3話 朝、少年少女との交流
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「……おなかすいた……」
朝起きて一言目がこれである。
しょうがないよね、昨日ご飯食べるの忘れたんだから。
僕は昼ご飯は食べない派だから丸一日くらいご飯を食べてないことになる。
「……ないよぉ……」
錬金術師が作った食料保存用の箱、つまり冷蔵庫な中身は油くんお一人様しか居ない。
これだけじゃあ油くんも僕のお腹も寂しいだろう。お昼に買ってこなきゃ。
そんなことより今は僕の朝ご飯だ。
地下にある何故か虹色に光るもやしを食べようか。さようなら、七光くん……
薬漬けにしてるけど、有害のものは入れてないし多分大丈夫。
適当に取って茹でて口に詰め込む。
……独特の味になんだかガムみたいなようで柔らかいパンみたいな食感。
「ん〜、新感覚……」
少しずつ目が覚めてくる。
錬金用の釜に入れていたお湯を捨てて1階に上がる。
お店の表の看板を『開店中』に変え、お店の中に戻ってじょうろを手に取る。
また表に出てお店の横の花壇で栽培してる薬草に水をあげる。
これは緊急用のちょっとレアな薬草。仕入れ先は別にある。
たまに咲く花が美味しい蜜を溜めるからよく吸っている。蝶々に渡したことは一度も無い。
今日は咲いてなかった。残念。
花壇のお手入れをしていると、後ろから声を掛けられる。
「ここに居たのか。店の中に居なくて大丈夫なのかよ」
「この時間にこんな所に来る客はなかなかいないんだよ」
それに魔道具で警備してるしね、と付け加えて振り返る。
「おはよう、シン君。それにニーナちゃんも、おはよう」
「ああ、おはよう。朝からご苦労様だな」
「おはようございます! あの、それって太陽草ですよね!」
「うん、そうだよ。ここらじゃあまり採れないからねぇ。ここで栽培してるのさ」
「へえー! あれ、お花はどうしたんですか? こっちも大きく育てば錬金素材になるはずじゃ……」
「ああ、そっちならいつも咲いた側から食べてるよ」
「えっ、食べっ……食べてるんですか!?」
「うん。美味しいからね」
「おいおい、あんた錬金術師なんだろ? それが錬金術の素材を食べるって、いいのかよ?」
「え……でも、美味しいよ?」
「そこまで言うほどか……」
「とっても甘いんだ。食べてみれば分かるよ。あ、でもここのはあげないからね?」
「いらねえよ」
よかった。僕の太陽草の平和は守られた!
「それで、朝早くにここまで来て、なんの用だい?」
「ああ、ちょっとニーナがドジ踏んじまってな」
「あ、はい。こっちの錬金陣を破いてしまって。朝早くからすいません!」
「俺が依頼の方に行く前に連れて来たかったんだ。悪い」
「ふふ、大丈夫だよ。今はもう開店してるしね。それで、錬金陣ね。お店の中に入ろうか」
お店の中に入り、錬金陣も持ってきてあげる。
基本的に錬金術師のお客さんは来ないから錬金術の道具は奥に置いてあるのだ。
「はい、これだよ。一枚銅貨6枚。予備にもう一枚買っておいた方がいいんじゃない? 錬金陣はどうして破いちゃったの」
「それが、昨日買った魔道具の玩具を夜遅くまで弄ってたんですけど、眠気でボーっとしたまま片付けをしようとして、錬金陣を固定したまま引っ張っちゃいまして……あはは」
「そうなんだ。僕があれを売っちゃったせいでもあるかな?」
「いえそんな、とんでもない! ただ私がドジ踏んじゃっただけですって! あ! それと昨日買ったあれなんですけど、分解して組み直したらおかしくなってしまったんです。これなんですけど」
「ふむ、ちょっと起動してみてよ」
出された物は、一見ただの箱で、特徴は上に窪みがあることだけだ。
窪みには紙吹雪が入っている。
これの名前は風太郎くん。
本来ならこの紙吹雪を風で舞わせるものなんだけど……
起動すると、紙吹雪が舞ったけど、その範囲が箱の真横まで広がっていた。
本来は窪みの真上程度の範囲を舞うんだ。それが箱を含んだ上側半球の範囲まで舞ったいるんだから確かにおかしい。
「まあこういうのは叩けば直るでしょ。えいっ」
「え?」
斜め45度くらいの角度で叩いてみる。
適当に魔力も纏わせて叩けばなんとかなるでしょ。
なんか風太郎くんの魔力が高まってきて光ってるけど、ヨシッ!
