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バイト先の毒舌後輩ちゃんの先輩改善計画。  作者: 神無桂花
真面目な後輩は少し不器用です。

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先輩の妹さんと。

 私は一人、駅前にいた。先輩の実家がある街の。

 昼前の少しだけ休憩という感じの雰囲気。静かで、どこか閑散として景色が広く見えた。

 視線を巡らせてその姿を探す。どこにいるだろう。本当に、来てくれるだろうか。


「お待たせしました」


 そこに届いた声。折り目正しいお辞儀。無意識に視線を引き付ける出で立ち。


「こんにちは、双葉さん」

「美玖さん。本当に、来てくれたんですね。旅行帰ってすぐとのことですが、旅疲れは大丈夫ですか?」

「全く問題ありません。提案したの美玖ですし。双葉さんには、もう一度会いたいと思っていました」

「それは、嬉しいです」 

「ふふっ」


 妖しい笑み。自然な動きでそっと身体を寄せてきて。


「行きましょうか。お昼でも一緒にどうですか?」

「は、はい」


 そして腕を組んでくる。素肌と素肌が触れ合う。艶のある白い肌。温かい。爽やかな制汗剤だろうか、そんな香りがした。

 化粧っ気も香水の香りも無い。素材のままの美がそこにある。


「楽しみです」

「そうですね」


 なんでこんな状況が実現したのか。

 それはまぁ、思いのほか、会話が弾んでしまったのだ。

 美玖さんの家での騒動の影響で、旅行の日程が丸一日カットになって、一泊二日になったとのことで。

 夜。最初は文章でのやり取りだったけど、少しずつ盛り上がって来て、気がつけば電話を始めていた。

 夜中のリビング。ソファーで寝転がり、耳にスマホをくっつけずっとお喋りする。そんな初めて。 

 高校に入ってから初めてがいっぱいだ。先輩とちゃんと関わるようになってから。

 大事な友達と一緒にいられて。新しい友達とこうして夜中に電話して。

 聞こえる声が息遣いが、少しずつ眠たげになっていくのがわかる。時折聞こえる衣擦れの音、美玖さんが布団の上にいるのがわかって。


「そろそろ寝ましょうか」

「はい」

「明日、会いませんから、昼頃、駅前で」


 それをウトウトしながらも脳内メモにしっかり記録して。


「はい、是非」


 と何とか答えて。今に至る。

 腕に感じるフニフニした感触。年下、年下なんだよねぇ。私の腕に絡みつくために腰も少し曲げてるし。


「双葉さん、こうして近くで見ると、お兄様が夢中になるのもわかります」

「夢中? 夢中っ、夢中ですか?」

「あぁ、その反応も可愛らしい。お昼は美玖が奢りましょう」

「美玖さん、本当にまだ中学生なんですよね」

「そーですよー」


 からからと少しだけ淑やかさのある仮面を剥がして、年相応の笑顔を見せてくれる美玖さん。学校ではどのように周りと接してるかわからないけど、このままなら、モテモテだろうなぁとか思った。


「何食べたいですか?」

「あー……美玖さんは好きな食べ物は?」

「嫌いな食べ物は特にありません!」

「そ、そうですか。食べてみたいものは」

「アレルギーも無いですから何でも大丈夫です!」

「あはは」 


 自分の希望を言わない美玖さん。仕方ない、じゃあ……。


「この辺って何がありますか?」

「そうですねぇ。少し行けば、普段母とよく行くお寿司屋さんがありますけど」

「あ、じゃあ、そこで」


 お寿司。友達と、お寿司。あれだ。回るお寿司だ。行ったことない。テーブルに手を洗うための蛇口があると恵理さんが言っていたのを聞いたことがある。


「では、こちらです」

「ほ、ほわぁ」


 連れてこられた先。美玖さんがニコニコと先導してくれる。静かだった空間も、レストランが並ぶ買いに行けばお昼時ということで賑わいが出てくる。

 その一角。和風の引き戸を開き暖簾をくぐる。

 スーツ姿の男性が数人、カウンターに座っているだけ。

 あれ? 回ってない。こういう店は何回か連れて来てもらったことがある。んー。

 んー?

 私、こういうお店を食べるにはどれ程かかるか、大体知っている。

 それに、こういう店は、マナーがあるって。いつもは父さんにまかせて私は話さないから。どうしよう。

 エスコートされるまま、カウンターに腰掛ける、というか、カウンターしかない。

 美玖さんを見ると、目が合って、それからそっと小さな笑みを見せてくれて。


「今日のおすすめって何ですか?」


 と、美玖さんが話し始める。


「今日は良いアジが入っております」


 大将らしき人がそう答えて。


「じゃあ、それと、あとはおきまりお願いします。双葉さんは?」

「お、おなじもので」

「畏まりました」


 ……気を使われたのがすぐにわかった。私が困ったのがすぐにわかったのだ。

 すぐに十貫並んだ寿司下駄が。えっと、醤油は少量、ワサビは溶かさず。出された寿司はすぐに食べる。淡白なものから順にだっただろうか。


「そんな緊張しなくて大丈夫ですよ。食事を楽しむ場。変にカチコチにマナーを気にして、美味しく食べられなかったら本末転倒です」

「は、はい」


 と言いつつ見上げたのはカウンターの向こう、寿司を握る大将さん。美玖さんの言葉にフッと頬を緩めたのが見えた。


「では、いただきます」


 会計の時、値段を見て思わずあんぐりと口を開けてしまったのはまた別の話。美玖さんがあっさりとポケットマネーで払ってしまったけど。……回転寿司行ってみたい。


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