先輩、ドリンクバーって奥が深いですね。
「……先輩」
「どうした」
「ピザとパスタ、どっちを頼めばよろしいでしょうか」
「好きな方頼め」
「どっちも好きです」
「じゃあ両方食えば良い」
「……贅沢!」
さて、駅前のファミレスに三人で入ったわけだが。双葉さんはキラキラとした目でメニューを舐め回すように見ていた。
「……ピザ、一人一枚で。あとはドリアと、パスタと」
「す、スゲー食うな」
いや、待てよ。確か双葉さん、結構健啖家だったような。参照するデータが一緒にすき焼き食べた時くらいしかないけど。
「恵理さんは、行けますか?」
「んー。デザートも食べたいからなぁ……んー」
「デザート? ……パフェ! パフェがあります!」
「あるだろうな、そりゃ。ファミレスは初めてか?」
「そうですね。初めてです……何ですかその目」
「いや」
なんかこう。うん。
「……お腹いっぱい食べて良いぞ。会計は気にするな。そうだ、ドリンクバーも頼もう」
「センパイがあれです。愛に目覚めた顔をしています」
「いえ、自分の分くらい自分で払います。ドリンクバーとは?」
「ジュースが飲み放題だよ」
「の、飲み放題……本当に、飲み放題なのですか?」
「うん、セルフサービスで、あの機械で自由に」
「なんて贅沢。採算取れてるのでしょうか」
「原価安いからな。ニ十杯か三十杯飲めば元取れるだろうけど、まぁそんなこと考えるものじゃないけどな」
「なるほど……」
……何だろう。一応裕福な家だと聞いているからこそだけど。この、普段は良い物食べてるから逆にハンバーガーが贅沢品、みたいな反応。合ってるのかな。この認識で。
まぁ大方、躾とか教育がしっかりしている家なのだろう。そう考えると、俺がしていることは、双葉家の方針としては大丈夫なのか、気になったりする。
恵理が荷物見ているというので、双葉さんと二人ドリンクバーの機械へ。
「どれにしよう……先輩、何してるんですか?」
「ん? ブレンド。メロンソーダとコーラ」
「なっ……良いんですか? そんなこと」
「むしろそれがホイホイできるのがドリンクバーだろ」
「じゃ、邪道では?」
「王道も邪道もどっちも道だ」
双葉さんがさながら雷に打たれたような顔をして。
「では……」
「えっ……」
双葉さんは全種類少しずつ入れ始めた。そして。
「……パーフェクトブレンドです」
凄い、小学生、あるいは同年代でも悪ノリくらいでしかやらないことを大真面目に。
「いざ!」
コーラ、カロリーゼロのコーラ、メロンソーダ、葡萄ソーダ、レモンソーダ、オレンジジュース、野菜ジュース。スポーツドリンク、白い乳酸菌飲料、白い乳酸菌飲料のソーダ。ジンジャーエール。
「……自分で飲めよ」
「当然です」
テーブルに戻ると恵理が。
「センパイ、何を吹き込んだのですか」
「いや、大したことは」
恵理は俺のグラスを見て何かを納得したかのように頷いて。
「では、行ってきますねー」
さて。双葉さんは。
「……おい、じい、です」
「そうか」
まぁ、マズいってことはないだろうな。不思議な味って奴だろう。
こうなるといずれはサラダバーとかスープバーがある店に連れて行きたくなるな。
凄かった。双葉さん。ピザはシェアしたのだが。パスタ食ってピザは流石に俺には重かった。双葉さんが一枚半食べた。凄かった。
「満足です」
「それは良かった」
少し膨れたお腹を撫でる。うん。今日は風呂入ってさっさと寝よう。最低限の動きしかしたくない。お腹の中でさらに生地とか麺が膨らんでる気がする。
不意に双葉さんがこちらに向き直り、ペコリと頭を下げる。
「ありがとうございました。先輩」
「ん? ファミレスに行くことを提案したのは恵理だ」
「そうですけど。改めて恵理さんにもお礼はしますけど。でも、先輩とこうして関わるようになってからです。こうして色んな体験したのは」
「あぁ……まぁ。でも。俺も、多分恵理も。礼はいらんよ。双葉さんと色んなとこ行って、俺も楽しいから」
「楽しい、ですか?」
「あぁ。楽しい」
「私と一緒にいて、楽しいですか?」
「あぁ。楽しいぞ」
「そう……ですか」
「……双葉さん?」
双葉さんの目が電車の窓、外の景色に向く。
「……見ないでください」
「あ、あぁ」
すぐに目を逸らしたけど、一瞬見えたのは、その横顔、少しだけ緩んだ口元だった。




