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バイト先の毒舌後輩ちゃんの先輩改善計画。  作者: 神無桂花
真面目な後輩は素直になれません。

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先輩、どういう関係ですか。

 彼女たちの意識や意欲が変わった。だからと言って落ちこぼれ達がいきなり優秀になるわけじゃない。そもそも彼女たちが落ちこぼれだと言われても、二日で実感できるほどではないが。

 合宿自体は今日で終わりだ。どうだろう。意識が変わったというのはそうだろうけど、それはどこまで影響を及ぼすのだろう。

 ゴミ拾いしながらこう、ぼんやりと昨日からずっとしているな。山の中の景色をぼんやりと眺める。木漏れ日が心地いい。


「ん?」


 駆け足で自分の横に並んでくる足音に目を向けた。


「先輩。今日は、どうしますか? 恵理さんのこと」

「……帰らせないわけにも行かないだろ。両親が家にいないとはいえ、外泊にまで連れ出したからな」

「そう、ですよね」

「どうした?」

「いえ。……今の恵理さんを、一人にしたくない。そう、考えてしまって」

「気持ちはわかるが。こればかりはどうしようもない」


 ……考えろ。冴えた解決法を。


「……どうしようも、ない」


 何も見えてない。考えるのに必要な材料が揃っていない。


「俺さ、頭良いじゃん」

「急に自画自賛ですか。その通りですけど」


 ジト―っとした目。ため息一つ。


「それで、なんですか? 自慢話で終わりなんて勘弁してくださいよ」

「いつだって、自分のことは自分で解決してきた。でも」


 そうだ、俺が今こうして困っている。初めて困っている。当然だ、今まで俺は、自分の身に起こったことと戦ってただけだ。

 誰かが抱えることと向き合ったことなんて、無かった。


「君と関わるようになってから、初めてのことばかりだ」


 香澄は考え込むように息を漏らして、そして。


「先輩と恵理さんって、どういう関係なんですか?」

「えっ」

「どういう関係、ですか?」

「どういうもなにも、先輩後輩、だけど」

「はぁ……」


 これ、先輩が気づいてない感じかな。まぁ、小学生と高校生、女子、大きく変わるよね。多分、男子も。でも、恵理さんは……。うん。

 そもそも確定していないことを私はなぜさもその通りのように考えてるんだろ。だめだめ。それは先入観。うん。


「まあいいです」

「何を疑われたんだ」

「疑ったわけではありません。ただの確認です」

「そうか」


 それから、つつがなく、林間学校は終了した。


「有坂先生、また、教えに来てください」


 帰り際、バスに乗り込む生徒たちを見送る。あの夜、俺に吠えた彼女は、折り目正しく、きれいだと素直に言える礼をして。


「全員で嘆願書作りますから。またこういう機会を設けてもらえるよう。今回、あまり教われなかったですけど、次は、最初から食べ尽くすつもりでいきますから。また、私たちに何か、教えに来てください」

「あぁ。良い心がけだ。その時は本気で教える」


 そして俺は、この二日間、俺自身のスタート地点を見られた。俺が向き合えていなかったことを知った。やりがいを知った。


「君達から俺が今回学んだことも、多い。だから、望むところだ……美咲君、だったね。君は」

「はい!」

「学べ。学んだことは、決して無駄にはならない。金は無価値になるかもしれない。物もそうだ。人は裏切ることもある。けれど、学んだ知識は、知恵は、きっと君たちを助けてくれる。だから、学べ」


 漠然と勉強しろという言い方は嫌いだ。そういうものだからそういうことで、ただ覚えろという教え方も嫌いだ。


「君たちが自分で磨き上げた自分自身は、最後まで君たちの味方だ。一人になった時助けてくれるのは、自分自身だ。信じられる自分を作り上げろ」


 それが、俺が今日までの人生で確かに得た真実で。でも。

 横目で香澄を見る。恵理を見る。今はここにいない飯田も。担任の布良先生も。

 バスが発進する。


「よし、お前ら、乗れ」

「はい」


 俺達も、帰る。

 何だかんだ、得るものが多い二日間だった。




 家に帰った、今日は流石にバイトも休みだ。明日からまたバイトと勉強の日々。

 抱えている問題は多いけど。


「……くっ、流石に」


 実質徹夜はきついか。寝よう。

 目を閉じた。そして。

 どれくらい時間が経っただろう。俺を起こしたのは着信を知らせるスマホだった。


「……香澄?……もしもし」

『あっ、先輩。大変なんです。その、恵理さんが、え、恵理さんが』

「落ち着け。一から状況を説明しろ」


 眠気が吹っ飛ぶ。電話口から聞こえる荒い息遣いに耳を澄ましながら冷蔵庫を開き、無糖のボトルコーヒーをラッパ飲みで流し込む。


『センパイ』


 続いて聞こえたのは、恵理の声だ。


「どうした? 何があった」

『あはは。……簡単に言いますとそうですね……家が、無くなってしまいました』


 恵理はそう言って、また、困ったように、乾いた声で、笑う。


『元々、この地を離れるつもりでした。キャンプも、最後の思い出のつもりで。昔から、よくあったことだったです。今回も、でも、母も、再婚相手の、父になる予定だった人も、あたしを、置いて行ってしまったようで。あはは』


 俺はこの時、キリリと、何かを警告するように頭が痛んだ。

 間違えるなと、奥底から何かが訴える。

 今度こそ、間違えるなと、奥底が叫ぶ。


「……すぐに行く。場所は?」

『カスミちゃんの家です』

「わかった」


 逃げるな。間違えるな。そうだ。俺は一度、間違えたんだ。でも。

 俺は一度間違えた問題は、二度と間違えない。


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