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バイト先の毒舌後輩ちゃんの先輩改善計画。  作者: 神無桂花
真面目な後輩は毒舌です。

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27/110

先輩、準備完了ですね!

 原本は問題無く受け取れた。そして木曜日。今日は一応の可能性を潰すための日だ。

 放課後、恵理と双葉さんと合流。一年生の教室。殆ど人はいない。


「というわけで、始めるぞ」

「おー! ……香澄ちゃんも、おー!」

「お、おー?」

「はい先輩も、おー!」

「……おう」


 やれやれと恵理は肩を竦め。


「仕方ありません。私があと二人分。おー! おー!」

「……どういう方針ですか?」

「スルーしないでよ香澄ちゃん!」

「あぁ。まぁ、気楽に構えてくれ。学校を必死こいてぶらついていれば、小田も俺達がまだ何も掴めてないと思い込んで油断するだろ」

「センパイまで……」

「はいはい恵理さん」

「うえーん。香澄ちゃんの胸の中で泣いてやるっ!」

「えぇ……」


 戸惑いながらも双葉さんは飛び込んでくる恵理を胸の中にしっかりと受け入れ抱きとめる。よしよしと撫でてる。うん。良い光景だ。


「あぁ……控えめな柔らかさと硬さが心地良い……イだダダだ!」


 うん。不用意な発言は命取りになる。改めて学べた。

 さて。今日の目的の確認。一応の可能性潰しと、向こうの油断を誘う。この二つ。


「まぁ戦いってのは、準備から始まっているという話だ」

「なるほど」


 そんなわけで。


「いやーわりー。参加できなくて」

「放課後のお前の本業は部活だ。優先しろ」

「そーですよ。飯田センパイのプレイを見たくて、女子生徒がきっとグラウンドで待ってます」

「ういっす」


 走り去る飯田を見送る。


「? 試合じゃなくて練習風景を見るためにグラウンドで待ってる奴いるのか」

「いますよ。私も連れてかれたことありますし」

「へぇ」


 サッカー部次期キャプテン。いや、そろそろ引き継ぎだろうからキャプテンか。女子生徒から人気あることは知っていたが、そこまでとは。くそ暑い中練習風景を見学されるって。


「というわけで、適度に怪しまれながら探すぞ」

「怪しまれても良いのですか?」


 双葉さんの言葉にしっかりと頷く。


「あぁ。それだけ俺達が焦っていると伝わるからな」


 昨日の接触で俺達を意識しているのはわかったのなら。心理戦を仕掛ける。

 油断を誘うか焦りを起こさせるか。心理戦の目指す結果はこのどちらか。今回誘うのは油断だ。俺達がどうしようもないくらいに追い込まれていること。そしてもう一つ。


「そういえば恵理、あの件は? 飯田は問題無く流したと言っているが」

「あたしもばっちりですよ。にひひ。褒めてもらっても?」

「助かる。流石だ」

「あーりがとうごーざいまーす」


 あとはなるべく目立つように。あちこちに目撃証言が残るように。


「そういえば私達、この辺来たこと無いですね」

「君たちには用が無い場所だしな」


 特別棟の三階。ここは確か、文化部の部室が並んでいる辺りだな。下に行けば職員室。その下には選択科目次第で利用することはあるだろう、被服室とか化学実験室とか調理室とか。


「上はたまに使うかもしれないくらいだ」


 選択科目が重なって教室が足りないので資料室でやります、みたいなことだ。


「センパイセンパイ、学校案内してもらっても?」

「恵理さん……」

「良いよ。まぁついでだ。双葉さんも良いだろ」

「……ありがとうございます」

「あぁ」


 別に案内する程の場所があるわけでもない。


「情報処理室1。真下にあるのが2だ。たまに間違う奴がいる。気を付けろ。3はパソコン部が使うところだから覚えなくて良い。使ったこと無い」

「上から数えると覚えます」


 あとはまぁ。

 図書館棟の一階。


「ここは視聴覚室も兼ねている。学年集会とか。夏休み特別授業とかでも使われる」

「ここは絶対に覚えておかなきゃですね」


 職員室の前を通ると。


「おっ、頑張ってるね」


 布良先生がプリントの山を抱えて歩いていた。


「持ちますよ」

「あらありがとう。紳士だねー有坂君。そして力持ち」

「これより重いの、散々運んでますから」


 職員室に入ると、小田先生が目を伏せたのが見えた。机にプリントを置いて立ち去り際に机を観察するのを忘れない。そこには無いぞと笑みを作ったのも見逃さない。

 そう、戦いは直接争う前から始まっている。忘れてはいけない。


「先輩」

「ん?」


 夕陽に染まる校舎を三人で歩いていると、双葉さんがひょいひょいと袖口を引っ張る。


「あれ」


 中庭の方を目線で示す。その方向を見ると中庭の向こう、窓、立っているのは白髪交じりの痩せ型の陰。眼鏡をかけている。小田先生だ。


「監視されるというのは、心地が悪いねぇ」


 だが、狙い通りだ。

 俺達が探しているという印象。流した噂。


「下準備はほぼ完了した」

「じゃあ、折角ですし。寄り道しましょ。決起集会です」

「あぁ……ありだな」

「夕飯もついでに済みますし」

「同じこと考えてた」

「寄り道……ほわ」

「香澄ちゃん?」

「気にするな。何食べる?」 


 恍惚とした表情を浮かべる双葉さんから恵理の目を逸らし、とりあえず駅前に向かって歩く。


「……めんどくさいのでファミレス行きましょ」

「そうだな」

「ファミレス……放課後にファミレス……ドリア……ほわぁ」


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