「おいおい大丈夫なのかこれ?」
「うーん、ダメかも」
「えっ、なら危ないんじゃ?」
「まあ構造的に命の危険は無いから大丈夫!」
「おい」
魔力の高まりが限界に達した風太郎くんは、ボンッという音と共に風を爆発させた。
強い風が全身を押し退けてくる。
「わ!」
「うおっ!?」
「きゃっ!?」
幸い風はすぐに止んだから倒れることは無かった。
だが、より大きな被害を受けた者が1人いた。
「ぷっ、くふふふっ、シ、シン君、その髪型、に、似合ってる、ぜ……あっははははは!」
「ふっ、ふふふ……ご、ごめんね。でもその髪は早く直した方がいいと思う……」
「いや、しばらくこの髪型でもいいかもしれないよ? 対人戦で有利になるよ……くっ、ふはははは!」
「こ、この野郎……! クソッ顔出せ! 一発ぶん殴ってやる!」
笑いのツボに入ってお腹を抱えてカウンターの裏で笑い転げる。
なんかシン君が怒ってるからカウンターの下から震える手で髪を整えるクリームを出してあげる。
何故かシン君は怒りを増したようだけど何故かは分からない。親切心であげただけなのに。
シン君が髪を整えている間に笑いが落ち着いてきた僕は起き上がる。
……シン君の顔見てまた笑いが込み上げてきた。
「ふぅ……ごめんね、シン君、ニーナちゃん。お詫びにそのクリームはあげるよ。身だしなみを整えて損は無いからね」
「はい」
「あ、あと、いざというときにはまたああいう髪型にもできるから……ふふふふっ」
「おい! あんたあんま反省してねぇな!?」
「ふふ、ごめんごめん。まあ参考程度に聞いておきなよ。実際相手を動揺させて戦闘を有利に運ぶ戦術もある訳だしさ」
「はあ……分かったよ。ったく……」
「よし! じゃあ僕が見てるから今度はこれをちゃんと直してみようか。ニーナちゃん錬金陣出して」
「はい!」
「最初からちゃんと直せよ」
「まず分解してみて……うんうん、上手上手……そうそう、そこはこうで……あーここか、ここの魔石が位置間違ってるよ……そこそこ、ここに置かないと制御が……」
「無視すんな!」
そんなこんなで風太郎くんの修理が終わり、彼らの用事は済んだ。
「今日は悪かったな。こんな朝早くから騒がしくして」
「いいよいいよ。さっきも言ったけどもう開店してるし、たまにはこんなのも悪くない。そろそろギルドも開く時間だよ。気をつけてね」
「おう、じゃあな」
「今日はありがとうございました! また来ます!」
「うん、またねー」
カランカランと、ベルの音がはっきりと聞こえる。
「ふう……あー笑った笑った。あんなに笑ったのは久しぶりだなあ」
朝から滅多に無い騒がしさだった。
でも楽しかった。
またこんな事が……たまにあればいいかな。頻繁にあったら楽しいけど疲れそうだから。
それまでは、こうして、のんびりしてよう。
硬貨
小銅貨、銅貨、大銅貨、銀貨、大銀貨、小金貨、金貨がある。
価値
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大銀貨1000
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