー殿っ!」


 そこへようやくアリーが戻り、森の中から姿を現すと手を振り上げながらローミッドへと声を掛ける。


「皆、無事にここまで「隊長っ!」 っ!?」


 それを見たローミッドが、アリーの後ろから続々と現れる空宙達を見ては声を掛けようとしたが、その時。


「隊長っ!!」

「お、おいっ、どうしたペーラ」

「隊長っ! ご無事でしたか!? どこかお怪我などは!!」


 ローミッドの声を遮り、アリーの後ろから物凄い勢いで飛んできたのはペーラ。

 生命の樹の下で待っていたローミッドの姿を見ては、一心になってローミッドへと近づくと、人目はばからずローミッドの両肩を掴んでは、顔、胴、両腕、両足と全身隈なくその目で無事かどうかを確認する。


「お、おいっ、どうしたっていうんだ!」


 突然のことに動揺するローミッド。すぐに離れるようにとペーラの肩を掴み自身から引き剥がそうとするもペーラは動じず。彼女はローミッドの身体から手を放すことをせず、ついにはローミッドが着る装備の隙間にも手を伸ばし、傷がないか、包帯が巻かれてないかと見始める。


「い……いい加減にしないかっ!」

「っ!」


 とうとう強引に引き離され、大声で叱咤を受けたペーラはよろけながら後ろに数歩下がり、そこでようやく我に返る。


「す、すみま、せん……」


 王都を出発するよりも前。

 軍会議にてローミッドが先にフィヨーツへと旅立つと決まった時から、より焦がれた想いを抱くようになっていたペーラ。

 王都を出発してからというもの、馬車の中で考え込んでいたのはローミッドの安否について。


 あの日の夜。


 野宿が出来そうな場所を探す為にと、道中に広がる森林地帯の中を探索していた時に発見した、烈志とローミッドが争った形跡。皆、何者が争ったのか分からなかった中、湖畔の縁に沿って無惨になぎ倒された木々と抉られた地面に刻まれた剣戟の跡からローミッドの剣技によるものだと唯一気が付いたペーラはその瞬間。


 それまで胸に抱えていた慕情は不安と憂慮へと変わり。そして、ここまで誰にも見せず、話すこともなく隠してきたその感情は、ローミッドの顔を見た途端、大きな衝動を生み出すものと化してしまったのだ。


「おいおい、会えた途端に人前でいちゃつきやがって」


 そんな事情は知らないと、アリーの後ろから二人のやり取りを見ていたルーナが、ペーラに向かって呆れた顔をしながらヤジを飛ばす。

 

「お、おい。ペーラ、お前」

「い、いえ……なんでもありません。いきなり取り乱してしまい、申し訳……。っ!」


 出会って早々に失態をしてしまったと思ったペーラはすぐに謝るも、次に視線を向けた先は。


「隊長……その、剣」


 ローミッドが左腰に下げていた剣。


「(っ! まずいっ……!)」


 ローミッドが下げていた剣は、王都を出発する際に身に着けていたものとは別の物。烈志との戦闘の際に折れてしまった剣は途中で予備の物と取り換えていたが、そこに気付かれたローミッドはペーラに烈志との争いがあったことがバレてはならぬと思い、咄嗟に右手に持っていた松明を左手へと持ち替え、空けた右手を柄の先端へと被せ、左足を後ろに一歩引きペーラの視線から外れるように身体を傾けて隠す。


「剣がどうかしたというのか?」

「い、いえ……しかしそれは「アリー殿!」 っ!」


 誤魔化すローミッドに対し問いただそうとしたペーラだが。


「皆さんを、中へご案内ください」


 大声でアリーを呼ぶローミッドの声に遮られ、なかったことにしようと企てるローミッドは後ろで控えるアリーに生命の樹の中へ向かうようにと促す。


「あ、あぁ。分かった。では、皆さん」


 そして、ローミッドからの合図を受けたアリーは、後ろに控える空宙達のほうを一度振り返り、そのまま生命の樹に向かって歩き始める。


「おい、ペーラ。いくぞ」

「わっ! ちょ、ちょっと……おいっ!」


 皆が再び移動し始めた中、未だに向かい合うローミッドとペーラの横を通り過ぎたルーナがペーラの左腕を掴み、中へと連れていこうとする。


「(…………隊長)」


 結局、真意は聞けぬまま。

 ルーナに腕を引っ張られながら生命の樹の中へと向かうペーラは、ゆっくりと後ろから距離を取りながらついていくローミッドのほうを振り返ると、その姿に憂いを帯びた眼差しを向けるのだった。


