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バイト先の毒舌後輩ちゃんの先輩改善計画。  作者: 神無桂花
真面目な後輩は少し不器用です。

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センパイ、ランチに行きましょう!

 「ところで」

「ん? そこの答えなら合ってるぞ」

「食器片づけしながらチラ見しただけで解くとは……恐ろしいコーセイ君。でも話したい事は違うのです」


 恵理が用意してくれた朝食を食べ終え、勉強を見て欲しいというので、まぁそのくらいならと、まぁ俺は質問に答えるだけなのだが。


「話したいことって?」

「お祭り」

「ん?」

「違和感。コーセイ君が自分から言い出すの、違和感」

「まぁ、だよな」

「誰の差し金かなーって」

「チーフだよ。あの人、なんか勘違いしてんだよなぁ」

「ふぅん、あの人か……ん? あ、ごめん。電話。はい、もしもし」


 恵理がパタパタと離れて。


「はい、はい……駅前ですね。お昼……あ、じゃあ。その、もう一人良いですか?」


 さて。恵理の問題集は……できてるな。内容は前期の復習。俺と香澄が教えたこと、ちゃんと身に付いているのが見て取れる。


「すいません。戻りました」

「あぁ」


 ……なんだ。恵理がニコニコと笑ってる。……また妙なこと迫られたりしないよな。


「センパイセンパイ」

「おう」

「お昼、一緒に食べませんか? 外で」

「外で?」

「カスミちゃんとはよくやってるじゃないですか」

「まぁ」


 別段、断わる理由も無い。行くか。単純に暑いし面倒なだけ。


「では、今から行きましょう!」

「わかったわかった。準備してくるから」

「にひひっ」

 そんなわけで。

「いや、聞いてないんだが」

「言ってませんからねぇ」


 「店はきめてますから」と連れてこられたレストラン。入ったこと無い店。高級感があって一人で入るのは躊躇われる場所だから。その奥、窓際の席に座っていたのは。


「なるほど、あなたですか」


 そう言ってふんわりとその人は笑った。


「えっと……久しぶりってほどでもありません、よね。恵理がお世話になっております」

「こちらこそ。マンションの件はありがとうございました」


 立ち上がり洗練された、図ったかの如く三十度のお辞儀を見せたのは恵理の後見人になった朝野さんだった。


「お好きなものを注文してください。育ち盛りの高校生、遠慮はいりません」

「あ、いえ、俺の分は」

「お気になさらず。恵理さんは既に私の子どものようなもの。その友人と一緒に食事。嬉しいものです」

「でも……」

「ここは大人を立てるものですよ、有坂君。過剰な遠慮は逆に相手を不快にさせます」

「……すいません」


 穏やかな眼差しに込められた感情を俺は知らない。でも、嫌な気分にはならない。むしろ、安心する。この人に任せれば、頼れば、どうにかしてくれるのではないかと思わされる。


「そうですね。では私はパスタを。恵理さんはどうされますか?」

「じゃあ……」


 ちらっと、恵理は朝野さんを盗み見る。


「ちなみにおすすめとしましては、このステーキ丼でしょうか。メニューの中で異色を放っていますが、こちらのハヤシライスと一緒に、開店当時からの伝統ある人気メニューとのことで」

「あ、じゃあ、ステーキ丼で」

「わかりました。有坂君はどうされますか?」

「俺も、同じものを」

「はい」


 恵理が遠慮しそうな気配を感じ取ってすぐさまおすすめを提示する。……凄いな、この人。やっぱり。




 非常に美味しかった。非常に。お肉は柔らかく、ペッパーライスは香ばしい。添えられたわさび、ガーリックベースのソース、オニオンベースのソース。それらのおかげで、丼一杯、飽きずに楽しめた。


「ごちそうさまでした」


 一応財布を出してみたが、無言の笑顔にやんわりと断られた。


「ふふっ、また一緒に食事しましょうね。次はお寿司が良いですか?」

「あはは」


 そのまま車で送ってもらってしまった。


「有坂君」

「はい」

「あなたは、間違いなく優秀でしょう。私、あなたの通う学校の理事長の教え子でもあります」

「それは、聞いたことがあります」

「だからこそ、あの人が期待しているということは、そういうことだと、わかります」

「期待……」

「あの人もそろそろ年齢的な限界も近いでしょうし。焦りもあるでしょうが、それでも、あなた間違いなく優秀です」


 ……焦り?


「有坂君。大事に生きてください。二度とは戻らない時間ですから」

「はい」

「……むぅ」

「ん?」

「ここですよね」

「あ、はい」

「恵理さんはどうされますか?」

「あ、ここで」

「はい、ではまた。お気をつけて」


 車を見送る。それから横からずっと感じる視線と向き直る。


「どうした急に」

「……朝野さんの前では素直なんですね、センパイ」

「まぁ、あの人は、な」

「綺麗だからですか? 美人だからですか?」

「いや、まぁ、それはそうだが違う。単純に……初めて出会った、尊敬できると思った大人だから。君こそ、なんで俺をわざわざ」

「……良い人過ぎて、まだ緊張するから、です」

「あぁ」


 まぁ気持ちはわかる。

 あの人、根っからの善人なんだろうな。それが伝わってくるから、あの人の言葉を素直に聞こうと思えてしまう。

 大事に、か。

 なら、一秒も無駄にせず、やるべきと考えたこと、実行していくべきなんだろう。

 まずは目の前のこの子から。


「? どったのコーセイ君」

「いや、ちゃんと話さないとな、って。朝のこと」

「ん? やる気になった?」

「違う。まぁ、なんだ……特別授業だ」

「特別……それはそれでエッ」

「よし一回黙れ」


 この子本当油断ならない。


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