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バイト先の毒舌後輩ちゃんの先輩改善計画。  作者: 神無桂花
真面目な後輩は毒舌です。

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29/110

流石、私の先輩です!

 金曜日の放課後。それは双葉さんが定めた期限の日。校内放送が鳴った。


『小田先生、小田先生、至急、理事長室までお願いします』


 ほくそ笑む。生徒の間で流れている噂。有坂晃成は自分の点数について理事長に直接抗議し、点数確定までの日の延長が許されたが、その期限は今日までという。今日までに自身の点数を証明する物証がなければ確定され、バイトは強制退職になると。

 奴らが必死になって学校の中を捜索しているのは見ていた。


「ふん。最後の賭けに出たか」


 ほくそ笑む。理事長室の大きな扉の向こう。数学を教えて十年、この学校に赴任して五年になる彼を出迎えたのは、理事長、そして国語科担当の若手のホープと名高い布良先生と四人の生徒だった。


「お越しいただきありがとうございます。小田先生。俺に足りないニ十点をお返しいただき、いつも通り、満点をつけてもらいましょうか」


 会合はそんな、有坂晃成の生意気な一言共に始まった。

 さぁ始めようか。

 小田先生はフンと鼻を一つ鳴らす。


「返すも何も、君は空欄で私に提出したのだろう」

「空欄? 俺は確かに、きっちり正解を書いて提出しましたよ」


 俺はそう言って、まさに一昨日の放課後に受け取った、模範解答として配られた自分の答案用紙を理事長室の中央に用意した長机に置く。


「あっ、先生、触れないでくださいね」


 というまでもなく、小田先生は興味無さげだ。


「理事長、このようなくだらないことのためにこの部屋を貸し出し、私を呼び出したのですか?」

「テストの点数がくだらないと? 君はそのような姿勢で教鞭を取っているのかね?」

「……失礼しました。続けたまえ有坂君」

「では、早速ですが恵理」

「はい」


 恵理は小田先生の前に立ち、スマホの画面を見せる。


「これは昨日、恵理と飯田の呼びかけに答えてくれた生徒が送ってくれた写真です。画面を確認すればわかる通り、先生、俺達と昨日会いましたよね、その時間の少し前に送られてきたものです。写真を見てわかる通り、これは学校ではなく誰かの家で撮られたものだとわかっていただけると思いますが、如何でしょう」


「あぁ、そうだな」

「これは模範解答として配られたものらしいですが、小田先生、どうして俺の答案が模範解答として配られ、俺の元には八十点のこの答案が届いたのでしょう」


 そう言って俺は長机に配られた八十点の答案用紙を置く。


「こちらにも先生、触れないように」

「わかったから続けろ」

「さて、見ての通りどちらにも俺の名前が書かれている。どうして俺の答案が二種類存在するのか。先生、俺の答案を偽造、改竄しましたね?」

「ふん。言いがかりを付けるのは結構だが、それが、本当に有坂の答案であるという証明ができていない。できるのか? お前が証拠として捏造したものでないと、どう説明する」


 双葉さんが不安げに見上げてくる。視界の端で、布良先生がギュッと手を握りしめたのが見えた。恵理と飯田が息を飲む。


「安心しろ、双葉さん、君が持って来てくれた手札、全部使って勝つから」

「……流石、私の先輩です」


 そして俺はルーペを取り出す。双葉さんが初日に確認してくれたことだ。


「ではまず、こちら、用意したルーペ―を覗いて見比べてください。理事長もどうぞ。見てもらえればわかると思いますが、俺が先生から受け取った答案用紙は、こちらの模範解答として配られたものと違い、小さな盛り上がりが見られるでしょう、」

「そうだな」


 理事長がそう言って頷く。


「これはレーザープリンターによる印刷物の特徴の一つと言えます。ボールペンは当然、筆圧で凹みができますね」

「だが。これだってお前達自身で用意することが可能の筈だ」


 そう、俺はその反論を引き出したかったんだ。


「えぇ。では確認しますが先生は、これが偽物である。俺がテスト当日に書いた答案ではない、先生が俺の答案として渡したものではない。そう主張するのですね」

「そうだと言っている」

「では、先生にいくつか質問をします」

「あぁ」

「これらの証拠品に、先生は一切触れていない」


「お前達が俺を貶めるために用意したものだからな。お前がしつこく触るなと言ったのも、それがバレたくないからだろ。理事長、彼らは不当に私を糾弾しています。最低でも停学、いや、退学にするべきです。布良先生、あなたも加担したのでしたら、罰則は避けられないでしょう」


 俺はちらりと理事長を見る。片眉をひょいと持ち上げ、続きを促している。


「では、ここまで小田先生がこの二つの答案に触れていないことは皆さんが証言してくれます。小田先生も、それでよろしいですね」

「あぁ」

「報告が遅れましたが、ここでの出来事は録音、録画されていますから、無かったことにはできませんよ」

「だったらどうした。有坂、人を馬鹿にするのもいい加減にしろ」


「では……もし、この証拠品として提出する答案用紙二枚から、小田先生の指紋が検出された場合、どのように説明されますか?」


「ん、なっ……」


「この二つから指紋が検出されれば、我々が今回のことのために偽造したものではないという確かな根拠になると考えます。小田先生がどこかで触れたことがあるということになります」


「ふっ、なるほど。そこで私に、それを調べろと言いたいのだな」


 理事長は白い手袋をつけ、手を差し出してくる。


「では、私が責任をもって知り合いの准教授に頼んでおこう。有坂君、君がテストで使用したボールペンを一応貸してくれたまえ。同じ筆跡器具が使われたか、調べることもできる」

「はい」


「ここからは大人の仕事だ。有坂君、双葉君、南君、飯田君。君たちの勇姿は確かに見せてもらった。後は結果を待ちたまえ」


「り、理事長、まさか、こいつらの戯言に乗るおつもりですか」


「見苦しいぞ。小田先生。自分に非が無いのであれば堂々と調べられていれば良いものを。学校内に不正の疑惑があるのであれば、調べ上げるのは管理する者の責任だ。それを全うするのを邪魔立てするつもりか?」


「い、いえ……くっ」


「それと有坂君。双葉君も一応。今後、君たちのテストの採点は私が受け持とう。回収も別途、私か直属の秘書が向かう。結城真城と東雲リラだ。名刺を預けておく」


「ありがとうございます。よろしくお願いします」 


「では。今は解散だ。すぐに送るから、結果を待て。あー、言い忘れた。良い働きぶりをしているらしいな。君たちのバイト先の店長から、感謝の電話があったよ」


「給料をもらっているので、その分働いているだけです。俺も、双葉さんも」

「そうか。良い答えだ。これからも励みたまえ」

 


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