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バイト先の毒舌後輩ちゃんの先輩改善計画。  作者: 神無桂花
真面目な後輩は決断する。
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どうでも良いよ、センパイ。

 「はえー。センパイ、昔の方が容赦ないんですねぇ」


 俺の話を聞いた恵理はそれだけ言って。


「立候補決めたんですねぇ、良かったです。あ、責任者カスミちゃんかぁ、あ、名前書きますねぇ。やった、一番乗りー」

「いや、感想、それだけか?」

「え? はい、センパイが立候補するの、良かったです」

「そっちじゃない。俺の中学の頃の話」

「? はい。あれ以外特にありませんよ」


 朝、生徒会選挙立候補締め切り当日。今日の昼休みまでに選挙管理委員に推薦人十人を集めて提出しなければいけない。

 俺は最初、恵理のもとを訪れていた。お互い、元の家より学校に近くなったから、こうしてたまに、この時間はほとんど誰も利用しない、特別棟の階段の踊り場で話すようになった。


「香澄はしっかりと怒ってくれたんだが」

「まぁ、カスミちゃんはそうですよ。何事もすべて真正面から全力で受け止めないと気が済まない、死ぬほど疲れそうな生き方を選ぶ人ですから」

「はは、中々な言い草だな」

「あたしの知らない期間のコーセイ君が何していても、目の前にいるコーセイ君が、あたしの知ってるコーセイ君。それ以外は、どうでもいいよ」 


 あっさり言い切って、恵理はよく知っているニッと唇を釣り上げる笑みを見せる。しかしながら。


「それは……どうなんだ?」

「どうなんだって?」

「いや、だって、えー」

「えー?」

「それは……」

「知らないのは怖い、とか?」

「無知は無防備と同じだからな」

「んー、まぁ、確かに。盲目的に信じてるように見えるかな、たぶん」

「そうだな」

「でもまぁ、それでもあたしは、自分の目で見えているものを信じるよ。大切に思っている人も信じられないなら、馬鹿でもアホでも良いよ」


 頭ではわかっている、恵理の言っていることは、おかしいと。でも。


「嫌いじゃないな、その考え」

「あは、お褒めに預かりこーえいだよっ」

「そろそろ行くわ」

「うん、あと九人、がんばれー」

 どうしたものか……とりあえず飯田には登校してきたら頼むとして。




 「先輩、遅くなりすいません。推薦人になりたいという人を連れてきました」

「あえ?」


 教室に戻ると、女子生徒五人ほど引き連れた香澄が扉の前に立っていて。


「おはようございます。有坂先輩」

「わ、本当に有坂先輩だ」

「双葉さん本当に仲良いんだ」

「やっぱ優等生同士惹かれるんだよ」

「良いなぁ」


 香澄はスッと手を差し出したので、まだ空欄が目立つ推薦人名簿を差し出す。


「これで何人になりますか」

「今、恵理からもらってきたから、六人だな。飯田からももらうからあと三人か……」

「そうですか……恵理さん?」

「あぁ。さっきまで話してた」

「もう登校してるんですね……」


 なんか香澄の目がジトっとしたものに変わった。


「そうですか。では、私も明日から始発で登校しますね」

「いや、なぜ」

「別に良いじゃないですか」

「あぁ、まぁ。別に俺が止めることでもないが」


 流石の俺だって、ここまで言われれば察しがつく。この半年、伊達に人と関わってきたわけじゃないんだ。学んだことだって多い。

 自分がよく関わっている二人が、自分には何も言わず二人で楽しく過ごしていた。いちいち報告する義理なんて無いのはわかっていても、寂しい思いはする。そんな感じだろうか。

 ごちゃごちゃ言ったが、要約すれば、のけ者にされた気分なんだろ。

 謝罪する義務も、その寂しさを埋める義理もないだろうが。


「放課後、君もバイト無いだろ」

「え、えぇ」

「美玖がどうしても行きたいってケーキ屋があってな。喫茶店も併設してるやつ。そこのプリンが食べたいらしいのだが、一緒に来るか? 恵理は今日がバイトの初日らしくてな。どうだろう?」

「……良いんですか?」

「あぁ」

「よ、よろこんで。ご一緒させていただきます。しかしながら珍しいですね。美玖さんが」

「あぁ、というか初めてだ」


 美玖が自分からこういうことを言い出すこと。


「まぁその話はあとで詳しくな。ありがとう、君たち」


 ずらっと五人分の名前が並んだ推薦人名簿の紙を受け取る。


「あ、先輩。これ」

「ん? あぁ、もう良いんだぞ」


 差し出された弁当箱を一瞥する。夏休み開けても、相変わらず作ってくれている。


「せっかくできた習慣なので。もっと上手くなりたい、そう思いました」

「あぁ、でも……」


 そわそわと香澄の後ろにいる女の子たちを見てしまう。なんかこう、生温かい視線を感じるのだ。


「顔ユルユルの双葉さん、可愛い」

「ふぇっ」


 そして唐突に聞こえたその言葉に、香澄の頬は一気に紅潮する。

「かわ、かわ、ゆる……くわっ」

「うわ、急に変な声出すな」

「ん、あっ」

「おい」

「失礼。では先輩。そろそろ予鈴がなりますので」

「あぁ。また、放課後に」


 四枠空いてる。飯田は縛り付けてでも書かせるが、あと三人か……。

 これは今まで、人間関係を疎かにしてきたツケが回ってきていると考えよう。

 遠いな、本当。中学時代も苦労した覚えがあるが。あの時はどうしただろうか……。思い出した。予算会議で蔑ろにされがちな文化部の部長を中心に声をかけて、当選したら予算を有利にすると交渉したんだ。


「……どうしたもんかね」


 同じ方法を使って集めるのはなぁ。

 たったの十人の信頼を集められないなら学校を背負って立つ資格はないってことだ。


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