1.再び
この物語はフィクションです。
グロテスクな表現等が含まれています。
よろしくお願い致します。
-異世界アレット レグノ王国王国城内祭儀場-
どこまでも広がる暗雲。
雷は轟き、雨が激しく地面を叩きつける天候の中、幾人の足音が祭儀場内に響き渡る。
「レム王! 間もなく次元転移魔法の準備が整います!」
祭儀場深部から一人の男が、向かってくる集団に声をかける。
深部ではすでに数名の魔法士たちが儀式の準備に取り掛かっていた。
「ここからいけるのだな」
集団の中で一段と装飾の施された衣類を纏っている男が魔法士に問いかける。
「はい、ここより異世界に繋がります」
その時。
「っ!! レム王! 次元転移魔法が発動します! 危ないですので少しばかり離れておいでください!」
魔法陣が白く輝き始め、複数の側近が国王の身を案じ魔法陣から距離を保つように促す。
「うむ。では、ユスティよ、向こうへ行ったら頼んだぞ」
王は、先程から魔法陣の真ん中に立ち転送を待つ男に一身の望みを託す。
「御意。必ずや、我がレグノ王国の危機を救ってみせます」
重役を担う男が己が王に向かい深く頭を下げる。同時、魔法陣の輝きが一層強くなる。
そして、描かれた魔法陣の外周から眩い光が円筒状に放たれると、それらは徐々に中心へと向かい……ついには男とともに消え去っていった。
「行ったか……」
次元転移魔法の発動に懸っていた魔法士たちは、皆疲れ果て、その場に座り込む。
静寂。
誰も物音ひとつ立てることなく、雨音のみが祭儀場内にこだましていた。
――――――刹那
「っ!? 何が起こった!?」
突如、発動し終えたはずの魔法陣が再び輝き始める。
その輝きは先ほどよりも激しく、更には魔法陣を中心に祭儀場全体が大きく揺れ始める。
「っ! これはっ……! 国王! 魔法陣の暴走です! 早くここから離れっ!?」
瞬間。
国王の目の前にいた配下は魔法陣から放たれた光に巻き込まれた途端、その姿を消す。
「っ!? 皆の者! 直ちにここから離れ、柱の後ろや物陰に身を潜めるのだ! 決してあの光には触れるでないっ!」
配下を一瞬にして消した光が只ならぬものと悟った国王は、急いで皆に向かい叫ぶと、自らもその場を離れ、近くの窪みに隠れる。
暴走した魔法陣から放たれ続ける光の勢いは止まることを知らず、遂には祭儀場の天井を破壊。
そこから王国城内へと雨あられのように降り注がれていった。
「…………」
どれほどの時間が経っただろうか。降り注ぐ無数の光に誰もが手も足も出ず怯える中、凶悪な光の雨は次第に弱まり、ついには魔法陣とともに再び静まり返った。
「……っ!!」
国王は恐る恐る顔を上げ祭儀場内を見渡すと、目の前に広がる光景に愕然とする。
魔法陣によって放たれた無数の光により、壁はあちこちが崩れ、祭儀場内を彩っていた美しいステンドグラスの装飾は、無惨にも原型が無いほどに崩落していた。
祭儀場内にいた配下たちも何名かは姿が見えず、幾人かは身体の一部だけが光に巻き込まれたのか、片腕がないものや、上半身の全てが巻き込まれ肉塊のみとして転がっている者さえいた。
「……そ、そんな…………」
どれほどの配下を失ったのだろうか。
国王は目の前の残酷な光景に言葉を失い、只々立ち尽くすしかなかった。
「――! ――――っ!」
その時、祭儀場深部入口から慌ただしい声が。
「あなたっ! あなたっ!! ティーファが! ティーファレットがっ!!」
"また、繰り返されるのか"
-2100年 地球:日本-
何気ない日常。
「なんだ? あれ」
雑踏の中、一人の男が空を見上げ一点を指さす。
指さす方向には肉眼でギリギリ見えるほどの小さな黒点が。
その時だった。
「おっ、おい!!!」
突如、黒点を中心に空に割れ目が現れる。
その割れ目は留まるどころか急速に広がっていく。
大勢の人々が目の前の光景に足を止めていた。
ある者は慄いたのかその場から逃げ出し、ある者はこの光景を千載一隅とみたのか、嬉々としてこの瞬間を残そうとカメラを取り出す者もいた。
「人だっ! 人がいるぞ!!」
次元の断層から現れたのは異世界からの使者達。
その者はまるで御伽話に出てくる天使のように、悠々と地上に舞い降りる。
異世界の者は言う。
「異世界の方々、どうか私たちの世界を助けて下さい」
その日、日常は世界に別れを告げた。