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バイト先の毒舌後輩ちゃんの先輩改善計画。  作者: 神無桂花
真面目な後輩は素直になれません。

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34/110

先輩、お出かけです。

 次の日。朝。


「さて、選ぼうか」


 そう言ったのは私の友人、南恵理さんだった。どうしてか制服姿で私の部屋で腕組みふんすと鼻を鳴らす。


「あの」

「んー?」

「なぜ私今、恵理さんに服を選ばれているのでしょうか?」

「えー、カスミちゃんが昨日言ったんじゃん。明日センパイと出かけるので―、どの服を着替えて行けば良いのでしょうかーって」

「言いましたけど。候補の写真、送った気がします」

「んーでもさ、この際全部見ちゃおうと思いまして」

「言うほど私、持ってませんよ」

「どれどれ?」


 恵理さんはクローゼットを開き。引き出しを開き。


「わお、可愛いの揃ってるじゃん。じゃあ、とりあえず」

「下着から選んでどうするのですか」

「えっ? いらないの? 勝負下着」

「何の勝負ですか!」

「んー?」

「えっ?」


 いや、意味はわかる。咄嗟にツッコんでしまったけど、どういう意図で付ける下着かくらい、わかる。


「まぁ冗談だよ。センパイも、多分そんなこと考えてないだろうし。じゃあねぇ。うーん。カスミちゃん、ラインナップ少ないねぇ」

「そ、そうでしょうか」

「おしとやか系に寄っちゃってるねぇ。ショートパンツとか無いの?」


 恵理さんのように手足を晒す勇気なんてあるわけがない。


「……ラフな方がよろしいでしょうか?」

「いや、そうは言わないけど……んー。ギャップで攻めたいって気分だっただけだし。カスミちゃんのスタイルだと、何でも似合いそうだけどさ」

「はぁ」

「スレンダーって良いねぇ」

「物は言いようですね」

「今度服、買いに行こうね。水着も買いたいし」

「そうですね」


 プール、か。


「恵理さんは泳げるんですか?」

「うん。泳げるよ」

「そう、そうですか……」

「んー? ふーん」

「な、何ですか」

「泳げないんだ」

「なっ……そ、そうですよ。悪いですか」


 いや、悪い。泳げた方が良いに決まっている。ただ、どうにも……上手くできない。なんかこう、沈んでいくんだ。ずぶずぶと。


「ふーん。センパイに教えてもらいなよ」

「なっ……恵理さん、その、事前に行って特訓していくのは?」

「んー。バイト代入るとはいえー、節約はしていきたいなーその分みんなと沢山遊びたいし」

「むっ、むぅ」

「あはは。良いじゃん。センパイと一緒に泳ぐ理由できるよ?」

「そ、そういうのは……」


 というか、あの先輩がおかしいんだ。なんで運動までできちゃうんだ。


「……どうですか?」

「うん。カスミちゃん、良い身体してたね」

「そんなことは聞いてません」

「冗談だよ。似合ってる。お嬢様だね」

「……やっぱりラフな服、今度探すの手伝ってください」

「うん。任せて」


 ニヒッと笑う恵理さんは、やっぱり。


「ありがとうございます。恵理さん」

「あは、良いよ。あたしも楽しいもん」


 そう言って恵理さんは立ち上がる。


「じゃ、帰るね」

「あっ。朝食だけでも」

「ううん。今から先生と面談してくるからさ。電車乗らなきゃ」

「では、こちらを」


 恵理さんが扉を開けた先、松江さんがプラスチック容器に入ったおにぎり二つを差し出す。


「あ、ありがとうございます」

「ありがとうございます。松江さん」

「客人に何も持たせず帰らせるようなことはいたしません。香澄さん、お似合いですよ」

「あ、あはは。では、私もそろそろ」

「いってらっしゃいませ」


 ……思えば、友達を家に招いたのは初めてだった。


「カスミちゃんの家、凄かった。これが高級マンション……」

「恵理さんの家も立派だったと思いますよ」

「あは。まぁ……あはは」

「ん?」


 外に出る。それからどこかふわふわした気分のまま歩く。そっか、これから先輩に、会うんだ。なんか、身体が軽い気がする。


「クククスッ」

「急に変な笑い方を」

「楽しそうだなーって」

「そうでしょうか?」

「うん」


 でも、否定はできない。少し浮かれているのが、自分でもわかる。

 駅前は少しずつ賑わい始めている。始まった夏休みを全力で楽しもうと。


「すぅー。はぁー」

「頑張ってね!」

「いえ。その。わざわざありがとうございました。朝から」

「ううん。良いよ」『いまは、いえにいたくなかったし』


 微かに聞こえた呟きは、風に掻き消えて。空耳なのか判断できなくて。


「恵理さん?」

「じゃね。次に会うのはバイトかなー」


 と言いながら、改札の向こう側に吸い込まれるように消えていく。

 今の恵理さん、なんか、変だった。普段の明るさとか無くて、ちょっとこう、陰があるような気がして。


「……なんか、違和感」

「何がだ?」

「先輩! お、おはようございます」

「あぁ。おはよう。それじゃあ、行くか」

「はい」


 先輩は前回見たような、白と黒を基調にした、どこに行くにも困ら無さそうな恰好だった。いつものように、感情が見えない顔をしていて。でも、顔色は少し良くて。


「お互い、服のレパートリー少ないですね」

「選ぶのに時間をかけるのもな」

「世界一有名な経営者みたいなことを言うじゃないですか」

「流石に同じデザインの服しか着ないってことはないけどな」


 歩いていく。二人で。気まずくない。自然だ。今の私。


「楽しみにしてますよ。先輩が選ぶ店」

「メインの目的は違うからな」

「はーい」


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