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バイト先の毒舌後輩ちゃんの先輩改善計画。  作者: 神無桂花
真面目な後輩は素直になれません。

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54/110

センパイ、おはよーございます。

 テントの中、寝袋に入ると、恵理さんはランタンの明かりを灯して。


「じゃあ、カスミちゃん、キャンプの夜と言えばー?」

「言えば?」

「恋バナでしょっ!」

「はぁ。明日も早いので、もう寝ますよ」

「ノリが悪いよ!」

「とは言いましても、私と恋バナしても盛り上がりませんよ」

「えー」

「先輩のことを聞かれましても、これまで話したことから殊更追加してお話しする事ありませんし」

「あは、先輩のこととは一言も言ってないけど」

「嵌めたつもりでしょうが、恵理さんとこの手の話をする時、毎回先輩のことでしょう」

「ありゃ、動揺しないね。残念」


 暗闇の向こう、すぐ横で横になっているこの状況。

 忘れそうになる。恵理さんは今、よくわからないけど、大変だって。

 きっと普通に見えるのは、恵理さんがそう見えるように頑張ってるからで、手を伸ばしても、雲をつかむことができないように、恵理さんの本心はどこかに消えてしまう。


「恵理さん、私、恵理さんとは、友達のつもりです」

「んー? あー、大丈夫だよ。先輩のこと、取らないから」

「えっ」

「大丈夫。だから、先輩とは、仲良くね。じゃ、おやすみ」

「えぇ」


 返事はない。もぞもぞと、恵理さんが私に背を向けた気配がした。外敵の気配を察知して殻にこもるカタツムリのように、恵理さんはこれ以上の私との対話を拒んだ。


『巻き込んであげないよ』


 聞こえた声は、本人か、それとも私の記憶の中からか。

 ……先輩。どうしたら、良いですか。

 最近、先輩に甘え過ぎな気がするけど、気がするから、自分で考えて動きたいと思っていたけど、それでも。わからない。わからないから、先輩が今、どう考えてるか、知りたかった。


「……香澄ちゃん」

「はい」

「一個だけ」

「何でしょうか」

「君だけは、センパイに、コーセイ君に対して、ちゃんと批判できる人で、いてね。コーセイ君を、孤独に、しないでね」

「えっ?」

「あたし、そうやって一回、失敗、してるから、さ。ね?」


 消え入るような、囁くような声。その続きを待っていた。

 けれどそれはいつまでも訪れなかった。代わりに聞こえたのは微かな寝息。ただの直感は確信になる。

 先輩と恵理さんは、かつて出会ったことあると。

 恵理さんは気づいてるけど、先輩は……気づいてなさそうだ。そこら辺、鈍そうだし。でも。

 聞きたいことが山ほど浮かんだ。

 小学生の時だろうな。先輩、小学生の時、女の子の友達いたって、言ってたし。


「……うん」


 私のするべきこと。考えよう。




 朝になった。一人のテントだから多少マシだったが、正直熟睡なんてできなかった。寝て起きたらというより、気がついたら外が明るくなっていた、という感覚だ。俺にアウトドアは向いていないらしい。

 寝袋の中から這い出てテントの入り口を開けると、少し湿った香りがした。霧がかった景色の中で、特に意識せず、深呼吸していた。

 少し冷えるなと思いながら、パーカーを羽織り、欠伸を噛み殺し、集合場所へ。今日は朝食を食べたら片付けと山のゴミ拾いのボランティアという名の散歩をして帰る。


「おう、起きたか」

「おはようございます。結城さん」


 広場の中央で、昨日の残りの片づけをしている結城さんは、朝から足取りも姿勢もしっかりしている。


「リラの手伝いに行ってもらって良いか? 薪と調理器具を運ぶ」

「わかりました」


 ということは、管理棟に行けば良いのだろう。

 恵理と香澄はまだ寝ているだろうか。まぁ良い。力仕事をあの二人に任せるのは気が引ける。

 と思っていたら。


「恵理?」


 管理棟の方からタオルを首にかけて歩いてくる小柄な人影は、ニッと笑って。


「おはようございます。せーんぱいっ」

「あぁ。おはよう。香澄は?」

「まだスヤスヤですよ。寝顔見に行きます?」

「いや、やめとく」 

「あは、紳士ですねぇ。先輩はどちらに?」

「顔洗ってそれから東雲さんの手伝い」

「ではご同行しましょう」

「いや、香澄起こしてきてくれ」

「いえいえ。カスミちゃんは勝手に起きますよ」

「ふむ」


 一理ある。香澄はそういう安心感がある。


「じゃあ、頼む」

「わーい。あーりがとうございます。コーセイ君」

「っ!」

「あっ……」


 思わず振り返った。ぶわっと蘇る懐かしい記憶。……恵理?

 驚いたように口元を抑える恵理。それからゆっくりといつも通りの笑みを浮かべて。


「? どうかしました? センパイ」


 なんて恵理は仕切り直すように答えて。


「何でもない」 


 俺も前を向く。いやまさか。苦笑いを浮かべる口元を抑える。

 隣に並んだ恵理は人懐っこい笑顔を浮かべる。


「変な顔してますね。手でも繋ぎます?」

「何言ってるんだ君は」

「あはは。釣れないですねぇ。あ、あれですね。運ぶのですね」


 見えてきた管理棟近くの倉庫。そこに見える人影、薪の棚。さぁ意識を切り替えろ、仕事の時間だ。


「あぁ。おはようございます。東雲さん」

「はーい。おはようございます。お手伝いお願いしますね」

「はい」


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