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バイト先の毒舌後輩ちゃんの先輩改善計画。  作者: 神無桂花
真面目な後輩は素直になれません。

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51/110

センパイ、みんなをお願いします。

 「はい、じゃあ、いってらっしゃーい」


 肝試しは四人一組で四組の生徒が臨む。山の中、キャンプ場側でも設定している散歩コースを巡るだけ。途中、湖を通るが基本的に森の中を歩く。朝に歩けば気持ち良いだろうが、夜だと良い感じに不気味だ。


「良い? 目印はこういうの。地図もちゃんと見るんだよ」


 出発する班には恵理がしっかりと声をかける。

 東雲さんと結城さんがコースの迷いやすいところをしっかりと見張っている。


「……今、最初の班が出発しました」

『了解』

『了解です』


 渡されたトランシーバーで状況を伝える。ゴールのキャンプファイヤーをした会場、全員送り出したら、そこで生徒を待つ香澄と合流すれば良いだろう。




 ボーっと椅子に座って星を眺めていた。先輩も、さっきまでふとした時に眺めてたなって思い出したから。

 確かに、いつも見ている空より、少しだけ眩しくて、近い気がする。

 空に、届けば良いのに。伸ばした手。

 空に憧れた。伸ばしても届かない、そんな空に。

 誰も届かない。何も寄せ付けない。見上げるしか無くて、近づけば残酷な世界。翼が無ければ何もできなくて、翼があってもまだ不自由な、そんな空に。


「あ、おかえりなさい」


 どれくらい経っただろうか、足音に振り返ると、最初の班がコースを抜けて来たところだった。トランシーバーでちゃんとチェックポイントを通過したのは確認していた。


「はい、お疲れ様、はい、これ夜食のおにぎりとお茶だよ。これ持って待っててくださいね」


 それを二班の人にも。それから。あれ、四班? 大体コースは十五分くらいで抜けられる距離で。前の班とは五分開けて出発している。


「三班の人は?」

「途中で追い越しました」


 それだけ言っておにぎりを受け取ってキャンプファイヤーの周りに配置した椅子へ。

 それからさらに五分。三班は現れなかった。


 「先輩大変です。三班が、三班が……戻ってこないんです」

「三班が、戻ってこない?」

「はい。戻ってこないんです」


 ゴール地点で香澄と落ち合っての開口一番、俺はすぐにトランシーバーを繋ぐ。


『えっ、三班? 第一チェックポイントは通過しています』

『第二では確認できていない。……四班の奴が途中で追い越したと言っていたが……すぐに戻るべきだったか』


 香澄の顔が少しだけ青ざめる。……くっ、冷静になれ。状況を整理しろ東雲さんは見ていて、結城さんは見ていない。これだけで場所は絞れる。

 肝試しの話し合いの時、最も警戒したケースだ。当然対策した。生徒たちには事前に地図を配ったし、順路の目印も教えてある。

 だから……。


「私、探してきます」

「えっ。おい。待て、香澄!」


 呼びかけた時にはもう、香澄は肝試しのコースにダッシュで駆け込んでいて。だが、闇雲に探しても。いや、考えている時間の方が無駄か。でも二次被害は間違いなく避けなければいけない。どうする。くそっ、考えている間に救助の成功率はどんどん落ちるんだぞ。

 まずは、すぐに探すべきなのは間違いない。しかし、どこを探すか、だ。東雲さんのチェックポイントと結城さんのチェックポイントの間。その間に何がある。間違いやすいポイントは。いや、間違えやすいポイントだからチェックポイントに立っているんだ。その間にあるのは逸れようのない、湖に沿って歩く比較的明るい一本道。湖! やはり事故か。……いや、だけど四班が追い抜いた。つまり、四班に追いつかれた時点で三班は無事だった。どういうことだ。溺れてるわけじゃないだろう。いや、追い抜かれた後に溺れてたとしたら。


「センパイ」

「安心しろ。どうにかする。恵理は戻って来た生徒たちを見ていてくれ」


 冷静に。頭を冷やせ。


「えっ、センパイっ」


 キャンプファイヤーの消火用のバケツに頭を突っ込んで。無理矢理、物理的に。俺が焦るな、戸惑うな。

 ……そうだ。まずは現場だ。こんなところでいくら考えたところで、わかるわけがない。現場で観察して、ヒントを探し出すんだ。基本的なことを忘れてどうする。安楽椅子探偵じゃないんだぞ。

 考え過ぎて一歩も動けなくなる? 情けなさ過ぎるだろ。


「じゃあ、行って来る」


 だが、考えろ。走りながらでも頭を回し続けろ。可能性を。回せ、絞れ。導き出せ。


「センパイ、お願いします」

「任せろ」


 まずは現場へ。そこに行けば結城さんや東雲さんもいる。香澄も、そこで下手に動いていないはず。

 ……いないはず。


「不安だ」


 頼む。二次被害だけは勘弁してくれ。くそっ、せめて縄か担架くらい持って来るべきだったか。……取り乱すな。自分にそう言い聞かせても、難しいものだ。 


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