* * *


「こ、これが、生命の樹……」


 アリーの先導により生命の樹内へと入った空宙達。目の前に広がる神秘的な世界に圧倒されると、皆思い思いに感嘆の声を漏らしては見入ってしまっていた。


「皆さん。到着して間もなくですみませんが、あまり悠長にしていられる時間もない為、次へと向かいましょうか」


 そんな空宙達に申し訳ない気持ちはありつつも、任務を最優先とするためと中央にそびえる螺旋階段へと案内するアリー。


「あ、はいっ! 宜しくお願いします」


 返事をした空宙は、アリーから離れないようすぐにその場から動こうと一歩足を踏み出した。


 その時だった。



 懐かしい――。



「っ!!」


 突如、空宙の頭の中で聞き覚えのある声が響き渡る。


「……ダアト、なのか?」

 

 その声の持ち主に心当たりがあった空宙。

 シュクルとの戦闘以来、一度たりとも現すことのなかったその姿を見せたかと思い、慌てて辺りを見渡すも、そこには銀の粒子を身体中から散りばめ、モノクロツートンカラーの長髪を靡かせる女性は居なかった。


「……? ソラ殿、どうかされましたか?」


 不意に立ち止まった空宙を見たアリー。何もいない空間をただ見つめる空宙の背中を見て、何か問題でもあったのかと傍へ駆け寄ろうとした時。


「おやおや、また新しい顔ですか」

「「「っ!」」」


 螺旋階段の上からゆっくりと、聡明な声と共に降りてきたのは。


「こ、これはマルカ殿っ」


 女王リフィータの右腕、マルカ。


「また、随分と騒がしそうで」


 上階から降りていたマルカは螺旋階段の上で立ち止まると、アリーの後ろに控える空宙達を一瞥し、嫌味たらしく三度小言を吐く。


「か、彼らが先日申し上げておりました、追加の援軍になりまして」

「レグノ王国の兵士方は、こんな少年少女を前線に出さないといけないほど、乏しい軍事力なのでしょうか」

「っ! そ、それはどういう」


 マルカが特に睨みを効かせたのは空宙とルーナ。


「あ? このおっさん、今なんつった?」


 マルカとの距離があったとはいえ、人の何倍もの聴覚を有する獣人の耳を持つルーナにはハッキリとアリーとの会話が聞こえたが為、マルカの発言に対して不快に思い突っかかろうとしたが。


「っ! おい、よせケセフ部隊長!」

「あぁ!? なんでだよ」

「話は聞いていただろっ。今はシェーメ部隊長の件もあってフィヨーツ国とのやり取りが難しい状況になっているのだ。下手に口出しをしないで欲しい!」


 近くにいたローミッドがすぐにルーナの傍に寄ると、マルカに聴かれないよう小さくルーナに向かって制止の声を掛ける。


「し、しかしマルカ殿! 彼……あの少年こそ、先日我がレグノ王国を救った英雄本人になりまして!」

「っ! ……こんな子どもがか?」


 その場を諫めようと尽力するアリー、マルカの注意が空宙へと向いたことで、空宙が魔族シュクルを倒し、レグノ王国の危機を救った者であるとマルカに紹介する。


「……にわかに信じがたい話ですな」


 しかし、空宙の風貌を見たマルカは、どこにでもいそうな少年の姿をした空宙が果たして本当に魔族を倒したのかと全く信じようとせず、困惑した表情を浮かべながら蔑むような目で見続ける。


「マルカ殿!」


 その時。


「失礼いたします。っ! マルカ様、この者達は……」


 螺旋階段の上方から一人、今度はエルフ国軍の兵士がマルカを追っかけ翠緑の階段を駆け下りてくる。


「ん? 彼らですか? 以前にも話していました、”マナの実を寄こせ。その代わり、魔族から生命の樹の転生を守ってやる”。などという戯言を言い放つ非常識な国の者達です」

「っ! 彼らがっ…!」


 自国の兵に対し、笑顔で語り掛けるマルカ。だが、その言葉の内容は意図的に空宙達を貶めるものであり、それを聞いたエルフの兵士は血相を変え、空宙達に対して警戒心を顕わにする。


「そ、そんな戯言などっ!」

「戯言に決まっているでしょう。今更なにを慌てふためいておられるのです。我が国において歴史的に国宝ともされるマナの実を。魔族との情勢が情勢とはいえ、事前の協議も無しに勝手に他国からずけずけと踏み入り、こちらの許可なく勝手に生命の樹の防衛を務めるなど」


 ローミッド達がフィヨーツに来て以来、ここまでずっと表情を変えることなく対応を続けていたマルカ。


「先日の女魔法士の失態……主君に刃を向かれてもなお、この私が腹を立てていないとでも」


 だが、この時ばかり。初めて感情らしい感情を顕わにしたのは烈情に燃え滾る怒りを含んだ声だった。


「……っ! し、しかし」


 目の前の老体からは想像もつかないほどの、あまりの気迫に押されるアリー。


「……だが、軍事力が厳しい状況であるのは我が国もそうだ。他国の態度が気に食わない筋が通らないからという理由で、自分の国の弱さから目を背けるのは、それはまた、国を守るという私自身の責務に反することになる。……君」

