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バイト先の毒舌後輩ちゃんの先輩改善計画。  作者: 神無桂花
真面目な後輩は毒舌です。

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20/110

先輩に……告っちゃえ?

 次の日、何回か恵理から質問の電話は来たが、まぁ成果としては上々だろう。それよりも。

 週明けの月曜日の朝。双葉さんの様子が、少しおかしい気がする。

 なんかこう、時たま、睨んでくる。

 いや、元々そんなに好かれていないはずだから、睨まれても無理はないとは思うが、それでも、最近それなりに円滑な関係を築けていたと思うし、少なくとも先週までは常に睨まれるほど嫌われてはいないはずだから。

 電車を降りて高校まで歩いてく道。駅前で双葉さんが俺を見つけてきて、弁当を渡してくれて、それから二人で歩く道。


「じーっ」

「……どうした」


 と聞くが、ふいっと顔を背けて。


「何がでしょうか。私からは特に何もありませんが。前を向いて歩いてください」

「それは君に言いたい」

「私はちゃんと前を向いてます」

「そうか」


 石にされるか燃やされるか、どっちらかを選ばされているような視線を感じていたのだが。

 それからまた、特に何を話すでもなく歩くが。


「じーっ」

「……おい」

「はい」

「どうした」

「はて? 私、先輩に何かしましたか?」

「何かされたわけではないが」


 なんかこう、やはりおかしい。


「あー、言い難いことなら別に良いが、何かあるなら、言って欲しいとは思っている」

「そうですか」


 また無言。先週までならもう少し何かしらの会話、あったと思うが。

 何か、怒っているのだろうか。わからない。


「セーンパイっ、それに香澄ちゃん、おはようございます」

「……おはようございます。恵理さん」

「およよ……センパイセンパイ」

「ん?」


 ポンポンと肩を叩かれ道の端まで引きずって行かれる。


「何でこんなに不機嫌なんですか。昨日何かあったのですか」

「何も無いどころか会ってもいないけど、やっぱりそうだよな。変だよな」

「ご機嫌取りしなきゃダメですよ」

「どうやるんだよ」

「わかりませんよ」

「俺も知らねぇよ」

「お二人とも、遅刻しますよ」

「は、はひ」

「おう」


 これが絶対零度の声って奴か。いやマジで、なんでこんなに機嫌悪いんだ、双葉さん。

 


 教室に着いて一息、はぁ……なんだかなぁ。

 なんか。調子が出ない。ずっと息が詰まってる感じがする。はぁ。


「あのー、香澄ちゃん」

「なんですか?」


 恵理さんがなにやら神妙な面持ちで私の席の前に立つ。


「あのー。なんかあったの?」

「……恵理さんに話しても……」

「なんかはあったんだね」


 沈黙。

 私は沈黙する。

 だって、えっ、もし既に先輩と恵理さんがお付き合いしていたとして。というか、まず、お付き合いしてますか? なんて聞けるわけがない。

 だが恵理さんは、沈黙を肯定と受け取ったらしい。


「言ってみてよ。あたしは、香澄ちゃんのこと、友達って思ってる。だから、その。力になりたい。香澄ちゃんが感じてるその、マイナスな感情を解決できるなら、したいんだ」


 真っ直ぐな言葉が深々と突き刺さり。何というか、恥ずかしくなったというか申し訳なくなったというか。


「ごめんなさい」

「えっ、きゅ、急に謝って。あれ、あたし、振られた?」

「嫌な態度、取りました」

「ううん。それは良いの。機嫌悪い時、誰だってあるもんね」

「……その、寂しく、なって」

「寂しい?」

「うん。寂しかった。先輩も、恵理さんも、遠くなってく気がして」

「え、えーっと、あたしが、香澄ちゃんとサヨナラしちゃうって?」

「先輩と、どんどん、仲良く、なってるし。私と、違って」

「え、えぇ……。香澄ちゃんとセンパイ、仲良しじゃん」

「そんなことないですよ。私、生意気な後輩だと思われてる、と思う」

「えー」


 恵理さんはさっきまでの真剣な表情はどこへやら。どんどん信じられないものを見るような顔になっていく。


「……香澄ちゃん」

「なに」

「告っちゃえ」

「えっ?」

「センパイに告っちゃえ」

「な、な。なぜ」

「それが一番手っ取り早い。もう、まどろっこしい。多少荒い手でも今の香澄ちゃんにはとても有効だよ。告らないならあたし、告るよ」

「えっ、恵理さん、やっぱり。先輩のこと……」

「良いなーとは思うよ。恋とは違うけど、付き合ったら楽しいだろうなー、とは思うよ。カッコいいし頼りになるし」

「な、なっ……恋とは違うのに、付き合うのですか?」

「えっ? 変? 全然あると思うけど。どうする? 香澄ちゃん」


 あ、あぁ。

 気がつけば頭が真っ白。そのまま。


「おい、双葉さん。おい」

「は、はい、先輩」

「ぼさっとするな。始めるぞ」


 気がつけば、放課後。恵理さんは私を見てにんまりと笑みを作る。まるで、ボーっとしてると本当にかっさらっちゃうよ、と言っているようで。

 ど、どうしよう。

 これ、どうしたら良いんだろう。

 わからない、わからない。わかるのは。このままうかうかしていると、事態が大きく動いてしまう、ということ。


「まぁ、こんなものか。こっちの方は手こずらないな、恵理」

「何と言いますか、勉強のコツ、みたいなものが見えてきたして」

「ほう」

「なんかこう、難しいと思ってかかるから駄目なんだって。いきなりできるようになろうとするから駄目なんだって。着実に、基礎から学んで行くのが、一番の近道だなぁって」

「その通りだな。足し算を理解できてない奴に、一次関数ができるわけがないからな」

「だから、ちゃんとセンパイと香澄ちゃんについて行こう、それが今の私の勉強のコツです。他力本願とでも言ってください」

「今は良いさ。自分での勉強のやり方は追々覚えてもらう」

「ってことは、これからもしばらくは面倒を見てくれるってことですか?」

「まぁな。責任は果たす」


 ……恵理さんの声が弾んでいる。嬉しさを隠そうとしない。

 ちらりと、恵理さんがこちらに視線を送ってくる。その目はまるでからかうように、挑発するように、輝いていた。

 どうするの? と。

 どうするって、どうしたら良いの。

 わからない。本当。こういう時、先輩だったら、どう動くんだろう。

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