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バイト先の毒舌後輩ちゃんの先輩改善計画。  作者: 神無桂花
真面目な後輩は素直になれません。

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47/110

先輩、あ、煽るのですか?

 それは夜。恵理さんを連れて家に帰った日のことだ。


「松江さん。すいません。急に」

「いえ、事情を知った者としてこの対応は人として当然です。南さん、どうぞ、お夕飯です」

「あ、ありがとう、ございます」


 先輩は単純に、恵理さんを一人で誰もいない家に帰すリスクを恐れたんだ。事情を話そうとしない恵理さん。状況を把握できないから、見えている事実から予測されるリスクを軽減しようとした。そのためには、私と松江さんに頼るしかなかった。

 恵理さんはなにも話そうとせず、大人しい。いつも明るく笑っている人なのに、その笑顔もどこか萎れて見えた。

 寝る場所は私の部屋に布団を敷いて。バイトの制服から着替えようとせず、恵理さんは床で胡坐をかいてニコニコ笑っている。


「恵理さん、その」

「ん?」

「結局のところ、あの人は、何だったのですか?」

「んー……えへっ」


 これである。こつんと頭に拳をぶつけて首を傾けて見せる。小さく舌を出すのも忘れない。

 あの時、男が恵理さんに突っかかっていた時、できる限りの情報を引き出すべく、先輩も静観するか迷っただろうけど。結局恵理さんの安全を優先した。けれど、恵理さんがこれでは。


「カスミちゃん、巻き込んであげないよ。センパイも」

「恵理さん……。自分で先輩に突き付けた問いじゃないですか。人に頼ることは、弱い事ですか? と」

「大丈夫、慣れてるから。もうすぐ迎え来るだろうし」

「迎え?」

「うん。迎え。一週間以内には。連絡が、きっと」


 その時だった。スマホが震える音がしたのは。私たちの視線は一斉にその方向に向いて。そこにあったのは充電器に繋がれた私のスマホ。先輩からだ。


「はい。お疲れ様です。えっ、恵理さんを、ですか。わかりました。今聞いてみます……恵理さん、明日から明後日にかけて、予定は空いておりますか?」

「えっ、うん。多分……うん。まだ、余裕はあるよ」

「でしたら、一緒に……」




 結局何一つ聞き出せなかったけど、恵理さんを連れ出すことには成功した。

 しかしながら、これ。どうすれば良いのだろう。

 最初にやることは今夜生徒が寝泊まりするテントの設営。


「さっさと立てろ。やり方は事前に説明したはずだ」

「テントの設営とか、キャンプ行かないなら知らなくてもよくない? あそこの木の家に泊めてよー」

「そうだそうだー」


 ふと聞こえた声。んー。尖ってるなぁ。まぁ、ロッジに泊れるならそれはそれでありだけど。これ。あれだ。反抗期って奴だろう。

 反抗期、言われることやられること全てに噛みつきたくなるお年頃って奴だ。誰でもあるらしいけど、私にもあったのだろうか。わからないけど。こうして他の誰かのそれを目の当たりにすると、うん。

 一度自分自身で経験していれば、付き合い方くらい大人なら考えれば良いのにと思っていたけど、トラブルが絶えないわけだ。

 やることなすこと理屈抜きに反抗される。言葉では打つ手なし。どうしようもない。そうなれば結局は力で抑え込もうとする、そうなればトラブルにもなる。

 ……先輩なら。あるいは恵理さんなら、どうするのだろう。

 そう思いながら先輩の方を見てみると。


「ふん。テント一つ立てられないとは。偉そうにごちゃごちゃ言う割に、大したことないな」


 煽ってるー。自分のテントサクッと立てて煽ってるー。


「どれ、ココアでも飲むか。全く。いつまでかかるのやら。結城さんたちも如何ですか?」


 椅子とテーブル用意してお湯を沸かし始めてる。くつろぎながら煽ってるー。

 というかあれ、折り畳みのテーブルとか椅子とかお湯を沸かしている鍋とか、ガスバーナーっぽいコンロとか。自分で用意したのだろうか。

 いや、それよりも。


「……ちっ」

「ぎりっ」


 やばい、生徒たちのイライラが。こっちにまで伝わってくる。先輩は先輩でこれ見よがしに本まで読み始めてるし。

 生徒たちわらわらとテントを建て始めるが、手こずっている。あっ、私も早く立てないと。


「恵理さん、やり方はわかりますか?」

「んー。実はやったこと無いんだよねぇ」

「そ、そうなのですか……とりあえず見ていてください」


 大丈夫、予習済みのこと。

 しかしながら、事前に聞いていた方針だけど、聞かれるまで教えに行かない。結城さんも東雲さんも、先輩と一緒にマグカップ片手にくつろいでるし。

 ……大丈夫なのだろうか。教えに行った方が。

 うん。きっと、その方が良い。

 私はポールをテントの袖に通そうとして手こずっている子に声をかける。背の低い、大人しそうな子だ。


「あ、あの。そのポールは」

「うるさいです。黙っててください」

「えっ」


 思わず後ろに飛び退く。眼鏡越しに注がれる目は、冷たい。


「誰ですか。あなた」

「さっき、自己紹介した……」

「興味ないです。外部の人が偉そうに話しかけないでください」

「こら! 百坂!」

「ちっ」


 結城さんの声にその子は自分の作業に戻る。


「は、はぁ」

「大丈夫? カスミちゃん」

「あはは。びっくりしました」


 ……なにが、正しいのだろう。

 先輩は興味無さげに本に目を落としている。いや。さりげなく視線を巡らせて、観察している。先輩も、考えているんだ。


「……ふんす!」


 私も!


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