「っ! はっ!」

「来て早々申し訳ないが、彼らを案内して頂けないでしょうか」

「っ!? ですがっ!」

「この者達の処遇はどうするかは、私でなくリフィータ様が決めること。魔族が攻めてこない保証はどこにもない。それまでは、彼らにも生命の樹を守る一端を任せましょう」


 怒りを見せたマルカだが、一つ息を吐くとすぐに冷静になり、傍にいたエルフの兵士に指示を出す。


「ですがマルカ様、彼らが安全という証明がなくては我々も納得が……」


 しかし、空宙達のことが信用できないエルフの兵士はマルカからの命令であれどすぐに行動へと移せず、マルカに抗議の意を示す。


「……ふむ。そうですね。確かに、このまま彼らを通してしまえば私の信用にも関わる、か……」


 そんな兵士に対し、マルカは怒ったり非難したりせず。


「分かりました。では」


 そして。


「” צורה(ズオー)אמיתית(アミティーツ)”-真の姿を-」


「「「「「っ!!」」」」」


 次の瞬間、マルカが唱えたのは高密度のマナを照射する魔法。


「こ、これは……!」


 それは、ローミッド達がフィヨーツへ到着した際、正門前で受けたものと同じもの。

 

 マルカが技を唱えた瞬間、再びマルカを中心に白く描かれた巨大な魔法陣が地面に出現し、そこから眩い金色の光が急速に一帯を覆う。


「ぐっ!? ま、眩しいっ!」


 あまりの眩しさに両腕で顔を覆う一同。


「(な、なんだこれは……!)」


 突然のことに空宙も眼を閉じ、光が収まるのを待とうとした時。



 逃げて――。



「っ!」


 再び空宙の頭の中に、女性の声が響き渡る。


「(また……! 一体なんなんだっ!)」


 辺りを見渡そうにも、マルカが発生させた魔法陣から放たれる光により視界が金色に染め上げられたが為、あまりにも目視することは出来ず。


「…………」


 暫くして。


「や、やっと消えたか……」


 魔法陣と共に光が完全に消え去ると同時、空宙はさっきの声を頼りに再びダアトが姿を現していないかと辺りを見渡すも。


「……いない、のか」


 その姿は確認できず。


「……ふむ。誰一人として姿を消された者は……」


 技を唱え終えたマルカ。

 今回も誰一人として魔族である者はいないと、そう思ったが。




「貴様……何者だ」


「…………え?」


 見つめた先は、空宙の身体。

 空宙はマルカから自分の身体へと視線を移すと、そこには。


「っ! これって……!」


 身体は透け、顕わになった白と緑の粒子、そして。


「それは……魔族のっ!!」


 その二つの粒子を縛りつけ、蜷局を巻く赤黒い粒子の帯。




「曲者だっ!! 捕えよっ!!!」


 その場にマルカの怒声が轟く。


「ま、待ってくださいっ! これは!」

「何をいうっ! 人の姿に化けた下賤な手先がっ!」

「ま、マルカ殿っ! 誤解ですっ! 彼は」

「どうやって天の加護をすり抜け侵入してきた!」

「だから彼は」

「ええいっ! 貴様ら、よくも騙したなっ! 侵入者だ! こいつらも全員捕えよっ!」


 マルカの合図に続々と中央の螺旋階段に集まる兵士達。

 

「ちょっ! 放せっ!」

「皆さん、落ち着いてくださいっ! 我々は決して魔族では」

「痛ぇっておい! 放せこの野郎っ!」

「マルカ殿っ! よしてくださいっ!」


 弁明しようとするローミッド達だが、抵抗虚しく次々と囚われていく。


「そ、そんな……。皆さんっ!」

「貴様っ! 大人しく捕まれっ!」

「ぐっ!?」


 目の前の光景に頭が真っ白になる空宙。彼もすぐ他の者と同じように捕らえられると、地面へと身体を押し倒され、無抵抗となる。


「(くそっ! なにが、どうなって……!)」


 複数人で抑え込められる空宙は、あまりの圧力に肺を押しつぶされ、声も出せずにただ生命の樹の外へと連れ出されていく皆を見ているだけしか出来ず。


「……貴様」

「っ!」


 上から声を掛けられ、必死に首を動かし見上げた先には、憎悪に満ちた顔を向けて見下すマルカが。


「ぉ……ぉれ……は、なに、も」

「貴様はあとで拷問だ」

「ち……がぅ……ぉれ……は」

「ここへ来たこと、覚悟するんだな」

「がっ! ぁ……」


 そして、目いっぱいにマルカに顔面を踏みつけられた空宙は気を失い、そのまま兵士達によって運ばれるのだった。


ここまで読んでくださりありがとうございます。

少しでも、「面白いっ!」と思って頂ければ幸いです。


よければ、ブクマや評価などもあればとても嬉しいです。

引き続き、本作品を宜しくお願い致します。

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