表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
バイト先の毒舌後輩ちゃんの先輩改善計画。  作者: 神無桂花
真面目な後輩は少し不器用です。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

90/110

先輩、お疲れですよね?

 「しかし、結果とはどう出すんですか?」

「三段階だ。一つ。この学校で認められる。二つ、世間的に認められる。三つ、この二つが成されたら有坂家と直接対決になる」

「この学校で、認められる?」

「あぁ。この学校には芸術特待枠というものがある。スポーツ推薦ほどメジャーじゃないがな」

「んー? それを今から申請するの? 理事長、協力的じゃなかったから、書いてくれと言われて書くとは思えませんよ」


 恵理はそう言って腕を組む。


「当然だな。だから結果出せって言われたんだ、俺達は目に見えて認められる結果を残さなければならない」


 そのために必要なこと、それは。


「美玖の腕を広く知ってもらうことだ」

「えっ、美玖の、ですか?」

「あぁ、すぐにできることはそれしかない」

「で、でも、どうやって」

「それを今考えている。正直、思いついてはいない」


 全校集会で披露とか考えたが今は夏休み中、生徒を集めるのは正直難しい。

 コンクールも今から金賞を取るほどまでに練習するのは厳しい。


「……センパイ」

「ん?」

「これとかどうです?」

「ん?」


 恵理が差し出してきたスマホ。そこにはショッピングセンターに置かれていたピアノを演奏して、人だかりができている様子が映し出されていた。


「これは?」

「ストリートピアノで急に有名な曲を演奏してみた、という趣旨の動画ですね」

「へぇ」

「……正確な演奏というより、楽しませる。パーフォーマンスのような」


 その辺りは門外漢。俺は芸術的な奴はからきし。

 絵を描けば美玖に笑われ、歌を歌えば美玖はそっと耳を塞ぐ。楽器を覚えようとしたが。

「お兄様、お兄様はその……独特なリズム感をお持ちですね」と取り上げられた

 そんなわけで。


「ストリート演奏については賛成だ。プロデュースは俺の方でする。技術的な面は三人に任せる。曲目の候補は後で送るから、そっちで選んでくれ……多分、古いクラシックの方が良いな」

「クラシック?」

「あぁ。著作権とか色々あるだろ。クラシックも全部が全部切れてるわけじゃないだろうし、調べる必要がある」

「なるほど……気づきませんでした」

「それにその方が美玖もやりやすいだろ」

「そうですね。ありがたいです」

「というわけでよろしく頼む。恵理、その動画と似たようなことやってる奴がいたらリンクを送ってくれ」

「はい、センパイ」


 動画投稿か。……あぁ、色んな手が見える。


「恵理、助かった。正直詰まっていたところだった。考えてた案がどれもしっくりこなくてな」

「それはそれは、お役に立ててこーえいです」

「ふっ。頼んだぞ。俺は家に帰ったらリサーチとアカウントの準備に取り掛かる。美玖は……良いな、美玖」

「……お兄様は、本気なんですね」

「あぁ」

「美玖を、あの家から、連れ出す」

「そうだ。なるべく穏便にな」

「え」

「リクエストはちゃんと答えるさ」


 そう言ったお兄様の目は香澄さんの方に向いていて。

 お兄様の表情は柔らかくて。


「……ふふっ、わかりました。美玖、最大限に頑張ります」


 大分変なことを考えている自覚はあるけど、初めて親にイタズラする子どもは、きっとこんな気分なんだって。




 さて、方針は決まったが、ってやつだな。

 知識としてクラシックの名曲どういう曲があるか知っているが、自分で弾いて感触を確かめられないのがもどかしい。


「……とりあえずこの五つの中から選んでもらうか」


 そんなわけで、弾けば盛り上がりそうな曲をピックアップ。恐らくバラードよりも情熱的な曲の方が良いだろう。

 クラシックの名曲は、曲名や作曲者を知らなくても、聞けばわかるのが強い。だが、恐らくだが、余程の技量でもない限り、足を止めて聞いてくれるほどの影響力は

作り出せない。


「……また、自分の手に委ねられないことか」


 いや……俺にだってやれることはある。

 本屋の袋を持ち上げる。動画編集ソフトの教本だ。明日までに読み込んでおかなければ。明日は午前からバイトが入っている。 

 グッと伸びをする。頭が眠いと訴えているが。今が踏ん張りどころなんだ。一通り目を通したらアカウント作って、それから……。




 「7度五分」


 服の中に無遠慮に手を突っ込み、体温計を取り上げた香澄は、ため息交じりに表示された数字を読み上げた。


「安静にしましょう」

「微熱じゃねぇか」

「今日はバイト休みですね。私の方から伝えておきます」

「シフトに穴を空けるなど、ありえん」

「先輩は優秀ですが、先輩一人いないだけで回らなくなるような店なら潰れた方が良いですよ、そんなの」

「くっ」


 正論である。心なしか、普段より頭が回っていない気がする。


「この俺が、風邪だと。ありえん」

「まぁ、先輩も人間、ということです。私も夕方まで看病しますから。それからは恵理さんが来ますよ」

「必要無い、この程度」

「こういう時くらい、素直になりましょうよ」


 一人暮らしだから、体調を崩したら自分でどうにかしなければならない。だからこそ気をつけていたのに。


「こんな時に気が緩むとは」

「疲れが溜まっていたのでしょう。色々ありましたもん」

「今が、大事な時なのに」

「こういう時のために、私達がいます。先輩一人で頑張ってるわけじゃありません」

「だが……俺が言いだしたことだ」

「それに乗ることを選んだのは私たちですよ」

「はぁ」


 今日俺は、香澄に勝てないみたいだ。


「とりあえず消化に良い物用意しますから、安静にしていてください」

「悪い」

「謝罪はいりませんよ」

「……助かる。ありがとう」

「はい」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