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バイト先の毒舌後輩ちゃんの先輩改善計画。  作者: 神無桂花
真面目な後輩は素直になれません。

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先輩の考え、聞かせてください。

 シフトだからバイトに来たのだが、仕事にあまり集中できてないなと思う。

 発注ミスで予定していた発注数の二倍届いたから、整理手伝って欲しいとパートのおばちゃんに言われたからそうしているのだが。


「……馬鹿か俺は」


 メーカーで分けることだけを考えて、清涼飲料とお茶とコーヒーをごっちゃにしてるじゃないか。


「はぁ……」


 えっと、コーラはこの台車にしよう。お茶とスポドリはここにまとめて。缶コーヒーは一つの台車にして。

 今レジにいる恵理からさっき、布良先生から連絡があったと。明日、理事長が経営していた施設の卒業生の一人で、今は弁護士をしているという人に会うらしい。布良先生は高校時代その人と同級生だったということで、橋渡しのために同行してくれる。俺と香澄は行けない。


「弁護士、か」


 理事長がなぜ、恵理と弁護士に会うよう手筈を整えたか。

 予想自体はできる。そしてそれが恵理にとっていい結果に繋がる可能性は確かに高い。だけど。俺が感じている不安。事態が、自分の手から離れてしまったという実感。

 他者に結果を委ねなきゃいけないのは、俺に力が無いから。

 俺は、恵理のためにこれに立ち向かうと誓った。


「……先輩」


 いや、俺にできることはあるはずだ。でなければ理事長は俺達を試したりしない。

 そう、それは例えば。恵理を弁護士に会わせる目的。それはわかる。予想がつく。なら。


「先輩っ」


 それがスムーズにいくようにするには……理事長の目論見が達成するのを阻む厄介な要素を……そうか。


「面倒だな、結構、だけど、不可能ではない」

「あの、先輩」

「ん、あぁ、香澄。どうした」


 声がした方に目を向けると、香澄がじっと、不満げな顔でこちらを見上げていた。


「三回呼びましたよ。何か思いついたところ申し訳ありませんが。それ、その、ボトルコーヒー、箱で欲しがっているお客様がいますので」

「あぁ。じゃあ持ってくわ。その客はどこにいるんだ?」

「飲料売り場です。それと、客ではなくお客様です」

「意味的には変わらん」


 嘆息、香澄のお説教が始まるのかと思ったがそうではなく。


「あとでその思いついたこと、教えてください」


 そう言いながら目を逸らす。


「? どうした?」

「いえ……」

「? そうか」


 香澄の様子も気になるが、客を待たせている。俺は指定されたボトルコーヒーを台車に積んでバックヤードを出る。

 カートに箱を乗せて、何となく恵理の様子が気になってレジの方まで行く。晴れやかな笑顔を振りまき恵理はレジで咲き誇っていた。

 今ならわかる。恵理は、普通に見えるように頑張っていたんだ。


「……やるんだ。俺が」


 っと、品出しだな。一時間後に値引きを開始して。はぁ、忙しい。

 夏だから飲料はよく売れる。パートのおばちゃんは発注ミスと言っていたが、店長とか不機嫌じゃなかったということは、むしろ、それくらい在庫持っておいた方が全然良いということだろう。現に。


「……さっき棚一杯に詰めたばかりの筈なんだが」


 という状態だ。


「はぁ」


 品出し品出し。裏の物が減れば整理整頓も楽になるはずだ。


『有坂さん、有坂さん。サービスカウンターまでお願いします』

「……くっ」

 仕事の追加だ。

 



 「それで先輩」

「ん?」

「思いついたことって何ですか」

「あぁ」


 退勤時間だが、まぁ、俺が珍しくアホなことをしたせいで、これをどうにかしなければ俺の気が済まないので帰らない。

 今、恵理は事務所でバイトを続けるための諸々の登録している。その間に香澄に話しておきたい。

 どう話したものか迷ってると、耐えかねたのか香澄がおずおずと台車の上の段ボールを指差し。


「それ、私も手伝いましょうか?」

「いや、良いよ」

「手伝います。これはどこですか?」

「そこ」

「……サ〇トリ―とア〇ヒと伊○園とキ○ンとカ○ピスがごっちゃになってますけど」

「良いんだよ」

「コ〇コーラは単独でスペース貰ってるのに……」

「商品の種類数が違うからな。単独で分けて欲しいなら店のスペースを増やせって話だ」

「ボトルコーヒーや缶コーヒーに至ってはとりあえず種類毎に積んだだけですか……」

「それこそ丁寧に分けていたらこの通路全部使うぞ」


 それから、せっせと二人で箱を運ぶ。


「先輩の考えてること、……私に、手伝えることですか?」

「正直、香澄の意見は欲しい」

「そ、そうですか」

「……落ち込んでるのか?」

「な、なんでです?」


 ふと、さっきまで感じていた違和感の正体に、香澄の不自然なくらい態度の正体に、唐突に、こんがらがっていた回路がスッキリと繋がったかのようにたどり着いた。


「理事長にコテンパにされたこと、まだ気にしてるのか? 人生経験が違い過ぎるぞ、というか」


 あの人、俺が今まで対面してきた人の中でも一番底知れないものがある。

 俺があの人のいるステージに立つには、それこそ今持っている全てを捨てて、それから求めるもの全てを手に入れるくらいの覚悟が必要になる。


「あの人は、ヤバい。敵に回したら絶対にヤバい」

「先輩がそこまで言いますか」

「あぁ。言い切れるね。さて、話を戻すぞ」


 俺の考えていること。それは。


「親権を失わせるのは簡単なことではない」

「親権を、失わせる、ですか?」

「ん。あぁ。恐らく、理事長が恵理に弁護士を紹介した理由はそこにあると俺は考えている……っと、続きは明日だな」

「カスミちゃーん。せんぱーい、お待たせしましたー」

「あぁ。じゃあ、帰るか。丁度終わったし」

「はい」


 香澄と話す恵理の笑みは屈託の無いもの。素直なもの。俺は、これを。二人の時間を、守るんだ。



 


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