センパイ、だーいすき、ですよっ!
さて、上がってもらったわけだが。
俺の隣に美玖。その正面に香澄。俺の正面に恵理、という配置。一瞬恵理と目が合ってニコッと笑いかけてくる。……この笑顔を失わせないためにも、俺と香澄は行動で証明し続けなければならないな。責任重大だ。
……香澄に何も言ってないけど……いや、香澄なら大丈夫、か。香澄なら何も言わずとも恵理に対して誠実であってくれるだろう。
「お兄様、モテモテですね。まぁ大方、そちらの方ともお付き合いはされていないのでしょう」
「よくわかっているじゃないか」
「お兄様のことですから」
「……コーセイ君の妹……めっちゃ美人」
なんか、恵理の鼻息荒くない?
まぁ良い。
「それで、急にどうした。いや、俺としては歓迎するが」
「流れ、ですね」
そう言ったのは香澄。なんか、らしくない曖昧な答えだ。
「夕飯、ご一緒にしたいと思いまして」
「夕飯か。何か食べたいものは?」
はっきりとした答えは返ってこないと思うが、それでも俺は美玖を見る。
「そうですね……お兄様が好きだったのは確か、中華系ですよね」
「あぁ、まぁ」
「餃子とか、炒飯とか。ラーメンとか」
「肉野菜炭水化物を一つでとれるもの。すぐに用意できてしまうもの。ラーメンは単純に先輩が好きな物、ですかね」
「よくわかってるじゃないか」
「先輩とはそろそろ食事を共にする機会を得て長くなってきましたから」
「まぁな。だが、この間中華三昧な夕飯食ったからなぁ。あれは美味かった」
「本当ですか! いやー、嬉しいですねー。張り切った甲斐があったというものですよ。あははははは。そんなこと言われたらまた作りたくなってきましたねぇ。今から材料買ってきます」
恵理は上機嫌に財布片手に立ち上がる。
「まぁ待て。今から餃子をあの量用意するのは厳しいものがあるだろ」
「まぁまぁお任せあれ。いけますよ。問題無く」
「私も手伝いますから」
そして香澄も立ち上がる。
「……そこまで言うなら。やるなら俺も参加するし」
「はい!」
「まずは買い物だな」
きょとんとした顔をしている美玖。手を差し出す。
「行くぞ。一緒にやろう」
「……お役に立てますかね」
「教える。大丈夫。美玖ならできる」
「わ、わかりました」
そんなわけで四人。一番近場なので俺と香澄のバイト先に向かう。……正直、妹連れて行くのは気が重いが。
道中、美玖は余程香澄が気に入ったようで、その横をずっと占領している。
「センパイ、ジェラシー、ですか?」
「なぜ」
「どっちに感じますか?」
「俺が嫉妬心を抱く前提で話すな」
「あはは」
「……落ち着いたか?」
「まぁ、そうですね。冷静にはなりましたよ。最近のあたし、熱に浮かされていた感じがありました。……コーセイ君とカスミちゃん。あたしの内面まで見て、大事にしてくれる人」
「聞くが、上辺だけ好かれることの何が悪い?」
「悪いとは思いませんよ。質問返しますね。コーセイ君は、あたしの行った恩返し、何が気に入らなかったのですか?」
「君のためにならない」
「高校生ですよ? 勢いでちょっと行き過ぎちゃっても良いと思います」
「別に確信があるわけじゃないが、俺は、君が泣く気がした」
「泣く?」
「あぁ」
「鳴くではなく?」
「冷静になってもそっちのネタに躊躇ないのは変わらないのか。まぁ……あれだ。こんな形で、って君が後悔する気がした。だから、かな」
「なるほど。ははは、エッチな攻め方してコーセイ君の思考力奪っても勝てなかったのに、素面のセンパイに勝てるわけ、無かったですね」
「勝負だったのか?」
「えぇ。あたしが納得させられるか、センパイが折れるか。あはは。コーセイ君」
「ん?」
スッと視界の端で恵理が俺の耳元に顔を寄せたのが少し見えた。そして囁くように。
「だーいすき、ですよっ!」
恵理はニッと唇を吊り上げるように笑って駆けていく。香澄に後ろから抱き着いて、美玖に驚かれ。そして、三人で笑っている。
「ったく」
この光景を日常のものにするために。……香澄が作ってくれたこのチャンス、掴む
しかない。
『だーいすき、ですよっ!』
……恵理の声が、頭の中で、木霊してる。




